プレスリリース

割れ目がずれると割れ目内の隙間(地下水の通り道)はつながるか?

令和4年10月26日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
核燃料・バックエンド研究開発部門
幌延深地層研究センター

割れ目がずれると割れ目内の隙間(地下水の通り道)はつながるか?
-隙間のつながり具合を現場で簡単に調べる試験手法を開発-

【発表のポイント】

  • 高レベル放射性廃棄物の地層処分では、地層の透水性(水の流れやすさ)を把握することが重要となります。地層の透水性は、地層中の割れ目内の隙間の大きさ(割れ目の局所的な透水性)のみならず、割れ目内の隙間のつながり具合にも大きく支配されます。割れ目内の隙間のつながり具合は、地殻変動などに伴って割れ目がずれることにより変化する可能性があります。
  • 幌延深地層研究センターは、地層中の割れ目がずれることにより生じる、割れ目内の隙間のつながり具合の変化を、現場で簡単に確かめる方法を開発しました。
  • 幌延深地層研究センターの地下研究施設内で、隙間のつながりが悪い割れ目を対象に実証試験を行った結果、割れ目がずれても隙間のつながりは悪いまま、すなわち、地層の透水性には影響せず水は流れにくいままであることが確認できました。
  • 割れ目のずれが隙間のつながり具合に与える影響を確認することは、実際の地層処分場において、地層の長期的な閉じ込め性能を評価する上で重要です。その影響を調べる際に今回開発した試験手法が役立つことが期待できます。

本試験手法のイメージ

図 本試験手法のイメージ

【概要】
 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範、以下「原子力機構」という。)核燃料・バックエンド研究開発部門 幌延深地層研究センターの大野宏和らは、地殻変動などに伴って発生し得る地下の割れ目のずれが、割れ目内の隙間のつながり具合に与える影響を現場で簡単に調べる方法を開発しました。

 高レベル放射性廃棄物の地層処分では、地層の閉じ込め性能を評価する観点から、地層の透水性を把握することが重要となります。地層の透水性は、割れ目内の隙間の大きさのみならず、割れ目内の隙間のつながり具合にも大きく支配されます。例えば、割れ目内の隙間が広い範囲にわたってつながっていなければ、個々の隙間が大きくても、割れ目を通じた地下水の流れは生じにくく、地層の透水性は低い状態が保たれます。しかし、地殻変動などに伴って割れ目がずれると、割れ目内の隙間のつながりがよくなり、それによって地層の透水性が増加する可能性がありますが、これを調べることは特殊な装置が必要になるなど、容易ではありませんでした。

 これまでに、幌延深地層研究センターは簡易的な方法で、ボーリング孔に交差する地下の割れ目を人為的にずらす試験方法を開発しました。これにより、割れ目のずれが隙間の大きさに与える影響を容易に調べることが可能となりました。今回、この試験方法のさらなる活用を図った結果、割れ目のずれが隙間のつながり具合に与える影響も調べることが可能であることが分かりました。幌延深地層研究センターの地下研究施設内で掘削したボーリング孔において、隙間のつながりが悪い割れ目を対象にこの方法を試した結果、割れ目がずれても隙間のつながりが良くならないことを確認できました。この結果は、近傍のボーリング孔で同時観測していた水圧変化ともよく整合し、本方法が有効であることが確認できました。

 本成果により、今後は割れ目のずれが隙間のつながり具合に与える影響について容易に調べることが可能となりました。割れ目の隙間の大きさを調べる試験と合わせることで、地殻変動などに伴って発生し得る割れ目のずれが地層の透水性に与える影響を実際に確かめることができるようになります。この成果は、高レベル放射性廃棄物の地層処分場において、廃棄体を埋設する地層の長期的な閉じ込め性能を示す上で重要であり、今回開発した試験方法がその評価を行う際に役立つことが期待できます。

 本成果は、国際学術誌「Geomechanics for Energy and the Environment」の令和4年9月号に掲載されました。

【これまでの背景・経緯】
 高レベル放射性廃棄物の地層処分では、地層の閉じ込め性能を評価する観点から、地層の透水性を把握することが重要となります。地層の透水性は、割れ目内の隙間の大きさのみならず、割れ目内の隙間のつながり具合にも大きく支配されます。例えば、割れ目内の隙間が広い範囲にわたってつながっていなければ、個々の隙間が大きくても、割れ目を通じた地下水の流れは生じにくく、地層の透水性は低い状態が保たれます。しかし、地層処分のような長期間の時間スケールでは、現在の割れ目の状態だけではなく、地殻変動などの将来的に想定される現象に対して、どのような影響を受けるかを把握することが重要になります。地殻変動に伴って割れ目がずれると、割れ目内の隙間のつながりがよくなり、それによって地層の透水性が増加する可能性があります。このような可能性を現場で検証できる試験方法として、割れ目内への高圧注水により人為的に割れ目をずらす試験手法がありますが、これには特殊な装置が必要になるなど、実施は容易ではありませんでした。
 これまでに、幌延深地層研究センターは簡易的な方法で、ボーリング孔に交差する地下の割れ目を人為的にずらす試験方法を開発しました。これにより、割れ目のずれが隙間の大きさに与える影響を容易に調べることが可能となりました1)。本研究では、その試験方法を活用して、割れ目のずれが隙間のつながり具合に与える影響についても調べることができないかを、現場で適用試験を通じて検討しました。

