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令和5年度萌芽研究開発制度 溶融塩電解による土壌粘土鉱物からの熱電変換材料創製
― ありふれた塩と土壌から、熱を電気に変える材料を創り出す ―

原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター 放射光エネルギー
材料研究ティビジョン アクチノイド科学研究グループ マネージャー・研究副主幹
本田 充紀

私たちは、地球上に豊富に存在する土壌粘土鉱物から溶融塩法を活用して機能性材料を創り出すことを目指しています[1, 2]。機能性材料の1つとして熱を電気に変える熱電材料に注目しています。日常生活を支えるエネルギーの中には、利用されずに失われていく「廃熱」という形のエネルギーがあります。この廃熱を再利用し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指して、我々の研究チームは粘土鉱物から熱電変換材料を創出するための革新的な技術を開発しました。土壌を利用した熱電材料の有用性を示すためには、熱電材料の変換性能を正しく評価する必要があります。熱電材料の変換性能は、無次元性能指数で表されます。具体的には ZT = ゼーベック係数の二乗×導電率×絶対温度÷熱伝導率、で表されます。このために、我々は本制度の支援により、熱電材料の3つの物性を同時に測定できる熱電特性評価装置特型 (OZMA-1-S1, オザワ科学社, 日本)を導入しました。従来の方法では、導電率とゼーベック係数の測定、および熱伝導率の測定には異なる試料形状が必要で、それぞれ個別に測定を行っていました。そのため、得られるZTの信頼性に問題がありました。今回新たに導入した装置は、試料形状が同一であり、高精度な測定が期待できます。


図1 (左)熱電特性評価装置特型と試料および電極設置図と(右)粘土鉱物を溶融塩処理した試料の導電率

我々は、粘土鉱物および溶融塩処理した粘土鉱物の試料を使用しました。具体的には、NaCl-CaCl2混合塩(1:1)およびKCl-CaCl2混合塩(1:1, 3:1, 1:3)を使用し、試料と混合塩を同じ質量で混ぜ合わせて作製します。その後、700℃で2時間加熱し、自然冷却させます。その後、塩分を取り除くために複数回の水洗いと遠心分離を行います。水分を取り除いた試料は80℃で乾燥し、直径16mmの円形ペレットに加圧成型しました。その後、加熱炉で焼成し、研磨器で削り出して5mm×13mm×1mmのサイズにして物性評価を行いました(図1(左))。

図1(右)は、熱電特性評価装置を用いた各試料の650℃から850℃の温度範囲における導電率測定結果です。室温から650℃の温度範囲においては導電性が得られませんでした。しかし、650℃以上の温度範囲では、導電率は10 5 S/cmから10 4 S/cmの範囲で示されました。粘土鉱物はSiO4骨格を有する結晶構造です。通常、SiO2で構成されるガラスの導電率は10 13S/cmオーダーで、BドープされたSi半導体では105S/cmのオーダーです。つまり、粘土鉱物の650℃から850℃の導電率は、半導体とほぼ同程度であることが明らかになりました。図2は、粘土鉱物および溶融塩処理した粘土鉱物のゼーベック係数の測定結果を示しています。ゼーベック係数の正負の値は、熱電変換材料におけるp型とn型を示します。今回得られたゼーベック係数は正の値を示しており、キャリアが正孔であることが明らかになりました。粘土鉱物および溶融塩処理した粘土鉱物の熱拡散率測定結果では溶融塩処理した粘土鉱物では、700℃までの温度領域において粘土鉱物(0.02mm2/s)の場合と比較して約半分の値(0.01mm2/s)であることを確認しました。良好な熱電材料の性能指標は、高い導電率および低い熱拡散率であることから、溶融塩処理した粘土鉱物は熱電性能が向上するために必要な熱拡散となっていることを確認しました。粘土鉱物および溶融塩処理した粘土鉱物の構造は、大きく分けて2つに分類されます。1つは粘土鉱物が持つ層構造を保持しており、粘土鉱物の層間に混合塩のアルカリ塩が吸着する過程です。もう1つは粘土鉱物の層構造が破壊されて、元の粘土鉱物とは異なる構造に変化する過程です。粘土鉱物に対してCaCl2-KCl混合塩を作用させたときは層構造を保持していることが分かりました。一方でNaCl- CaCl2混合塩を作用させたときは、元の粘土鉱物の層構造が破壊され、異なる粘土鉱物に変化する傾向を明らかにしました。これは混合塩中のCaイオンの作用の仕方によるものと考えられます。本研究の成果を基にして『土壌粘土鉱物を利用した熱電変換材料創製』の課題が令和4年度の科研費挑戦的研究(萌芽)に採択されました。

以上のようにして得られた結果から無次元性能指数ZTの算出式より導入したZT値について、粘土鉱物および溶融塩処理した試料についてのZTを図3に示しました。粘土鉱物と混合塩(CaCl2-KCl(3:1))を700℃で溶融塩処理した試料において、993KにおいてZT=0.0014の結果が得られました。このZT値は試料の粒径や焼結時の条件により性能が向上する傾向にあります。今後はこれらの条件を最適化することにより、高性能な熱電材料の創製に取り組む予定です。イノベーションチームのサポートと協力により、当研究成果を基にした特許出願を行うことができました。「ワダライト及びワダライトの製造方法に関する特許」(特願2023-101148)


図3 粘土鉱物および粘土鉱物を溶融塩処理した試料の無次元性能指数ZT

参考文献

[1] M. Honda et. al., Proposed Cesium-free Mineralization Method for Soil Decontamination: Demonstration of Cesium Removal from Weathered Biotite, ACS Omega, 2(12), 8678-8681(2017)
[2] M. Honda et. al., EXAFS investigation of strontium adsorption onto weathered biotite, AIP Advances, 13, 0153114(2023)
[3] M. Honda et. al., Sustainable Thermoelectric Materials: Utilizing Fukushima Weathered Biotite via Molten Salt Treatment (under review)

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