高速炉の社会実装を加速する研究開発
~ARKADIA(アルカディア)の開発・整備~
高速炉実証炉の開発は、21世紀半ばの運転開始を目指し、「もんじゅ」で得られた運転・保守の知見や、「常陽」における許認可の経験を活かしながら、着実に前進している。 しかしながら、高速炉の社会実装までには「開発の壁」「規範の壁」「社会の壁」の3つの壁があり、これらの壁を乗り越え、次のステージへと進むためには、従来の枠組みにとらわれない新たな発想と技術の導入が不可欠である。

そこで、AI、IoT、シミュレーション技術などのデジタル変革(DX)を融合した革新的な設計評価アプローチを導入する。その中核を担う目的で開発するARKADIA*は、高速炉のライフサイクル全体を対象に、合理的かつ最適な設計を実現するAI支援型革新的設計評価・支援システムである。
* ARKADIA: Advanced Reactor Knowledge- and AI-aided Design Integration Approach through the whole plant lifecycle
ARKADIAは、3つのシステム(EAS、VLS、KMS)と、これらを統合・制御する「プラットフォーム」で構成され、これら4つの要素が連携することで、単なる解析評価ツールを超えた「進化する設計支援インフラ」として、高速炉開発の多面的課題に対応できる総合的なシステムとなっている。 機構がこれまでに蓄積してきた知見や技術的ノウハウ(ナレッジ)を体系的に管理・活用するとともに、今後得られる新たな知見も加味しながら、AIや機械学習を活用して開発に必要な情報を適切なタイミングで提供する。
評価支援・応用システム(Enhanced and AI-aided Optimization System:EAS)
AIを活用して評価プロセスの自動最適化を行う。KMSから必要なナレッジを自動取得し、設計や規範対応などのプロセスを最適化し、目的関数の自動構築や、VLSやKMSへの適切なデータ供給も担う。
仮想プラントライフシステム(Virtual plant Life System:VLS)
最新の計算科学とAI支援を活用して、高精度なシミュレーションと仮想プラントモデルの構築を行う。EASによる最適化情報に基づき、多様な炉型に対応可能な連成解析を実行し、設計の柔軟性と再現性を確保する。
ナレッジマネジメントシステム(Knowledge Management System:KMS)
実験、シミュレーション、運転データ、外部知見までを統合的に管理する。経験知や開発成果の知識化、AI支援による継続的な知見のアップデートを通じて、ARKADIAシステムを進化させる。
プラットフォーム
プラントメーカ、エンジニアリング会社、大学、研究機関等の多様なステークホルダーとの情報共有を推進するインターフェース機能を担う。外部データの取り込み、KMSとの連携、AIによる情報整理と提示を通じ、開発内容の可視化による理解促進と人材育成に貢献する。

また、ARKADIAはユーザーと開発者が一体となって成長する「リビングシステム」であり、使用されながら進化していく次世代型の参加型開発プロジェクトでもある。本開発を支えるためには、従来の知見や最新の解析技術との連携が不可欠であり、機構のみならず、プラントメーカ、エンジニアリング会社、大学、研究機関等との国内協力で進められている。また、日米、日仏をはじめとする国際協力による開発も推進している。

炉心設計プロセスの革新を目指して
ARKADIAのプラント設計評価への適用として、炉心設計検討に活用できる新しいシミュレーション手法を適用した炉心の設計支援システムの構築を進めている。

従来の個別解析による炉心設計プロセスでは、人的及び時間的コストを要するとともに、分野間の取合条件によって設計空間が過度に制限されることが課題であった。
複数分野の解析を一連で実行し、最適化アルゴリズムに従って炉心仕様を自動調整する設計プロセスにすることで、設計作業の効率化及び取合条件の合理化(過度な保守性の排除)を図る。
最適化アルゴリズムに「ベイズ最適化」を使用し、制約条件付きの3目的最適化問題にARKADIAで構築した炉心設計プロセスを適用した例

格納容器の小型化設計(安全対策オプションの最適化)
ARKADIAの安全設計への適用として、万が一、炉心が損傷する事故が発生した場合の原子炉容器の内側/外側で発生する事象に対する安全対策を考慮した高速炉プラントの設計支援システムの構築を進めている。

ナトリウム漏えい燃焼が生じた場合の安全対策オプションを探索し、格納容器の小型化設計を行った例
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ナレッジマネジメントシステムの整備
「もんじゅ」等を通して得られた高速炉開発に係る知見・経験に関する技術情報を集約・提供するとともに、実証炉の実現に向けて有効に活用できるよう、ナレッジマネジメントシステムの整備を進めている。

解析手法の開発及び検証に活用できるように、「もんじゅ」で取得した試験データを評価・整理した例