【今回の成果】
 地下深くの割れ目内の隙間のつながり具合は、直接計測することができないため、他の計測可能なデータから隙間のつながり具合を推定する必要があります。割れ目内の複雑な隙間を通じた地下水の流れを推定する手法として、割れ目内の隙間を単純なモデルに分類する手法が知られています。例えば、注水孔から地下水を注水した時に、注水孔を中心に(a)円筒状(1次元)に連続する隙間を流れるモデル、(b)円盤状(2次元)に広がる隙間を流れるモデルなどに分類することが可能です(図1)。

流れの次元のイメージ

図1 流れの次元のイメージ

 (a)は、注水の時間経過とともに水圧の伝搬領域rが広がっても、水が流れる断面積A(割れ目内の隙間)は変わらず、限定された領域のみにしか水が流れないモデルです。これは、割れ目内の隙間のつながりが悪いことを意味します。
 (b)は、注水の時間経過とともに水圧の伝搬領域が広がるにつれて、水の流れる断面積Aもそれに応じて大きくなるモデルです。これは、割れ目内の隙間が一様につながっていることを意味します。それぞれのモデルにおける注水孔の水圧変化は、流れの次元、水圧の伝搬領域r、水の流れる断面積A(割れ目の隙間)などから計算により求めることできます(図2)。

流れの次元と注水孔の水圧変化の関係(横軸は対数時間)

図2 流れの次元と注水孔の水圧変化の関係(横軸は対数時間)

 (a)1次元流れでは、水圧の変化量は徐々に大きくなり(徐々に詰まっていくイメージ)、(b)2次元流れでは、水圧の変化量は一定の傾き(直線)で大きくなります。本研究では、モデル計算に基づく水圧変化と実際に試験で計測された水圧変化を比べることにより、割れ目内の隙間のつながり具合を評価しました。 幌延深地層研究センターの地下施設周辺の地下深くでは、割れ目内の隙間のつながりが悪く、その結果として地層の透水性が非常に低いことが分かっています2)。そのような地下深部に掘削したボーリング孔において、隙間のつながりが悪い割れ目を対象に、以下のような流れで透水試験(低圧注水)と高圧注水を行いました。透水試験は地下水の水圧に変化を与え、その過程で得られる流量や水圧から地層や岩盤の透水性を評価する試験です
・初めに、割れ目をずらす前の状態を確認する透水試験を行い、注水孔の水圧変化を観測
・次に、高圧注水により割れ目内の水圧を上昇させ、割れ目を一時的に開かせることにより、割れ目を人為的にずらす
・割れ目をずらした後に、再び透水試験を行い、注水孔の水圧変化を観測
 割れ目をずらす前に観測された注水孔の水圧変化は、時間経過とともに変化量が大きくなり、隙間のつながりが悪い傾向(1次元流れの時と類似の傾向)を示しました(図3(a))。次に行った高圧注水中は、割れ目を開かせる力が働くため、隙間のつながりは一時的に良くなります。割れ目をずらした後、再び注水孔の水圧変化を観測すると、割れ目をずらす前と同様に隙間のつながりが悪い傾向が確認できました(図3(b))。これは、割れ目がずれても、隙間のつながり具合に影響を与えない(あるいは一時的に影響を与えるが、その後、元の状態に戻る)ことを示しています。

原位置試験で観測された注水孔の水圧変化(横軸は対数時間)

図3 原位置試験で観測された注水孔の水圧変化(横軸は対数時間)

 本手法は1本のボーリング孔(注水孔)のみで調査できる手法ですが、今回の試験では、周辺の状態を把握するために、近傍のボーリング孔(観測孔)でも水圧の変化を観測しました(図4)。その結果、もともと注水孔と観測孔間で異なる水圧が観測されていましたが(孔間の隙間のつながりが悪いことを示す(図4(a)))、高圧注水後に水圧が一時的に同じになった後(孔間の隙間のつながりが一時的に良くなったことを示す(図4(b)))、再び異なる水圧に戻りました。この結果は、図3の結果と整合しており、本手法が有効であることが確認できました。本手法を用いたこれらの調査によって、将来的な地殻変動に伴う割れ目のずれを考慮した地層の閉じ込め性能を、より正確に把握することが可能になります。

原位置試験で観測された注水孔と観測孔の水圧変化

図4 原位置試験で観測された注水孔と観測孔の水圧変化

【今後の展望】
 本成果により、今後は割れ目のずれが隙間のつながり具合に与える影響について容易に調べることが可能となりました。割れ目の隙間の大きさを調べる試験と合わせることで、地殻変動などに伴って発生し得る割れ目のずれが地層の透水性に与える影響を実際に確かめることができるようになりました。この成果は、高レベル放射性廃棄物の地層処分場において、廃棄体を埋設する地層の長期的な閉じ込め性能を示す上で重要であり、今回開発した試験方法がその評価を行う際に役立つことが期待できます。

【論文掲載情報】

雑誌名:
Geomechanics for Energy and the Environment, vol.31, 100317, 2022.
論文タイトル:
Effect of fault activation on the hydraulic connectivity of faults in mudstone
著者:
大野宏和、石井英一
https://doi.org/10.1016/j.gete.2022.100317

【参考プレスリリース】
1) 幌延深地層研究センター. 「汎用的な装置で地下の岩石の割れ目をずらすことに世界で初めて成功-様々な地下利用に向けて大きく進展-」プレスリリース、令和2年9月15日、幌延深地層研究センターHP
2) 幌延深地層研究センター. 「地下深くの亀裂の連結性を地上から評価する方法を開発-地層処分の候補地選定に係わる調査技術に大きな進展-」プレスリリース、平成30年5月18日、幌延深地層研究センターHP

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