第9回 原子力機構報告会
「変革の時~新たなる出発に向けて~」

開会にあたって (テキスト版)

開会にあたって
理事長 松浦祥次郎

○松浦理事長 本日は、お忙しいところ、原子力機構の第9回成果報告会に御参集いただきまして、まことにありがとうございます。
 私は、昨年(平成25年)6月から理事長を務めさせていただいております松浦祥次郎でございます。開会に当たりまして、一言御挨拶を申し上げたいと存じます。
 本日の報告会ですが、副題として「変革の時~新たなる出発に向けて~」という標題が掲げられております。非常に正直に申し上げまして、これが現在の原子力機構を極めて端的にあらわしていると私は思っております。本日の報告会は第9回ですので、この標題と比べますと、普通ならやや違和感をお感じになられるような気がします。こういう標題は、組織ができて15年か20年たったころにふさわしい標題ですが、第9回というのは、この原子力機構がまだ若い組織ということです。その若い組織が、既に変革のときに当たって、そして新たなる出発に向けてということで報告しないといけない、あるいは報告するというのが現在の状況でありまして、これはとりもなおさず、これまでの原子力機構のあり方について根本的に改革をしないといけないという状況に立ち至った。そして、それをこの1年間しっかりやった。その結果、次への準備ができて、これからそれをやっていきますというお話をすることになったわけです。したがいまして、私の後で講演するそれぞれの担当者からは、この1年間に原子力機構が改革としてどういうことをやったか、また改革の結果、今後何をやっていくか、またその途中でも何をやってきたか、この副題にふさわしいテーマについてご報告させていただきたいと思います。

〔パワーポイント映写。以下、場面がかわるごとにP)と表示〕

P1) 私の話は、最初の御挨拶としてはやや異常かもわかりませんが、この原子力機構改革について私がどのような心を持って臨んだかということ、一方、原子力機構の改革の仕事をしながらも、原子力機構としては、当然のことながら、研究開発機関として着々と研究をしないといけない。その中でどのような主な成果を出すことができたか、そして今後それらを踏まえてどういう方向で原子力機構が仕事をしていくべきか、仕事をしようとしているか、そのようなお話をさせていただきたいと思います。
P2) 原子力機構改革については、きょう御参集の方々はおよそお聞きになっていると思いますし、中にはかなり詳しく御理解の方々もおられると思いますが、ここにございますように、もんじゅの保守管理不備、J-PARCハドロン実験施設放射性物質の漏えい事故、こういうことがきっかけになりまして、文部科学省は原子力機構を根本的に改革すべきであるという決定をなされました。そして原子力機構にそのことを指示されたわけです。原子力機構はそれを受けて改革のための計画をつくりまして、昨年(平成25年)10月1日から今年(平成26年)の9月30日までを集中改革期間として改革を取り進めてまいりました。その成果と、今後どう進めていくかということを取りまとめまして、「日本原子力研究開発機構改革報告書」を本年(平成26年)10月2日に文部科学大臣に提出したわけです。
 こういう仕儀(しぎ)になりましたのは、先ほど申しましたもんじゅの問題とJ-PARCの問題がきっかけであったわけです。しかしながら、私が任命されたのは、文部科学省でこういうことを決定されたすぐ後ですので、この改革をすることが私のこの1年あるいは1年半の仕事であったわけですが、これに立ち向かいましたときに、私は、これは非常に大変だなと思わざるを得なかったわけです。もんじゅだけの問題、あるいはJ-PARCだけの問題でしたら、原子力機構全体を改革する必要は必ずしもないわけですが、もんじゅの問題、あるいはJ-PARCの問題が起こったその後ろにある問題、原子力機構全体において問題の根幹を持っているのではないかということがあるわけでして、このことから、むしろ原子力機構が、もともと旧日本原子力研究所と旧核燃料サイクル機構が統合されてできたその機関が、統合の成果を十分出さない中で、じわじわといろいろな課題が積もり積もって、ついにその一端がもんじゅの問題あるいはJ-PARCの問題になったのではないか、そう見ざるを得ないところがありまして、それをも考えて改革を進めようとしますと、その問題の大きさ、複雑さ、多様さに非常に大きなストレスあるいは圧力を感じまして、ここに「嶮しく困難な岩壁に立ち向かうかのような緊張感を覚えた」と私は表現しましたが、実は私はもともと山登りが好きで、大学のころは散々岩登りをやったのですが、そのときの気分を思い出して、改革に立ち向かうときにこういう気持ちにならざるを得なかったわけです。
