リスク情報活用推進室


研究開発に関する現状認識と今後の戦略
研究目的
活動の基本方針
人材育成に関する現状認識と今後の戦略

研究開発に関する現状認識と今後の戦略

1F事故を踏まえ、我国では安全規制活動や事業者による自主的かつ継続的な安全性向上活動等に際して、リスク情報が様々な意思決定に活用されつつあります。包括的な安全のレベルを表わす重要な指標の一つであるリスク情報を活用する直接的な利点は、原子力施設が潜在的に有しているリスクを把握できることにあります。併せて、リスク情報は原子力施設のSSC(構築物、系統及び機器)や人間の活動に係わる脆弱性の所在を同定する点においても極めて有益です。このような情報は、より頑健な深層防護や安全マネジメントシステムの構築等を通じたリスクの低減(安全性の向上)を、リソースを適正に配分しつつ効果的に実現するためのベースとなり得ると同時に、様々な意思決定の合理的根拠づけや説明性の向上に寄与します。

確率論的リスク評価(PRA)で代表されるリスク評価に係わる要素技術については、一定の信頼性を有するレベルに至りつつありますが、リスク情報に基づく意思決定という実践的研究や活動については依然十分とは言えず、更なる努力が必要である。また、我国固有の環境条件として、外的事象に対するリスク評価や管理が重要で、この分野においては、国内のみならず国外への貢献も大いに期待されるところです。日本原子力学会では、リスク評価や管理の重要性を早くから認識し、PRAの実施に係わる標準類の策定・改定を進めています。また、安全上の課題を俯瞰し改善策を探る原子力安全部会に加えて、2018年には、リスク評価・管理に係わる多様な活動を産官学が一体となって推し進めるべくリスク部会が発足しました。安全規制における最近の動向として、新検査制度が2020年4月から開始され、リスク情報の活用が本格的に進められつつあります。事業者においては、2014年10月にリスク研究のためのコア組織として、電力中央研究所内に原子力リスクセンターを新設し、リスク評価技術の向上とそこから得られるリスク情報を活用した意思決定プロセスの確立を目指しています。

安全研究・防災支援部門では、各研究グループにおいて、PRAに用いることが可能な個々の技術に関する研究・開発を積極的に進めているものの、これらの技術をリスク情報の取得に応用する実践的な研究・開発が十分であるとは言えない状況でした。本来、安全確保や安全性向上等に向けた意思決定にリスク情報を適切に活用するためには、複数分野の諸活動を束ねた分野横断的な対応が必要です。このような認識に基づいて、2020年4月に、PRA手法等の整備を行っている研究グループから人材を集め、恒常的かつ円滑な分野横断的連携を図るコア組織として、部門の下にリスク情報活用推進室が設置されました。


図1:リスク情報活用推進室の活動概要

研究目的

次期中長期目標期間を見据えた部門のミッションは、「価値ある科学的・技術的知見を創出し原子力安全の継続的改善と原子力防災の実効性向上に寄与する」とする方針です。これを受けて、リスク情報活用推進室においてはきますリスク情報の活用に係わる様々な活動の推進コアとして、部門のミッション達成に寄与すべく、主に以下に示す目的を持って活動を進めていきます。

  • 原子力安全の継続的改善及び原子力防災の実効性向上に係わる意思決定に求められるリスク情報を明確にする。
  • リスク情報活用推進室の室員のみならず、部門内の職員等がリスク情報を活用した意思決定の重要性を認識し、常にリスクの評価や管理を視野に入れて研究・開発を展開する意識を醸成する。
  • 部門内の各研究グループが整備しているPRA手法等を応用して、原子力施設のリスク情報を定量的に評価・分析する。
  • 取得したリスク情報を部門内で共有し、原子力施設の安全性向上や原子力防災の実効性向上に向けたアプローチを提案するとともに、社会とのコミュニケーションに用いるソースとして成果を積極的に社会に発信する。
  • PRA等から得られた知見を部門内の関連する研究グループにフィードバックし、評価技術の改善や新たなニーズの発掘に繋げる。
  • リスクの評価や管理が安全研究及び防災支援を標榜する部門における極めて重要な課題の一つであることに鑑み、長期的な視野で人材の育成・確保に努める。

図2:リスク情報活用推進室における活動計画の概略

活動の基本方針

リスク情報活用推進のための研究における活動の基本方針は以下のとおりである。また、活動の概要、次期中長期目標期間を含めた活動計画の概要及び大まかなスケジュールを、それぞれ図1図2及び表1に示します。活動の主要な分野は、外部事象を対象としたレベル1 PRA、レベル2 PRA、原子力防災を含めたレベル3 PRA及び主に再処理施設を対象とした核燃料サイクル施設のリスク評価です。また、重要性と部門における研究リソースを踏まえて、当面の間、地震PRAと原子力防災を活動の柱と位置づけ、次期中長期目標期間における本格的な活動に備えて、現中長期目標期間の残りの期間でそのための試行を行うこととします。

