国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

平成27年11月26日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

機能性食品の開発に新たな道筋
―植物種皮のアントシアニン蓄積を支配する遺伝子をイオンビームで発見―

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)原子力科学研究部門量子ビーム応用研究センターイオンビーム変異誘発研究グループの北村智研究主幹らは、イオンビーム1)を利用して、元のシロイヌナズナ2)と比較してアントシアニン3)の蓄積の仕方が変化した変異体4)を作り出し、この解析から植物種子の皮(種皮)でアントシアニンの蓄積を支配する遺伝子を世界で初めて発見しました。

アントシアニンとは、日常生活で私たちが目にする可憐な花やカラフルな果実、あるいは黒大豆のような種子の色などを決める植物色素です。また、アントシアニンはポリフェノール5)の一種で、強い抗酸化力を持つことも知られています。植物の細胞内で合成されたアントシアニンが様々な組織で色を発揮するためには、液胞6)と呼ばれる細胞小器官7)への蓄積が必要になりますが、アントシアニンがどのようにして液胞内へ蓄積するのか、そのメカニズムはほとんどわかっていませんでした。しかし、今回、赤い未熟種子をつける特殊なシロイヌナズナを利用することで、種子内のアントシアニンの蓄積量の違いを高感度で検出する方法を確立しました。そして、イオン照射研究施設(TIARA)8)において、この種子にイオンビームを照射し、それぞれの植物が形成する種子を観察して、種皮のアントシアニン蓄積量が減少した変異体の作出に成功しました。この変異体に関する詳細な細胞観察や塩基配列の解析から、種皮の細胞の液胞膜に存在し、アントシアニンの蓄積に必須の遺伝子の同定に世界で初めて成功しました。

本研究成果により、種皮のアントシアニン蓄積機構の一端が明らかになりました。アントシアニンは単なる植物色素ではなく、その強い抗酸化力から、近年では天然の健康増強物質として注目されています。本研究で得られた知見は、抗酸化物質を多く含む機能性食品9)の開発や、新たな色彩を持つ種子や果物・花色を生み出す技術への応用にも繋がると期待されます。

なお、本研究成果は、11月26日に植物分子生物学分野のトップジャーナルの一つであるPlant Molecular Biology誌の電子版に掲載される予定です。

参考部門・拠点: 量子ビーム応用研究センター

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