平成22年1月25日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
倉敷繊維加工株式会社

水系反応による高効率の新しい放射線加工技術を開発
−従来の2000倍高速に金属を除去できる材料の開発に成功−

独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄 以下「原子力機構」)と倉敷繊維加工株式会社(取締役社長 則永正好)は、反応効率の優れたエマルショングラフト重合法1)で金属を高速に捕集できる布を開発しました。この金属捕集布は、実用化可能なコストで合成できて微量の金属を高速に除去できるため、半導体の洗浄液を浄化する材料として用いられることが期待されます。これは、原子力機構量子ビーム応用研究部門環境・産業応用研究開発ユニットの玉田正男ユニット長(兼:金属捕集・生分解性高分子研究グループリーダー)、同機構金属捕集・生分解性高分子研究グループの瀬古典明研究副主幹、倉敷繊維加工株式会社の近石尚樹部長及び竹田俊英主任研究員らによる研究成果です。

原子力機構は、放射線加工技術である放射線グラフト重合に工夫を凝らし、有機溶媒を使用せず環境にも優しい水を用いる「エマルショングラフト重合」を考案し、微量の金属を除去できる材料を従来の1/10以下の放射線量で合成する技術を開発しました。そして、原子力機構と倉敷繊維加工株式会社は、実用的な金属除去材料の共同開発に成功しました。

現在、半導体の高集積化にともない、その製造に用いる洗浄液に含まれる微量の金属を低減させることが求められており、このために洗浄液への有機成分などの溶出が極めて少ない高性能の金属除去材料の開発が望まれています。倉敷繊維加工株式会社は有機溶出成分2)が少ないポリエチレン3)100%の不織布4)を開発し、原子力機構はエマルショングラフト重合を用いて不織布に金属捕集能力の高いスルホン酸基5)を合成して、有機溶出成分が極めて少ない微量金属除去材料6)を共同開発しました。さらに、合成のプロセスを最適化し、製造に必要な線量を従来の1/4の50 kGy7)にまで低減化できました。また、開発した材料は従来の吸着樹脂に比べて2000倍高速に微量の金属を除去でき、有機溶出成分も分析限界値以下であることから、実用化に目処をつけることができました。

このエマルショングラフト重合を利用した材料開発をさらに進めることにより、金属資源や有害金属を回収するコストを低減させることが期待できます。

なお、平成22年3月には、倉敷繊維加工株式会社静岡工場に微量金属除去材料の製造装置を新設し、同年4月から、半導体洗浄液に含まれる微量金属を除去するフィルターとして供給体制を整える予定となっています。

本成果は、平成22年1月26日(火)に高崎市で開催される放射線利用フォーラム2010 in高崎で発表予定です。

以上

参考部門・拠点:量子ビーム応用研究部門

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