  • リスク評価を通じたリスク情報の導出及び評価技術の整備を担う研究グループの支援
  • 外部事象(地震等)、SA、サイト外事故影響評価等に関する研究・開発を進めている研究グループが整備しているPRA手法等を用いて、リスク情報(頻度、影響、時間、リスク重要度、不確かさ因子等)を導出します。合わせて、得られた知見を社会とのコミュニケーションに用いるべく積極的に発信するとともに、以下に示すような活動を通じて、各研究グループにおける評価技術の開発にフィードバックします。PRA等から得られる原子力施設のリスク情報は、PRA手法等が有する技術的課題を明確にし、手法自体の改善の方向性を見出す点からも極めて重要です。
    • 部門が有するPRA手法等を利用して、軽水炉及び核燃料サイクル施設(主に再処理施設)を対象としたリスク情報を得るための活動を早期に「実行」し、リスク評価の「経験」を積んでいきます。その際、日本原子力学会の標準委員会が策定したPRA標準の活用を考慮し、技術的な課題が明らかになった場合には、標準の改定に反映することを視野に入れます。
    • 軽水炉に関しては、内部事象起因のレベル2 PRA及びその結果を用いたレベル3 PRAの試行に先行的に着手します。試行段階においては、レベル2 PRAの実施に際して必要となるレベル1 PRAについては、例えば、旧原子力安全基盤機構(JNES)等が実施した先行事例の結果を活用します。再処理施設については、レベル1 PRAとレベル2 PRAの明確な区別はないものの、軽水炉と同様に内部事象PRAあるいはPRA以外の手法を用いたリスク評価を実施します。
    • 外部事象としては、地震起因のレベル1 PRAを優先します。長期的には、地震と付随事象(津波、火災や内部溢水)の重畳、地震以外の外部事象(火災や飛翔体衝突等)をスコープに入れることをています
    • 地震起因のレベル1 PRAの結果を用いて、地震レベル2 PRA及びレベル3 PRAを実施します。地震起因のPRA及び内部事象PRAともに、不確かさ解析や感度解析を実施し、リスクに対する寄与や不確かさが大きい因子を明らかにするとともに、これらの結果をPRA手法等の効果的・効率的な改善に利活用するよう努めます。
    • ダイナミックPRAについては手法開発の途上ですが、ある程度の目処がついた段階で、その特徴を活かして、レベル1 PRAとレベル2 PRAをシームレスにつないだPRAの実施を考えています。
  • 機構外機関との協力強化
  • 現時点ではリスク情報活用推進室において対応できない課題(例えば、PRAにおける人間信頼性やデジタル計測・制御系の信頼性)や持ち合わせていない情報(実プラントデータ等)があります。この点を含め、リスク情報の活用に係わる多様な課題について、規制庁、電力中央研究所、産業界等との共同研究や緊密な情報交換の実施を模索します。このような活動により、リスク評価や管理に係わる部門における総合的な研究力・技術力の向上を図るります。
  • 機構内他部門との横断的連携
  • リスク情報活用推進室が主導的にPRA、リスク情報活用等に関する機構内横通し連絡会(四半期に1回程度)の運営及び取りまとめを担います。この連絡会に参加している高速炉、高温ガス炉(大洗)及び再処理施設(東海)におけるリスク評価担当の研究者や技術者とPRA手法等に係わる情報、技術的課題やニーズを共有し、本推進室における活動に役立てるとともに、必要に応じて、評価手法等に係わる課題解決に向けて協働していきます。
表1:リスク情報活用推進のための研究のスケジュール案

人材育成に関する現状認識と今後の戦略

リスク情報活用推進室の活動を実効的かつ長期的に進める人材の確保・育成は重要な課題です。PRA手法等を用いてリスクを適切に評価し、その結果を活用して様々な意思決定を行うためには、PRAに関連する専門分野を掘り下げることができる人材と同時に、俯瞰的視野を持ってリスク評価の結果を分析し、意思決定に利用できる形にする応用力をもつ人材が必要ですが、現時点では、特に応用力を有する人材が不足していると認識しています。今後、これまで以上に、このような二面的能力を有する人材の確保・育成に力を入れていくことが不可欠です。そのために、上述の原子力機構内他部門や機構外機関との協力強化に加えて、主に、次に示す活動を進めていきます。

  • リスク評価の実践等を通じた応用力の向上
  • 個々の研究者の応用力を養うためには、リスク情報活用推進室を含めた部門全体の活動を通じたOJTが重要なことは言うまでもありません。合わせて、部門内の各グループ間における情報共有や垣根を超えた協力、研究の方向性に関する価値観の共有や合意形成が不可欠です。このような意識を常に持ちつつ、PRA手法等を用いたリスク情報活用に関する活動を展開します。その際には、機構内外から経験豊富なシニア人材等を登用することも視野に入れています。また、本務人員が限られていることを踏まえて、アウトソーシングを活用した(技術開発協力員や派遣人員の採用、外部への発注)効率的な活動の実施を考えています。
  • 国立研究開発法人連携講座の推進
  • 令和2年度から開始された東京大学と機構の国立研究開発法人連携講座「原子力安全マネージメント学講座」の運営に協力しています。具体的には、東京大学との共同研究や教育への参画を通じて、リスク情報の活用した意思決定を含む原子力安全マネジメントシステムの構築や運用を担う若手人材の育成を図るとともに、部門における研究・開発活動の社会的な価値を直に伝えることにより、高い能力を有する人材を確保できるよう努めます。これに加えて、規制庁の令和2年度「原子力人材育成等推進事業費補助金(原子力規制人材育成事業)」に採択された、東京大学の「我が国固有の特徴を踏まえた原子力リスクマネジメントの知識基盤構築のための教育プログラム」(令和6年度までの5年間の予定)に協力します。本教育プログラムは、「原子力安全マネージメント学講座」と連携して進められる予定です。

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