研究内容
軽水型原子力発電所の長期間運転に伴い、経年事象を考慮した健全性評価はますます重要となっています。
また、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、地震等の外部事象を考慮した耐震安全性評価研究を強化する必要があります。このような背景の下、本研究グループでは、軽水型原子力発電所で使用されている機器・構造物の構造健全性を評価するための手法の研究開発を進めています。
対象とする機器類は、原子炉の安全性を確保する上で特に重要な、原子炉圧力容器(RPV)や原子炉冷却材圧力バウンダリの主要配管です。中性子照射脆化、応力腐食割れ等による機器類の経年劣化や、設計基準事象を超える大きな地震及び竜巻による飛来物や航空機等の飛翔体の衝突等の外部事象を考慮して、破壊力学等に基づく構造健全性評価手法の高度化に関する研究を行っています。
研究成果は、原子力安全規制行政に対する技術的支援や学協会の規格基準に対する提案に活用されています。
確率論的破壊力学を用いた健全性評価手法
中性子照射脆化、応力腐食割れや疲労などの経年劣化事象を考慮した健全性評価を行うため、本研究では、製造時から存在する亀裂や供用期間中に経年劣化事象により発生し得る亀裂などを想定して、破壊靭性などの材料特性、溶接残留応力、地震荷重、運転時や事故時の荷重、ならびに影響因子の不確実さを考慮して、重要機器の破損確率を破壊力学及びモンテカルロ法などの確率論的解析手法に基づき解析的に求める、健全性評価のための確率論的破壊力学解析コードPASCALシリーズの開発を進めています。



- 異なるパラメタを持つ容器を十分な数サンプリングし、全ての容器サンプルについて亀裂進展を計算する。
- 全サンプル数と破壊に至る容器の数から確立を算出する。

溶接残留応力解析手法
溶接残留応力は機器や構造物の健全性評価における重要な荷重条件です。
本研究では、原子炉圧力容器の突合せ溶接や肉盛溶接(オーバーレイクラッド)、配管の突合せ溶接、管台と配管の異材溶接などを対象として、熱伝導、相変態や弾塑性非線形などを考慮した溶接残留応力解析手法の研究を行っています。
また、試験結果を活用して、解析手法の妥当性確認を進めています。
原子炉圧力容器の内側には耐腐食性の高いステンレス鋼による肉盛り溶接が施されています。肉盛り溶接を模擬した有限要素解析モデルを作成し、溶接や溶接後熱処理 (PWHT) を模擬した解析を行っています。PWHTを行うことにより、原子炉圧力容器鋼における残留応力が低減されていることが分かります。
設計上の想定を超える事象に対応した損傷評価手法
設計上の想定を超える大きな荷重条件や高温状態などに対応して、機器・構造物の損傷を評価するための手法の構築に関する研究を進めています。
例えば、亀裂が存在する機器が大きな荷重を受けた場合、局所的な亀裂の延性進展を含む延性破壊挙動について損傷力学を考慮した有限要素解析により予測する手法の構築を進めています。
また、重大事故時における原子炉圧力容器を含む原子炉冷却系圧力バウンダリの構造強度及び破損評価を目的として、融点近くまでの高温に対応したクリープ損傷評価法の構築を進めています。


地震時原子炉建屋及び機器・配管の健全性評価研究
安全上重要な建屋・機器・配管を対象に、地震を起因とした確率論的リスク評価(地震PRA)に資するフラジリティ評価手法の整備に関する研究を進めています。
特に、地盤・建屋・機器・配管を一貫とした耐震評価に関わる3次元詳細解析手法の整備を進めるとともに、地震を起因とした確率論的リスク評価手法の高度化を目指しています。


具体的には、大規模観測システムによる観測記録を活用した3次元詳細解析手法の確立及び標準的解析要領の精緻化、地盤・建屋・機器・配管を考慮した地震時健全性評価手法、地震時損傷確率(フラジリティ)評価手法の高度化に関する研究等を進めています。


原子力施設の耐震安全性をさらに高い精度で評価することを目的に、原子力規制庁との共同研究の一環として、機構施設である高温工学試験研究炉(HTTR)を対象に大規模観測システムを構築しました。この大規模観測システムは、地盤や建屋の床だけでなく建屋の壁にも地震計を設置し、自然地震と人工波の両方を観測可能な世界初のシステムです。常設地震計とモバイル型地震計を組み合わせることで、建屋3次元詳細解析モデルの妥当性確認に必要な応答データを取得しています。
飛翔体衝突に係る原子力施設への影響評価研究
竜巻による飛来物や航空機などの飛翔体が原子力施設に衝突する場合に備え、原子力施設の安全性確保に必要となる評価手法を整備するため、飛翔体衝突による建屋や建屋内に設置されている機器(内包機器)への影響評価に関する研究を行っています。
具体的には、飛翔体の衝突速度や衝突角度等による建屋や内包機器への影響評価を通じて、衝突による原子力施設の損傷評価に係る手法の整備を行っています。飛翔体衝突による建屋外壁の局部損傷及び内包機器への影響評価のための試験を実施し、試験結果等を踏まえて損傷評価手法等を整備し、原子力施設を対象とした飛翔体衝突による影響評価が可能となるよう、試験及び解析の両面から研究を進めています。
建屋の外壁を想定した鉄筋コンクリート板構造に対する衝突試験の例

建屋外壁の局部損傷については、衝突物の壁への「貫入」、壁の「裏面剥離」及び衝突物の「貫通」に着目し、飛翔体の剛性(剛飛翔体及び柔飛翔体)、衝突角度(垂直及び斜め衝突)等を考慮した飛翔体衝突試験を実施し、建屋外壁を模擬した鉄筋コンクリート板構造の損傷状況に係る試験データを取得しました。
建屋及び内包機器を模擬した鉄筋コンクリート箱型構造への衝突試験の例

建屋内包機器への影響評価については、建屋外壁、内包機器及び衝突による影響を受けやすい部品を模擬した箱型試験体を用いて衝突試験を実施し、飛翔体衝突時の建屋における応力波伝播や内包機器への影響等に係る試験データを取得しました。
現実的な衝突条件(柔飛翔体、斜め衝突)における衝突試験の再現解析を実施し、飛翔体や鉄筋コンクリートの非線形特性及びそのひずみ速度依存性、試験体支持部のばね定数等を適切にモデル化することによって、解析結果と試験結果はよく一致することを確認しました。