構造健全性評価研究グループ

本研究グループでは、軽水型原子力発電所で使用されている建屋や機器・構造物の構造健全性を評価するための手法の研究開発を進めています。対象とする機器類は、原子炉の安全性を確保する上で特に重要な、原子炉圧力容器や原子炉冷却材圧力バウンダリの主要配管です。中性子照射脆化、応力腐食割れ等による機器類の経年劣化や、設計基準事象を超える大きな地震等の外部事象を考慮して、破壊力学等に基づく構造健全性評価手法の高度化に関する研究を行っています。研究成果は、原子力安全規制行政に対する技術的支援や学協会の規格基準に対する提案に活用されています。

(1) 原子炉圧力容器を対象とした健全性評価手法

原子炉圧力容器(RPV)の炉心から生じる中性子にさらされることによって、中性子照射脆化といわれる材料劣化が生じます。この状態で、原子炉配管の破損等により冷却材喪失事故が発生すると、高温高圧下で非常用炉心冷却水が注入され原子炉圧力容器の内面が急冷されるため、温度差に伴って容器内面付近に引張応力が発生する、RPVにとって最も厳しい加圧熱衝撃(PTS)事象が起きる可能性があります。健全性評価では、RPV内面にき裂を想定した上で、PTS事象が生じてもRPVが破壊しないことを確認する必要があります。私たちは、中性子照射脆化を考慮した、破壊力学に基づく健全性評価手法の高度化に関する研究を進めています。

図1
図1:原子炉圧力容器の加圧熱衝撃時における健全性評価

(加圧水型原子炉におけるRPVの非延性破壊防止に関する健全性評価は、主としてPTSの発生を想定して実施しています。圧力容器内面に半楕円の表面欠陥を想定し、PTS時の荷重条件を考慮して、欠陥が脆性的に進展を開始するかどうかを決定論的手法により判定します。応力拡大係数(KI)が破壊靱性値(KIc)を超えると破壊が生じると判定されます。)

(2) 溶接残留応力解析手法

配管の溶接継手、鞍型管台、原子炉圧力容器の肉盛溶接部(オーバーレイクラッド)等、幾何形状の複雑な部位や異なる材料が接合された部位等に対して、有限要素法(FEM)による溶接残留応力分布や破壊力学に基づく構造・材料不連続部の健全性評価手法を確立するための研究を行っています。

図2
図2:原子炉圧力容器貫通部のFEM解析モデル
図3
図3:残留応力の比較

(RPVに制御棒案内管や炉内計装筒管台等、ノズル管を取り付けるためのJ溶接部を模擬したFEM解析モデルを作成し、J溶接や溶接後熱処理(PWHT)を模擬した解析を行っています。J溶接とPWHTを行った後の残留応力を比較すると、PWHTによりJ溶接部の残留応力は低減しますが、クラッド部の残留応力は降伏応力程度まで増加していることが分かります。)

(3) 確率論的破壊力学を用いた健全性評価手法

供用期間中にRPVや配管等の機器類にき裂が発生・検出された場合や、製造時からき裂が存在すること等を想定して、材料特性、溶接残留応力、地震や運転時の荷重、欠陥の検出性に関わるばらつきや不確かさを考慮して、加圧熱衝撃時にRPVが破壊に至る確率や、応力腐食割れ、疲労、減肉等により経年劣化した配管の漏えいや破断などの破損確率について、破壊力学及びモンテカルロ法に基づき解析的に求めるための計算コードPASCALシリーズの開発を進めています。

図4
図4:ホットレグの損傷事例
図5
図5:PASCAL-NPによる漏えい確率解析

(上の図は、加圧水型原子炉容器ホットレグのニッケル合金溶接部に応力腐食割れ(PWSCC)が発生した事例を示しています。健全性評価で重要なパラメータのばらつきを適切に考慮して破損確率を算出するため、確率論的破壊力学に基づく解析コードPASCAL-NPを開発しました。この損傷事例を対象にPASCAL-NPを用いて漏洩確率を算出した結果は、検査結果とよく一致することを確認しました。)

