独立行政法人日本原子力研究開発機構：JAEAメールマガジン　No.210

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平成23年度安全研究センター成果報告会を開催

安全研究センターは、研究成果の発信や提言を通して原子力の安全確保に貢献するとともに、社会に対してより一層の説明責任を果たすことが責務と考えています。東日本大震災による東京電力(株)福島第一原子力発電所の事故で、人の健康と安全そして環境への脅威が現実のものとなってしまった今、私たちは安全研究の専門家集団として改めて安全確保の重要性を認識し、それを支援する安全研究のあり方について議論すべきと考え、今年1月17日に富士ソフトアキバプラザ（東京都千代田区）において「平成23年度　安全研究センター成果報告会」を開催しました。
　今回の報告会では「福島第一原子力発電所事故に係る研究」をテーマとしました。ただし、事故関連研究で得た結果を私たちの「成果」と位置づけたわけではありません。当センターは、事故の直後から今日に至るまで、事故の評価・分析および環境影響評価などを通して国を挙げた事故対応に加わってきましたが、そこでの貢献は私たちがこれまでの研究で蓄積した知見や経験があって初めて可能となったものです。そこで、今回の成果報告会では、これまでの研究成果に基づいて実施した福島原発事故の評価・分析の事例を中心に4件の技術報告を行いました。また、休憩時間を利用して各研究グループの研究トピックスについてポスターセッションを行いました。
　最初の2件の報告はいずれも原子炉の熱水力挙動に関するもので、一方は詳細解析コードを用いて福島原発事故における原子炉の挙動を再現して早期注水の重要性を改めて示した研究、もう一方は事故直後の限られた情報のみから原子炉の状態を把握するために当時行った簡易評価ツールの開発に関するものです。異なるアプローチによる評価ですが、同じ原子炉に対する適用例では共に格納容器からの漏えいの発生が示唆されるなど同等の結果が得られており、それぞれの利点を活かした使い分けの有効性が示されました。3件目の報告は事故時に放出されるよう素の化学形（よう素単体なのか、他の物質との化合物なのかなど）の評価に関するものです。よう素の沈着挙動は化学形に影響されるため、施設外に放出される量や放出後の降雨により地表に到達する量を推定するためには条件に応じた化学反応まで含めた評価が重要です。事故解析コードに化学計算コードを連携させた評価の例を紹介し、今後の開発計画を示しました。4件目の報告は、事故処理で発生する脱水汚泥、災害廃棄物および汚染した稲わらの処理工程における作業者と周辺住民の被ばく評価に関するものです。評価結果は環境省の方針決定やガイドライン策定に反映され、福島県の環境回復に向けて非常に実際的な貢献を果たしました。
　以上の報告に対し、約110人の参加者から様々なご質問、ご意見をいただき、福島原発事故から得た教訓を踏まえた今後の安全研究の方向性について討論を行いました。ここでの議論を今後の安全研究センターの活動に活かしていく所存です。なお、今回の報告およびポスターセッションの資料をとりまとめ、JAEAレポートとして公開する予定です。

（安全研究センター燃料安全研究グループ　杉山　智之）