平成20年9月26日
J-PARCセンター

J-PARCで最初のミュオンビームの発生に成功

茨城県東海村に建設中の大強度陽子加速器施設J-PARC※1では、平成20年9月26日12時10分、物質・生命科学実験施設(MLF)において、ミュオンビーム※2の発生に成功した。今後12月以降の調整運転及び試験的利用を経て、平成21年4月より本格的なミュオンビームの利用が開始される予定である。電荷をもつ素粒子であるミュオンは、物質に入射することで、物質のナノスケールでの電磁気的性質を解明するための有効な手段となる。本格稼働後は、物性物理学や原子分子物理学の分野における基礎的研究の推進のみならず、磁性材料や燃料電池の開発研究や負ミュオン特性X線非破壊元素分析※3等、様々な分野の産業発展につながる物質・生命科学研究に利用される予定である。

■概要

ミュオンは、湯川秀樹博士がその存在を予言した中間子※4が崩壊してできる素粒子である。独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡ア俊雄 以下「原子力機構」)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(機構長 鈴木厚人 以下「高エネ機構」)の共同運営組織であるJ-PARCセンター(センター長 永宮正治)では、平成20年9月26日12時10分、光速近くまで加速した陽子ビームを黒鉛(炭素)製の標的に入射して中間子を造り出すことにより、ミュオンのビームを発生させることに成功した。(補足資料2)

MLFに建設されたミュオン実験施設は、これまで人工的に発生させたミュオンを実験に利用することが国内で唯一可能であった高エネ機構・物質構造科学研究所のミュオン科学研究施設(MSL)の後継にあたり、MSLと原子力機構・先端基礎研究センターからなるJ-PARCミュオンセクションによって、平成15年から5年間にわたり建設が進められてきたものである。
J-PARCのMLFでは、標的の表面で発生したミュオンは、ビームラインと呼ばれる実験装置を通して、種々の実験を行うための実験エリアへと輸送される。今回ミュオンの輸送に成功したのは“崩壊ミュオンビームライン”と称されるラインであり、超伝導ソレノイド※5を用いて、様々なエネルギーのミュオンを発生源から実験エリアまで輸送することが可能である。(補足資料3)

電荷をもち、磁気的性質を敏感に捉える素粒子であるミュオンは、物質のナノスケールでの磁気構造や機能の解明に利用されるほか、物質中に含まれる水素の状態や働きを解明するための有力な手段でもある。本格的に稼働した際には、MSLに比して2桁以上の強度をもつミュオンビームを発生することが可能となるため、物性物理学や原子分子物理学、素粒子物理学、原子核物理学等における基礎的研究の推進のみならず、磁性材料や燃料電池の開発研究や負ミュオン特性X線非破壊元素分析等、様々な分野の産業発展につながる物質・生命科学研究での利用展開が予定されている。

以上

参考部門・拠点:J-PARCセンター

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