 しかし、一方、原子力機構としてはこの改革をやり遂げなければ、日本の中で唯一の総合的な原子力研究開発機関としての使命を果たす、しかも社会からの信頼を得ながら使命を果たすことはできないわけですので、とにかくこの改革を徹底的に進めようという決心をせざるを得なかったわけです。
 そして、職員一人一人がどのように気構えを改めるか、あるいは今後仕事に対して覚悟を決めるかを確かめる、あるいは我々の考え方を伝えるために、なるべく多くの職員と対話をすることを一番のベースに置きながら改革を進めたわけです。
 そして、この改革がどう進んでいるかということをいくつか確認しながら進めさせていただきました。
P3) この改革の内容につきましては、後ほど田島戦略企画室長が詳しく申し上げますので、私はそこのところは失礼いたしますけれども、少なくとも組織を変える、すなわち器の仕組みを変えるということと、その中で仕事をする職員の意識、心を立て直すということを必死になってやったわけでございますが、それについて、いろいろな視点からある程度の成果が得られたと最終段階では考えることができたわけです。
 これに関しまして特に私が感じましたのは、この改革が何をもたらしたか、何を生み出すことができたか、今後さらに何を改革の続きとしてやらなければならないかということを、各組織の部長クラスの職員に直接電話で一人ずつ問いかけて、その答えをもらったこと、そして最終段階で各職員個人個人に、インターネットでですが、問いかけて、その反応を見たこと、そういうことから感じることができたわけです。
 ただ、残念ながら、もんじゅに関しましてはさらに深い問題がありまして、これは集中改革期間の9月末日までに課題を完全に終えることができず、もんじゅに関しては集中改革期間を半年延ばして、第2期中期計画の最終であります来年(平成27年)3月まで改革を進めることにしたわけでございます。
P4) 実は、この改革の中で、職員が最初どのように感じて、それがどう変わっていったかということを確かめるために、3度にわたってアンケート調査をいたしました。
 ここにはアンケートのうち5項目についてのみ結果を示しておりますが、全体としては27項目の問いかけをしたわけです。全体の傾向として、改革が進むごとにだんだんとプラスの方向に動いていたということが確かめられたわけです。最初の段階ではほとんどネガティブな反応があったものが、だんだんとポジティブになっていった。これで少なくとも改革の結果として次の段階の準備ができたと私は感じたわけです。
 特に私が心強く思いましたのは、こういうアンケート調査は割に回収率が悪いものですけれども、第1回のときに既に回収率は75%ぐらいありまして、第2回、第3回のアンケートの回収率は95%、あるいはそれを超すような回収率でしたので、職員がかなり意識を深く持ってこれに携わってくれたと感じたわけです。
P5) 今回、この集中改革期間を終了いたしまして、少なくとも当初目的としたいくつかの課題については一定の成果を得られた。例えば、事業の一部分を他の法人と統合させて新しい原子力機構をつくるとか、原子力機構の事業自身として将来どういう方向でどのように進めていくか、またそれについての職員の意識がどう変わったかを確認できましたし、これによって今後継続的に改革を定着させていくことができると感じたわけです。
 もんじゅの問題は最重要課題ですが、これにつきましても、保守管理体制あるいは品質保証体制を再構築するという仕事が今も続いているとはいえ、相当に進みまして、もう二度と、かつて(原子力)規制委員会から措置命令を受けたような状態に立ち戻ることはないという確信を得ることができるようになりました。今後、この中期計画が終わるまで集中改革を継続しまして、この目的を達成したい、それについては私自身が常に先頭に立つことを心がけてやっていこうと思います。
