令和8年10月16日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
深度500mトンネルでの湧水量変化をリアルタイム予測
-地下深部の掘削工事 効率性と安全性の向上に貢献-

図 トンネル掘削における湧水量の予測手法のフロー図
【概要】
本研究では、地下深部のトンネル掘削において、トンネル内へ流入する地下水の量(湧水量)が自然に減少する速度を数日程度の簡易な事前調査で推定する手法を考案し、幌延深地層研究センター(北海道天塩郡幌延町)地下研究施設の深度500mで実証しました。
地下深部でのトンネル掘削は、地下水流入への対策が工事期間、コスト、作業の安全性などに影響します。私たちはこれまで、幌延深地層研究センター地下研究施設のデータを解析し、湧水量が自然減少するメカニズムを明らかにしてきました。この知見に基づけば、湧水量の自然減少を事前に予測することで、湧水対策を行わずにトンネルを掘削できる可能性があります。しかし、そのような予測手法の有効性は実際の掘削現場では検証されていませんでした。
本研究では、これまでの研究を基に、トンネル湧水量の自然減少速度を簡便かつリアルタイムで予測する手法を考案し、地下研究施設の深度350mと深度500mのトンネル掘削工事を事例として自然減少速度を事前に見積もりました。その結果、深度500mのトンネル掘削では湧水量の自然減少速度が速く、湧水量は10日で100分の1程度に減少すると予測されたことから、湧水対策を省略して工事を行いましたが、発生した湧水量は非常に少なく、事前予測の妥当性を確認できました。
深度500mという非常に深いトンネルの掘削であっても、湧水量の自然減少速度を簡便な手法で、かつ掘削作業と並行してリアルタイムで予測できることが実証できました。本手法は、通常のトンネル掘削のみならず、高レベル放射性廃棄物の地層処分や石油の地下備蓄などの大深度地下の工事において、作業の合理化や施工時の安全性の向上に役立つことが期待できます。
本研究は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範、以下「原子力機構」)幌延深地層研究センター 堆積岩安全評価研究グループの村上裕晃研究副主幹、石井英一研究主席、株式会社大成建設 原子力本部 八木啓介課長らによるものです。
本研究成果は、2026年8月21日に、国際学術雑誌「Bulletin of Engineering Geology and the Environment」にオンライン掲載されました。
【これまでの背景・経緯】
岩盤にトンネルを掘削すると、トンネル内に地下水が流れ込みます。この地下水の量(以下、トンネル湧水量)が多いと、地下水の処理に時間とコストがかかり、時には掘削作業の安全性を脅かします。地下深い場所では地下水圧が高くなり、多量の地下水が流入するリスクが高まるため、地下深部を利用するプロジェクト(例えば、大規模な山を貫くトンネル工事や高レベル放射性廃棄物の地層処分)では、トンネル湧水量の予測と対策は重要な課題の一つです。
一般的には、トンネル掘削前に数値計算(シミュレーション)やボーリング調査で岩盤や地下水の状況を確認して、トンネル湧水量が多いと判断した場合は湧水量を抑制する対策(湧水対策)を行います。代表的な湧水対策の一つ「グラウチング」は、岩盤にセメントなどを圧入して岩盤中に存在する地下水の通り道である「水みち」を塞ぐ工法です。世界中で多数の実績がありますが、数か月に及ぶ工事期間と多額のコストを要します。また、地下深くでは注入時に高い圧力をかける必要があり、作業の安全上のリスクも高まります。
一方、トンネル湧水量が自然に減少する事例が国内外で報告されています。私たちは以前、当センター地下研究施設で取得したトンネル湧水量データを解析し、湧水量の自然減少速度は水みちの水理学的な連結性を表す指標の一つである「水みちのつながり方の次元」の違いで説明できることを明らかにしました1)2)3)。この考えに基づくと、湧水量の自然減少速度を事前に予測できれば、トンネル掘削前に湧水対策の必要性を判断できる可能性があります。しかし、これまでに、掘削前に湧水量の自然減少速度を予測して実際の掘削工事に活用した事例はありませんでした。
【今回の成果】
トンネル湧水量の自然減少速度は、岩盤が持つ水の通しやすさの影響に加え、水みちのつながり方からも影響を受けます。トンネルが断層と交差した場所(湧水点)から地下水が湧き出す場合を考えます(図1)。
湧水点に繋がる水みちが三次元的なネットワーク状に広がっている場合(水みちのつながり方の次元=3)、湧水点からトンネルへと地下水が流出しても、その周囲の様々な方向から地下水が次々と供給されます。そのため、トンネル周辺の地下水圧が低下しにくく、湧水量もゆっくりとしか減少しません。一方、湧水点に繋がる水みちが一次元的にしか連結していない場合(水みちのつながり方の次元=1)、地下水は1本のパイプ状の水みちを流れていると解釈できます。この場合、地下水が湧き出し始めると、トンネル近傍の水みちを流れる地下水だけでは供給が追い付かなくなり、より遠方から地下水が供給され始めます。その結果、トンネル周辺の地下水圧が速やかに低下し、湧水量も急速に減ります(過去のプレス記事もご参照ください3))。
このことから、水みちのつながり方の次元が1に近いことが事前に分かれば、トンネル掘削後に湧水量が急速に自然減少することを予測できると考えました。