(4) 地震荷重によるき裂進展を考慮した破壊力学評価手法

設計基準を超える大きな地震荷重が配管等の健全性に及ぼす影響を評価するため、地震荷重の特徴を考慮したき裂進展挙動に関する試験研究を進めています。弾性域を超える場合に適用できる破壊力学パラメータΔJを用いて、複雑な履歴を有する地震荷重を考慮したき裂進展評価手法を構築することにより、より精度よくき裂進展を予測することを目指しています。また、構築したき裂進展評価手法を確率論的破壊力学解析コードPASCAL‐SPに導入し、大きな地震が発生した場合の配管等の破損確率を評価できるよう開発を進めています。

図6
図6:き裂先端の応力状態
図7
図7:負荷した地震荷重
図8
図8:き裂進展量の評価

(き裂先端の大きな変形を伴う不規則な繰返し荷重や、不規則な地震荷重を1波ずつ忠実に考慮してき裂進展量を評価できるき裂進展評価手法を開発しています。地震荷重波形に含まれる過大荷重によるき裂進展の加速や遅延効果を考慮することにより、従来の応力拡大係数を用いる評価に比べて、より正確にき裂進展の予測が可能となりました。)

(5) 原子炉建屋及び機器・配管の地震時健全性評価研究

安全上重要な建屋や機器・配管を対象に、地震を起因とした確率論的リスク評価(地震PRA)に資するフラジリティ評価手法の整備に関する研究を進めています。特に、3次元詳細モデルを用いた建屋地震応答解析手法の標準化を図るとともに、建屋や機器・配管のフラジリティ評価手法の高度化を目指しています。具体的には、地震動による現実的応答に係る3次元詳細モデル解析手法の整備、現実的耐力評価・損傷確率評価等を通じた健全性評価手法・フラジリティ評価手法の整備、さらに試験データの拡充及び試験データによる評価手法の妥当性確認に関する研究等を進めています。また、H31年度より、規制庁との共同研究1)として機構内施設の地震観測記録等を活用した3次元詳細モデルの妥当性確認に関する研究を開始しました。

1) https://www.jaea.go.jp/02/press2019/p20032401/

図9
図9:解析モデルの概要
図10
図10:3次元詳細モデルによる地震応答解析結果と地震観測記録との比較の例
図11
図11:壁の最大せん断ひずみの高さ方向分布例
(モデル化手法の違いに起因する応答差異の把握)

(入力地震動レベルに対する建屋損傷状態の推移を把握するため、建屋3次元詳細モデルの荷重漸増解析を実施し、局所損傷モードの同定に必要なデータを取得しました。また、認識論的不確実さの低減を目的としてモデル化手法の違いに起因する応答結果を分析し、壁の最大せん断ひずみの差異を定量評価しました。)

(6) 飛翔体衝突に係る原子力施設への影響評価研究

飛翔体衝突に伴う原子力施設への影響評価に資する評価手法の高度化を図るため、建屋を対象とした飛翔体衝突による局部損傷評価に加え、建屋を伝播した応力波が建屋内包機器に及ぼす影響評価に係る手法に関する研究を進めています。具体的には衝突速度や衝突角度による被衝突体への影響評価を通じて、衝突による原子力施設の局部損傷評価等に資する評価手法の整備を行います。さらに飛翔体衝突による建屋の外壁を想定した板構造に対する衝突試験データを取得するとともに、試験結果を踏まえた局部損傷評価手法や建屋内包機器の機能維持評価手法の確立により、原子力施設全体を対象とした影響評価が可能となるような評価手法の研究等を進めています。

図12
図12:板構造に対する衝突試験結果の例

(裏面側の損傷については、斜め衝突の方が垂直衝突よりも損傷が大きく低減することを確認するとともに、表面側の損傷については、保守的と考えられていた垂直衝突よりも斜め衝突のほうが貫入深さが深くなる場合があることを確認しました。)

図13
図13:飛翔体衝突による構造物の応力波伝播及び内包機器への影響評価例

(建屋内包機器への影響評価に資するため、飛翔体衝突時の鉄筋コンクリート構造物及び内包機器への影響評価に係る国際ベンチマーク(OECD/NEA IRISプロジェクト)に参画し、試験データを取得。試験結果の再現解析を通じて、建屋内包機器への影響評価手法を整備し、評価手法の妥当性を確認しました。)

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