 しかしながら、最初に述べましたように、このようなまだ若い状態のときに社会に対していろいろ御迷惑をかけたり、御心配をかけたり、あるいは厳しい批判を受けたということは理事長として非常に遺憾なことでありまして、責任を痛感しているわけでございます。しかしながら、この集中改革におきましても、今最も重要な問題となっております福島の問題とか、今後原子力機構が何に努力を集中していかないといけないかということについては、かなりはっきりとした目標あるいはそのやり方についての計画等も立てることができましたので、こういうことになったのは皆様方からのいろいろな御鞭撻、御支援のおかげだと感謝しているわけでございます。
P6) 一方、本日の報告会は、先ほども言いましたように、現在の中期計画の目標期間における最後の報告会です。したがいまして、今のところ何が一番重要で、どういう成果を上げているかということ、あるいは今後何をやるべきかということが非常に重要な問題ですので、それについてのトピックスをいくつか、私の最初の御挨拶の中で述べさせていただきたいと思います。
 特に、ここに書きましたように、この4月に政府が、エネルギー基本計画におきまして、原子力発電は非常に重要な基盤的なエネルギー源として重要であると。また、もんじゅに関しては、非常に長寿命として問題となっている高レベル廃棄物の減容に十分役立つ可能性があるからしっかりやるようにと、もんじゅの位置づけがしっかりされたということは、職員に対して非常に意欲をかき立てる位置づけでありまして、これは非常に心強いものと考えております。
 以下、今年(平成26年)1年の間にどういうトピックス的な仕事ができたか、そして今後どういう点に重点を置くかということについて、やや項目的ではありますけれども、簡単に述べさせていただきまして、御挨拶にしたいと思います。
P7) パワーポイントに細かい字があり過ぎて、後ろのほうは見づらくて申しわけないのですが、簡単に申し上げます。
 まず1番目は、J-PARCの線型加速器における400MeVの加速に成功したという問題ですが、これは本質的にはどういうことかといいますと、J-PARCは非常に強いビームを出すものですが、ビームが強くなることによって将来の研究の成果が非常に多くなり、かつ質がよくなる。そのために、出力を1MWのビームにしたいということがかなり最初からの目標でありまして、それが達成できる加速器の部分が、ちゃんとでき上がったということです。私は、これは世界的な成果だと思いますし、また専門分野でもそのように評価されていると伺っております。この問題は、現在どんどん進んでおります。例えば、結晶をつくるのが非常に難しいタンパク質の解析等にこういう強いビームが非常に役立ちますし、これから進めようとしております長寿命核種の核転換の仕事、それは加速器を使ってやるという仕事にこのJ-PARCが大きい力を発揮すると思いますが、そのための準備としても非常に大きな役割を果たすものです。
 もう一つここに書きましたのは、(東京電力)福島(第一原子力発電所)事故に対応する一般公衆を対象とした内部被ばく検査実施手法の考案です。これは、今まで原子力機構が培ってきました放射線の測定技術を使いながら、装置や測定方法、評価、検査結果の伝達までを網羅的に組み上げたシステムをつくったわけです。それによって22万人ばかりの人たちを測定しておりまして、そのうち原子力機構だけでも7万3,000人の人を測定しているところで、この結果は国連科学委員会の報告書でもリファーされるなど、国際的に非常に高い価値の成果として認められるものです。写真がはっきりしませんで、どういう測定方法かというのが見られないのが申しわけありませんが、そういう成果を得たということです。
P8) これは、1F(東京電力福島第一原子力発電所)事故に対して今後進めていく、楢葉につくっております遠隔技術開発センターのビルディングの完成予定図ですが、今これをせっせとつくっているわけです。今後は、こういうものを使いまして、遠隔操作や測定を国際的に協力しながらやっていく。