図1 湧水量の自然減少速度を支配するメカニズムを表す概念図
水みちのつながり方の推定には、通常は透水試験※1と呼ばれる原位置試験を行いますが、時間やコストがかかり、全てのトンネルを対象とするのは現実的ではありません。前述のように、これまでの研究から「湧水量の自然減少速度」と「水みちのつながり方の次元」は密接に関連しています。そこで私たちは、これを逆転させ、トンネル掘削前にボーリング孔を掘削し、孔から湧き出す湧水量の変化を観測すれば、透水試験を実施しなくても水みちのつながり方の次元が推測できるのではないか、と考えました。
この仮説の検証のため、湧水を伴う断層(湧水点)と交差する既存のボーリング孔を用いた予備検証試験を行いました。このボーリング孔では透水試験を実施済みで、湧水点の水みちのつながり方の次元は1.29と推定しています。そこで、この値を用いて湧水量の自然減少速度を計算し、次に、ボーリング孔から実際に地下水を湧出させて時間変化を観測すると、湧水量の自然減少速度は事前の計算結果とよく一致しました(図2)。この結果は、ボーリング孔からの湧水量の時間変化を観測するだけで、透水試験を実施しなくても、水みちのつながり方の次元を推定できることを意味します。

図2 予備検証試験の様子と結果
次に、当センター地下研究施設でのトンネル掘削工事に本手法を適用し、湧水量の自然減少速度を予測しました。深度350mに掘削予定の「350m試験坑道6」と、深度500mに掘削予定の「500m東連絡坑道」の2つのトンネルのそれぞれで、トンネル掘削前に、予定地でボーリング孔1本を掘削し、断層(湧水点)からの湧水量を観測しました(図3)。この湧水量の時間変化に基づき、2地点における水みちのつながり方の次元を推定しました。
深度350mの湧水点の次元は約1.5と推定したため、350m試験坑道6が湧水点と交差した場合、湧水量は掘削直後からゆっくりと減少しますが、掘削から100日経過しても初期湧水量の約1/10にしか減少しないと予測しました(図4)。一方、深度500mの湧水点の次元は1.0に近い値だったことから、500m東連絡坑道の掘削に伴う湧水量は掘削後1日で初期の約1/10、10日後で約1/100まで急速に減ると予測しました(図4)。

図3 湧水量を予測した時の坑道の形状および位置とボーリング孔から湧出する地下水の様子

図4 深度350mと深度500mのボーリング孔から発生する湧水量の観測結果と計算結果
これらの予測結果を踏まえ、深度350mでは湧水対策がなければ掘削が難しいと判断し、湧水点を貫通しないように350m試験坑道6のレイアウトを変更して掘削工事を行いました。一方、深度500mは湧水量の自然減少速度が速いと推定できたため、湧水点と交差する当初のレイアウトを維持し、かつ湧水対策なしで500m東連絡坑道を掘削することにしました。実際に、500m東連絡坑道の掘削では、大量の湧水が発生することもなく工事を完了できました。
【今後の展望】
本研究では、深度500mという非常に深いトンネルの掘削工事を通じて、湧水量の自然減少速度を簡便な手法で予測でき、湧水対策の必要性を判断できることを実証しました。実証にあたって10日以上かけてボーリング孔の湧水量変化を観測しましたが、実測した湧水量の自然減少速度の傾向がほぼ一定であったことを踏まえると、数日程度の観測データがあれば自然減少速度を予測できます。そのため、トンネル掘削工事とほぼ並行して湧水量を予測し、リアルタイムで湧水対策の要否を判断できると考えられます。本手法は、通常のトンネル掘削に加え、高レベル放射性廃棄物の地層処分や石油の地下備蓄などの大深度地下を利用する工事においても、施工の合理化や施工時の安全性の向上に寄与することが期待されます。
【論文情報】
【役割】
村上裕晃・石井英一(原子力機構):手法の考案、データ取得、データ分析・解析、考察
八木啓介(大成建設):現場統括、データ取得
【参考文献】
1) Ishii E (2023) Effects of flow dimension in faulted or fractured rock on natural reductions of inflow during excavation: a case study of the Horonobe Underground Research Laboratory site, Japan. Hydrogeol J 31:893–911. https://doi.org/10.1007/s10040-023-02628-3
2) Sakuma K, Ishii E, Murakami H (2025) Predicting the long-term natural decay of inflow from faults or fractures encountered during excavation of deep underground tunnels using the flow dimension. Environ Earth Sci 84:663. https://doi.org/10.1007/s12665-025-12680-9
3)
幌延深地層研究センター. 「坑道掘削時の断層からの湧水量の減少速度を支配するメカニズムを解明-トンネル工事現場や放射性廃棄物の地層処分場での湧水抑制対策に貢献-」プレスリリース、令和5年7月12日、幌延深地層研究センターHP
https://www.jaea.go.jp/04/horonobe/press/r5/press_0712.html
【用語の説明】
※1透水試験
岩盤に水を圧入したり、岩盤中の地下水を抜いたりして、岩盤中の水の流れやすさを調べる試験のことです。