【Es】アインスタイニウム実験は、標的を作る作業で予定より時間を費やしています。
— 日本原子力研究開発機構(JAEA) (@JAEA_japan) 2018年5月24日
半減期の短いα放射性核種なので、標的が大きいと必要量が増え線量が高くなってしまいます。
今回作成しているのは、面積が他の核種の実験の2分の1弱となる直径0.8㎜の標的。
これは相当難しいチャレンジです。 pic.twitter.com/19UiCjOjHs
原子力機構は、独自の実験技術の開発により、ごく微量の試料でも可能となるユニークな物理・化学の研究手法を開発しました。この成果がきっかけになり、昨年度、米国のオークリッジ国立研究所(米国エネルギー省DOE管轄、ORNL)は、2003年以来14年ぶりにアインスタイニウム254を生成することを決定、そのうち0.5マイクログラムが原子力機構に特別に供給されることになりました。アインスタイニウム254の半減期は276日と短く、半年のうちに37%が壊変することから、原子力機構では、このチャンスを最大限に活かす、以下の実験計画を進めています。
物質の最小単位である原子は、原子核と周りを回っている電子で成り立っています。原子核は、陽子と中性子で成り立っています。重い元素になるほど、陽子と中性子と電子の数はどんどん増えます。
この原子核が壊れる現象が、原子力発電のエネルギー源としても知られる「核分裂」です。自分で勝手に核分裂(自発核分裂)して壊れていくこともありますが、通常は原子核に余分な中性子が取り込まれた事をきっかけとして起こります。原子力発電でも、原子炉内でウラン235に中性子を取り込ませることによって核分裂が起こっています。
核分裂は、ウラン235の他にも大きく重いさまざまな元素の原子核で起こることがわかっています。しかし、分裂する形状ひとつとってもかなりの多様性があり複雑で、しかも容易に実験することができないため、詳細なメカニズムはほとんどわかっていません。
今回の実験では、原子力機構のタンデム加速器(茨城県東海村)で加速した原子核の中性子や陽子の一部を、アインスタイニウム254の原子核に吸収させることで100番元素フェルミウム(Fm)以上の中性子の多い原子核を生成し、多くの種類の原子核の核分裂を調べます。ここでは、原子力機構が昨年度、世界に先駆けて開発したユニークな核分裂測定技術を使います(「重イオン反応による新たな核分裂核データ取得方法」2016年8月26日プレス発表)。
このフェルミウム領域の核分裂では、原子核が持つ中性子の数がひとつ変わるだけで、分裂の仕方が劇的に変化することが知られていますが、アインスタイニウム254を使わないと生成できないため、ほとんど解明されていません。
今回の実験では、原子核の中で何が起こっているのか、未だわかっていない複雑な核分裂のメカニズムを世界で初めて詳細に調べます。
核分裂のメカニズムが解明されることで、天体での元素合成を通じて物質の起源を理解するなど、広い分野へ波及することが期待されます。
アインスタイニウムについては、物性がほとんどわかっていません。原子力機構では、SPring-8(兵庫県佐用町)の放射光実験施設において、0.1マイクログラムの極微量試料であっても溶液中の分子の構造を高精度で調べる実験技術を開発してきました。
今回は、極微量のアインスタイニウムを水に溶かしてカプセルにいれた試料を、SPring-8の放射光を使って測定し、アインスタイニウム元素まわりにどれくらいの水分子がどの位置で配置されているかを世界で初めて観測する実験を行います。
最も重い元素のデータが得られる今回の実験により、アクチノイド系列元素の水中での複雑な化学挙動が明らかになります。
これらの成果や極微量試料の測定技術の確立は、アクチノイド化学でのブレークスルーとなり、東京電力福島第一原子力発電所のデブリ処理、高レベル放射性廃棄物の処理処分や、核変換技術に必要となる群分離などにつながることが期待されています。
アインスタイニウムを用いた今回の実験は、原子力機構がタンデム加速器とSPring-8において開発した新しい測定技術、そしてオークリッジ国立研究所と進めてきた共同研究により実現しました。また、アインスタイニウム254は短寿命であるため、極微量でも高い放射線量を取り扱わなければなりません。原子力機構が有する、強い放射性試料を安全に取り扱う施設と長い間の経験、また長い年月、多くの研究者によって受け継がれてきた研究の知見が、これらの実験の礎となっています。
原子力機構ならではのユニークな実験が、今まさに進められています。
(更新:2018年5月24日)
※このページは研究の進捗にあわせて更新してまいります。