 こちらは安全研究でして、特に原子力防災に関する研究をどんどん進めまして、事故のときにどのように対応することで被ばくを小さくするかという成果を出したわけです。
P9) 基礎基盤研究では、新しく高温ガス炉での実験が進めることが認められまして、最も重要なのは高温ガスの安全性をより精度高く確認するわけですが、その次に、それを使っての水素製造を進めるための基礎的な、むしろパイロットプラント的な実験装置を完成したということです。
 それから、廃棄物の中で特にウラン廃棄物が非常に問題ですが、それを高精度に測る装置が人形峠のセンターにできました。
 高速炉に関しましては、最も重要なのは高速炉の安全基準をどうするかということですが、国際基準をつくるために国際的な活動の中でせっせと協力してこの仕事を続けているということであり、また、フランスの協力で次世代の高速炉技術を開発するための研究協力をする、その技術提携の実施取り決めを行ったということがあります。
P10) また、核融合では、今、ITERが進んでおりますけれども、ITERをどんどん進めるための装置、あるいは、より核融合の研究を広げるための加速器の開発、あるいは計算機の開発等を進めているということ。
 そして、高レベル放射性廃棄物処分技術の研究開発では、幌延や瑞浪の深地層研究所で次々と基本的なデータを出しているということがあるわけです。
P11) 今後の方向ですけれども、今回の改革がどういう意味で起こったか、またそれをどう受けとめ、どう将来に生かすかということが今後非常に重要なことでして、特に安全に関して原子力機構は意識が低いのではないかという批判を受けたことについては、もう一度はっきりと安全に関する重要性を認識し、安全の完全性、統合性、誠実さを絶えることなく積み上げていく、そして、原子力利用の新たな可能性を切り開き、原子力利用の課題をどの社会のセクターよりも早く予見し、それを乗り越えていく段取りをするというのが原子力機構の本来のミッションであり、その研究開発を先導していく、こういうことが今後の最も重要なことだと認識したわけでございます。
P12) 最初にも言いましたが、問題は、2つの法人が統合して、その統合の効果がどうだったかと言われたことに対しては、まさに統合したことの成果が福島の事故の問題にどう対応するかということについて着実にあらわれておりまして、今後経験を積み重ねながら、ニーズオリエンテッドな研究開発とシーズオリエンテッドな研究開発を連携・統合して原子力機構の仕事をどんどん進めていくことが最も重要であり、かつ、そのためには、今後、どの分野においてもリーダーが必要ですが、分野だけではなく、各階層、経営の層、研究所長の層、部長の層、課長・室長の層、グループリーダーの層、この各層についてのリーダーの育成が最も重要ではないかと考えまして、それに注力していきたいと考えているわけでございます。
P13) 最後ですけれども、今回の改革は、原子力機構の安全意識を再構築し、使命を再確認する、それによって原子力機構の再生を図るという企てでした。
 部分的ではありますけれども、その課題に対してある程度近づくことができたと考えておりますし、今後これをベースにしながら、立てた目標から逸脱することなく、さらに改善・向上を進めて、将来の原子力機構の活躍に資したいと考えております。
 再び同じことを申し上げますが、我が国唯一の原子力総合研究機関といたしまして、その原点に立ち返りまして、国民の負託に応えるべく、原子力研究開発を先導的に切り開くという原子力機構本来の使命達成に向けて新しく出発したいと思います。
 この改革の中で私が常に職員に申していますのは、研究開発機関の人間は常に自分の心、知識を新しくすることをぜひ心にとめてもらいたいということで、古い言葉ですけれども、「苟日新 日日新 又日新(まことに日に新たに、日日に新たに、また日に新たなり)」、日々自分がどれだけ進んだか、どれだけ向上したかを振り返りながら毎日を送ってもらいたいと述べているわけでして、こういうことで、原子力機構が今後この改革をベースとして発展するように最大限の努力をしたいと思いますし、皆様方からの今後の絶えざる御鞭撻・御支援をお願いいたしたいと思います。
 以上で私の御挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。