ウクライナの原子力情勢について

皆様からいただいたご質問等について、以下のとおりまとめました。

ウクライナの原子力施設等について

  • ウクライナのエネルギー事情、原子力政策、原子力発電開発の状況は?

    以下の原子力百科事典 ATOMICAをご参照ください。

    日本原子力産業協会Webサイトにおいては、以下のとおり記載されています。

    世界原子力協会(WNA)Webサイトにはウクライナの原子力動向に関する詳細な情報が掲載されています。

  • 1986年に事故を起こしたチョルノービリ原発の現状は?

    チョルノービリ原発で事故を起こした4号機は、事故後大量の作業員を投入して放射性物質を封じ込めるための「石棺」と呼ばれるコンクリートの建造物で覆われました。しかし、年月の経過とともに雨水による腐食や内部の放射性物質からの放射線による劣化が進んだことから、放射性物質を閉じ込め、石棺や4号機建屋の崩落を緩和するなどの目的で石棺を覆う鋼鉄製シェルター(新安全閉じ込め設備(New Safe Confinement))が世界45カ国の国際支援で2017年に設置されました。現在、原子炉の状況や放射性物質のモニタリングなどが行われている状況と承知しています。
    また、同発電所内の1~3号機については、2000年12月までに全ての運転を停止しています。

  • 侵攻があったとされるザポリッジャ原子力発電所はどのようなもの?

    IAEAの動力炉情報システム(PRIS)によれば、ザポリッジャ原子力発電所には6基の発電炉があり、全てがロシア型の軽水炉のVVER-1000(100万Kw)です。

    出典:IAEA PRIS

  • ウクライナの原発は一部の炉型で格納容器が無いなど安全上の問題が指摘されていると聞くのですが?

    VVER-1000には格納容器があります。格納容器がないのはVVER-440というロシア型のPWRで、リーウネ原子力発電所に2基設置されています。しかし、この2基はVVER-440の第2世代「VVER440/V213」であり、安全基準を満たしていると言われています。

  • ウクライナにある原子力発電所の運営主体は?

    IAEAの動力炉情報システム(PRIS)によれば、国営企業であるEnergoatom(エネルゴアトム)社が運営しています。

  • 侵攻があったとされるハルキウ物理技術研究所はどのようなもの?

    国立科学センターハルキウ物理技術研究所は1928年に設立されたウクライナ物理技術研究所(UPTI)が前身であり、旧ソ連における原子力発電及び核兵器の開発に寄与しました。ソ連崩壊後は、ウクライナで最初の国立科学センターとしてのステータスを付与されました。

    ハルキウ物理技術研究所は、以下の研究所から構成され、核物理、固体物理、生物学、医療用アイソトープ生産及び核変換に関する基礎研究や応用研究を実施しています。

    • 固体物理学・材料科学・技術研究所
    • 高エネルギー物理・核物理研究所(IHENP)
    • プラズマエレクトロニクス・新加速手法研究所
    • Akhiezer理論物理研究所
    • 放射線研究と環境保護研究室

    出典:National Science Center Kharkov Institute of Physics and Technology

  • ハルキウ物理技術研究所にあるとされる加速器駆動未臨界炉とはなに?

    ウクライナと米国(アルゴンヌ国立研究所)の協力により建設された中性子を発生させる施設・装置であり、核物理、固体物理、生物学、医療用アイソトープ生産及び核変換に関する基礎研究や応用研究に用いられています。電子線加速器と金属のターゲットを組み合わせて中性子を発生させ、その中性子を未臨界炉の中で「増やし」、上記分野の研究開発に供します。未臨界炉とは、低濃縮ウランを燃料として用い、原子炉に似た構造を有しますが、臨界に達しない設計で受動安全性を持ちます。加速器の出力(Average Power)は約100 kWであり、未臨界炉部分の出力は約350 kWです。

    出典:
    A.Y.Zelinsky, et al.,"NSC KIPT NEUTRON SOURCE ON THE BASE OF SUBCRITICAL ASSEMBLY DRIVEN WITH ELECTRON LINEAR ACCELERATOR", Proc. of IPAC2013
    "Licensing of the Neutron Source in Ukraine: Challenges and Solutions"

  • ハルキウ物理技術研究所にある加速器とはどういうもの?

    ハルキウ物理技術研究所には、電子を加速する線形加速器があります。線形加速器の基本構造は、多数の導体の筒を一直線上に並べ、隣り合った筒の電気的極性が異なる(プラスの筒の隣はマイナスの筒になる)よう電圧を印加します。それぞれの筒の間には電場ができ、この電場によって荷電粒子(ハルキウ物理技術研究所の場合は電子)が加速されます。加速器では電場の印加方法を上手く調整することで、高いエネルギーまで荷電粒子を加速することができます。

    ハルキウ物理技術研究所にある電子の線形加速器は、エネルギーが100 MeV(1億電子ボルト)、出力パワーが100 kW(100キロワット)です。

  • ハルキウ物理技術研究所と原子力機構との協力関係は?

    協力は実施されていません。

  • 核セキュリティ上、原子力発電所等は戦争に巻き込まれることを想定の上で防護されているの?

    IAEAなどが定める国際的なガイドラインによれば、一般的な核物質防護は、非国家主体(テロリスト)から、核物質や重要な設備を守るための措置です。国際的なガイドラインにおいて国家による攻撃といった脅威は必ずしも想定されていないとされています。

  • ウクライナをはじめ世界、日本の原子力施設の警備はどうなっているの?

    ウクライナではNational Guard of Ukraine(国の軍の部隊)が原子力発電所を防護するとされています。原子力施設の警備に関しては、国による法整備により軍隊や警察によるものや、銃を所持する警備員が対処するケースもあり様々です。

    現在の日本の原子力施設においては、事業者(警備員)により警備が行われていますが、銃刀法により銃火器の所持が認められていません。事業者が不法行為を検知した際は、治安当局に迅速な通報を行い、銃を所持する治安当局が対処することとなっています。

その他

  • ウクライナにおける放射性物質の漏えいなどの被害について、予測・評価できるの?

    放射性物質の漏えい量は、環境モニタリングデータから大気拡散解析などにより逆推定することができます。それに基づく大気拡散解析と環境モニタリングデータの組合せにより影響の予測・評価を行うことが可能です。チョルノービリ原発事故、東京電力福島第一原子力発電所事故の際も同様の手法により予測・評価が行われました。

  • ロシア・ウクライナ情勢で、万が一のことがあった場合には、放射能を測定できるシステムはあるの?

    日本においては、CTBT(包括的核実験禁止条約)の国際監視制度施設としての放射性核種監視観測所が高崎と沖縄(恩納村)の2カ所にあり測定できます。2018年より核実験検知能力強化を目的として、青森県むつ市と北海道幌延町に核爆発の検知に有効な放射性キセノンのバックグランド測定を行う移動型希ガス観測装置が期間限定で設置されています。

    放射性物質の漏えいが発生し、CTBT放射性核種監視観測所に放射性物質が到達した場合、放射性物質を検出できる可能性があり、観測データは漏えい量の大まかな推定に活用できます。ウクライナに比較的近いCTBT機関の観測所はロシアのドブナとキーロフにあり、粒子状放射性核種を観測しています。

  • ウクライナで放射性物質の漏えいなどが発生した時、WSPEEDI(世界版緊急時環境線量情報予測システム)等による拡散シミュレーションはできるの?

    WSPEEDIによる拡散シミュレーションは、ウクライナでの放射性物質の漏えい地点の周辺地域を対象とした予測・評価や日本への飛来予測も可能です。