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ここウィーンでは9月29日から1週間、毎年恒例のIAEA(国際原子力機関)総会が開催され、140カ国以上の加盟国から代表団が集まりました。原子力利用が更なる広がりを予測させる中、原子力のエネルギー利用をはじめとする、様々な利用への支援、また原子力安全や平和利用の確保などに対するIAEAの役割の重要性が確認されました。日本からは松田岩夫元科学技術政策担当大臣を政府代表とする代表団が出席し、演説では、核不拡散・保障措置、安全、核セキュリティの重要性等を強調するとともに、今般、日本政府として来年の次期IAEA事務局長選挙に擁立することを決めた天野之弥在ウィーン日本政府代表部大使への支持を呼びかけました。
オーストリア国内に目を移しますと、7月に社民党及び国民党からなる大連立内閣が両党間の政策不一致により解散したため、9月28日、国民議会(下院)選挙が行われました。結果は予想通り、前連立与党が第1党、第2党を占めたものの、共に大きく議席を失い、自由党などの野党2党が大きく躍進しました。現在、連立政権樹立に向けた議論が行われておりますが、いかなる連立が組まれるのか、予測が難しい状況です。
また、ウィーン市内の様子ですが、夏の間ほとんど休演中であったオペラやコンサートが9月から連日連夜開催されており、「魔笛」や小澤征爾指揮の「スペードの女王」など、ファンには目の離せない秋を迎えております。また、市内でお馴染みのリングを回る紅白の路面電車(No1,2)が10月26日より路線変更となり、リングを回り続ける電車は無くなるということです。
ウィーンは国際色豊かな、また、欧州の伝統文化、芸術などに恵まれた環境にあります。このような環境の下、一人でも多くの方にIAEAやCTBTO(包括的核実験禁止条約機関準備委員会)等の場で原子力平和利用の発展に活躍していただくことを願っております。また、当事務所としても、国際機関や中東欧の原子力動向を皆様にお伝えしていくとともに、巡り合う人々や組織を通じて日本の技術や文化についても発信するよう努力してまいります。
ウィーン事務所長 持地敏郎
今回の「研究開発現場から」は、原子力基礎工学研究部門です。
原子力エネルギーの源はウランやプルトニウム等の核分裂反応です。中性子によって誘発される核分裂反応、その分裂片の運動エネルギーが熱源となり、最終的に私たちが使う電力となります。原子よりもっともっと小さな「中性子と原子核の世界」です。私たちのグループに課せられた使命はそのような極微の世界で繰り広げられている様々な物理現象(核反応や原子核構造)に関する諸量の真値を推定し、データベース化することです。そしてそれらを必要とされている方々に提供することです。
核データは主に理論計算を行って導出します。とは云っても半分は経験的な模型を使っているので作業は決して楽ではありません。反応の種類は多数あり、中性子の散乱や捕獲、核分裂、中性子、陽子やアルファ粒子の放出、更にガンマ線放出も考慮しなければなりません。おまけに原子核の種類は安定核だけでも200種以上あり、それぞれの原子核が特有の個性を持っています。模型パラメータを変えながら計算を何度も繰り返し、データの真値を探っていきます。
近年、我々のグループでは種々の核反応模型を統合した計算システムの開発に成功し、これまでよりも効率的な予測計算が可能になりました。また散乱理論の計算で重要となる原子核平均場(光学ポテンシャル)を系統的にパラメータ化し中性子散乱や透過率等のデータをより高精度で予測できるようになりました。でも問題はまだ山積みです。少数多体系であるリチウムや酸素等の軽い原子核に対する予測計算手法、予測されたデータの信頼度(誤差)評価、高エネルギー中性子・陽子データの拡充、これらは今後やるべき課題です。
実験データと計算値が矛盾する場面が多々あって挫けそうになることがよくあります。しかし未知の部分を多く含み、宇宙・星(そして我々)の根源にも関わる原子核の世界へのロマン、そして推定されたデータを必要としている方々がいらっしゃることが我々の大きなモチベーションになっています。
核データに興味をお持ちの方は当グループのホームページ(http://wwwndc.tokai-sc.jaea.go.jp/index_J.html)を是非ご覧ください。
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【編集・発行】独立行政法人日本原子力研究開発機構 広報部広報課
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