前回までは、2回に亘って米国の緊急時モニタリング体制について紹介しました。第13回の原子力防災情報は、フランスの緊急時モニタリング体制について紹介します。
フランスの緊急時モニタリング体制を理解していただくために、まずフランスの緊急時における対応の仕組みについて簡単に紹介します。
このように、フランスの災害対応は災害の規模などに応じて指揮権を委譲し、対応するレベルを変えていきますが、国の職員である県知事等が指揮権を有することで、災害対応は一貫して国が主導して対処していると考えることができます。
また、全ての緊急時対応を包括的に示したORSEC計画に対して、特定の施設を対象にした緊急計画である特別介入計画(PPI:Plan
particulier
d'intervention)を別に県レベルで作成します[4]。原子力施設は、このPPIの対象であり、当該施設ごとに、あるいは複数の原子力施設が一つの敷地内に設置されているような複合サイトごとにPPIを作成します。原子力施設の事故に伴う原子力災害対策は当該施設のPPIに基づいて実施され、PPIの範囲(すなわち、県の範囲)を超える対策が必要な事態になると、管区のORSEC計画が発動される、あるいは国を挙げての対応が「大規模な原子力または放射線事故に係る国家対応計画」に基づいてCICが司令塔となってなされることとなります[2,10,11]。
最初期において地域の緊急時モニタリングをまず開始するのは、地元のSDISが派遣する放射線対策機動隊(CMIR:Cellules
mobiles d’intervention radiologique)です。CMIRは、放射線等の取扱いの教育・訓練を受けた消防職員の中から選ばれた要員で構成され、ひとつの部隊は偵察チームと対応活動チーム各1チームで構成されています。2010年6月時点で、仏国内に39部隊が組織されています。IRSNの派遣チームがPCOに到着するまでに数時間を要するため、それまでの間、CMIR隊長がPCOの放射線測定班のすべての指揮を担います。IRSNの派遣チームがPCOに到着すると、IRSNの「活動調整」班はCMIRの隊員とともに、測定の技術的な企画・調整を行うとともに、放射線測定班の運用管理と測定や試料採取等の活動を実施します[7]。
IRSNは、緊急時モニタリングにおける国の責任機関であり、すべての緊急時モニタリング活動に参加している機関からの測定データの集約と測定結果の妥当性の確認、分析を担っています。また、ASNに対し、緊急時モニタリングの結果と妥当性を確認したすべてのデータの分析結果とその評価、さらにそれに基づく防護対策等に係る助言を添えて提出します。ASNはそれを基に県知事に防護対策等の措置について助言や事業者への応急措置の勧告をします。
IRSNは、放射線の詳細な分析ができる「環境」分析車3台、モニタリングカー4台の合計7台の特殊車両をフランス国内の5箇所の拠点に分散配置しています。IRSNの派遣チームは、派遣の装備や専用機器の操作をする要員10人を1チームとして構成され、IRSN本部からの出動要請から2時間以内に出発できる体制を常時整えています。
IRSNの派遣チームやCMIRだけでは規模の大きな原子力災害では緊急時モニタリングを実施することはできないため、原子力事業者や政府機関をはじめ、様々な機関がPCOの放射線測定班が行う緊急時モニタリング活動に参加します。その中の主な機関を表2に示します。
緊急時モニタリングにおいて、表2に示した各機関等が採取した環境試料の分析は、大変膨大な数になるため、各機関が動員する現地の移動式の分析機器だけでは測定し切れません。また、寿命の短い核種が含まれているため、短期間で測定を実施する必要があります。そのために、採取した試料は、IRSNやCEA、AREVA社の拠点の研究所はじめ多くの分析施設等に送られ、そこでも分析が行われます。
IRSNは緊急時におけるこのような分析施設の適正な運営を図るためのガイド「研究所における事故後の放射能分析のための実用ガイド」[8]を2011年に作成しています。また、ASNは平時のモニタリングも含めてフランス国内の環境放射能測定機関の資格認定制度を確立しています。資格審査には、IRSN主催の研究所間比較試験も含まれ、2010年1月1日現在、水の放射能分析で56機関、動植物・大気塵・空間線量率に関する分析測定について約40機関、土壌の分析で26機関が認定を受けています[9]。
参考資料
[1]
海外立法情報調査室(門彬):「フランスの憲法改正−新たな地方分権改革法の制定−」、国立国会図書館、調査と情報 第425号(JUL.7.2003)
[2]
服部有希:「フランスの大規模災害対策法制‐民間安全保障に基づくORSEC計画」、国立国会図書館調査及び立法考査局「外国の立法」、No.251、2012年3月季刊版
注:上記文献には“Loi
n°2004-811 du 13 août 2004 de modernisation de la
sécurité
civile”の和文抄訳が掲載されています。
[3](財)自治体国際化協会:「フランスの救急制度」、CLAIR
REPORT NUMBER 290(Sep 15, 2006)
[4]「特定の固定された工作物又は設備に係る特別出動計画に関し、民間安全保障の刷新に関する2004
年8 月13
日の法律第2004-811号第15条の適用のために定める2005
年9 月13 日のデクレ第2005-1158 号」(Décret no
2005-1158 du 13 septembre 2005 relatif aux plASN particuliers
d’intervention concernant certains ouvrages ou installations fixes
et pris en application de l’article 15 de la loi no 2004-811 du 13
août 2004 relative à la modernisation de la
sécurité civile)
[5]
「放射線が係る緊急事態における環境放射能の測定の実施と処理に関する2005
年11 月29 日の省庁間令」(Directive
interministérielle du 29 novembre 2005 relative à la
réalisation et au traitement des mesures de
radioactivité dASN l’environnement en cas
d’événement entraînant une situation
d’urgence radiologique)
[6] Julien Collet and Pierrick
Jaunet:「La surveillance de la radioactivité de
l’environnement : cadre, objectifs, enjeux et
perspectives」およびPierrick Jaunet:「Le Réseau
National de Mesures de la radioactivité de
l’environnement」、いずれもASN Contorole No.188, 「La
surveillance de la radioactivite de l’enviroment」、juin
2010
[7] Comité Directeur pour
la gestion de la phase post-accidentelle d’un accident
nucléaire ou d’une situation radiologique (CODIRPA), Groupe
de travail n° 3:「Évaluation des conséquences
radiologiques et dosimétriques en situation
post-accidentelle」、4 décembre 2010
[8] Institut de radioprotection
et de sûreté nucléaire:「Guide de bonnes
pratiques des laboratoires de mesure de radioactivité en
situation post-accidentelle 」、Rapport IRSN DEI/STEME
n°2011-02、 janvier 2011
[9]
Marie-Noëlle Levelut:「L’agrément des laboratoires
de mesures de la radioactivité de l’environnement」、ASN
Contorole No.188, 「La surveillance de la radioactivite de
l’enviroment」、juin
2010)
[10]
「重大な危機の対策のための政府組織に関する2012
年1 月2 日の首相通達第5567/SG号」(Circulaire du Premier
ministre n° 5567/SG du 2 janvier 2012, relative à
l’organisation gouvernementale pour la gestion des crises
majeures)
[11]
フランス国防安全保障事務局(SGDSN):「“大規模な原子力または放射線事故”に係る国家対応計画(Plan
national de réponse "Accident nucléaire ou radiologique
majeur")」、2014年2月3日公表