令和8年10月1日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人北海道大学
国立研究開発法人国立環境研究所

スギ林の最適管理が日本のカーボンニュートラル達成の鍵
―新開発モデルで「気候変動対策」と「経済的利益」を両立させる持続可能な仕組みを提案―

【発表のポイント】

【概要】

近年急速に進行する気候変動の緩和のためには、国家レベルでの炭素排出量の削減が急務です。日本は2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガスの正味排出量ゼロ)実現に向け、森林による二酸化炭素(CO2)吸収量として3,120万トン/年(2030年中間目標値)を目指しています。しかし、主なCO2吸収源である植林地は、老齢化と面積縮小が進んでおり、森林のCO2吸収量は今後減少する見込みです。このため、植林地の速やかな更新・再整備を通じて、そのCO2吸収力を回復させる必要があります。同時に、林業は地域経済と深く結びついており、収益性(木材生産用の用材林では収穫材からの利益)への配慮が重要となります。ところが、植林地の炭素循環と経済性を統合的に評価した研究はなく、具体的な再整備方法の決定に至っていません。

本研究では、植林地の炭素循環と木材生産による利益を統合して計算する独自のシミュレーションモデル(改良版「SOLVEG2」)を開発しました。このモデルを用い、森林のCO2吸収量に最も寄与(41%(1))しているスギ植林地を対象に、現状の管理方法を炭素収支と経済性の両面から評価しました。その結果、180年間の林業経営では、45年周期で伐採・全木収穫を繰り返すサイクルが、CO2吸収量と木材生産による利益を同時に最大化させることが明らかになりました。この管理方法を国内全てのスギ植林地に適用すると、政府が掲げる森林吸収量目標(3,120万トン/年)の35~73%相当を実現できると試算されました。一方で、植林地管理には、林業コストの6割以上を補助金で賄う必要があり、既存のスギ植林地を持続的なCO2吸収源として維持するには、継続的かつ十分な経済支援が不可欠であることも分かりました。

森林資源の老齢化と面積縮小を踏まえ、政府は、下刈りやせん定といった保育作業コストの削減とCO2吸収量の増加を両立させるため、初期成長の早い「エリートツリー」の植林を推進しています。本研究の手法は、多様な森林に対して最適管理を提示でき、国や地方自治体における気候変動対策を見据えた、より包括的な森林管理計画の策定に貢献するものと期待されます。

なお、本研究は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範、以下「原子力機構」)原子力科学研究所原子力基礎工学研究センターの太田雅和研究副主幹、小嵐淳研究主席、国立大学法人北海道大学(総長:寳金清博)北方生物圏フィールド科学センター森林圏ステーション天塩研究林の高木健太郎教授、国立研究開発法人国立環境研究所(理事長:大島義人)地球環境研究センターの梁乃申シニア研究員、高橋善幸主席研究員によるものです。

本成果は、2026年7月28日付で学術誌「Resources, Conservation and Recycling」にオンライン掲載されました。

【これまでの背景・経緯】

近年急速に進行する気候変動の緩和のためには、国家レベルでの炭素排出量の削減が急務です。政府はパリ協定に基づき、2050年までのカーボンニュートラル実現を目標におき、森林のCO2吸収量として3,120万トン/年(2030年中間目標値)の確保を目指しています。一方で、主なCO2吸収源である植林地は、林業衰退に伴い老齢化と面積縮小が進み、森林のCO2吸収量は今後減少する見込みです(2,3)。カーボンニュートラル実現には、植林地の速やかな更新・再整備が必要です。特に、森林のCO2吸収量に最も寄与(1990~2000年は41%(1))しているスギ植林地の吸収力を回復させることが重要です。

林業は地域経済と密接に結びついて成り立つため、森林管理では社会経済性を考慮する必要があります。植林地の大部分は私有林(6割)で、主に用材林です。このため、植林地管理の研究では木材生産による利益に重点が置かれ、CO2吸収に及ぼす影響はほとんど調べられておらず、環境貢献(CO2吸収)と経済的利益を両立させる管理方法は見いだせていません。

【今回の成果】

本研究では、1)原子力機構が開発した、陸面での炭素の動きを計算するモデル「SOLVEG2」を改良し、スギ植林地のCO2吸収量と木材生産による利益の関係を計算可能にしました。そして、2)科学文献や自治体の林業ガイドラインのレビューから営林施策(施業)を選定し、3)施業を組み合わせた様々な管理のもとでスギ植林地のCO2吸収量と木材生産による利益を評価しました。

1)「SOLVEG2」の改良

SOLVEG2は、元々は原子力施設から放出される放射性炭素などの動態予測のためのモデルです。気象データと葉面積指数(地表面あたりの葉の総面積)を入力すると、地面付近の大気・土壌中の熱・水・炭素の動きを光合成・呼吸といった植物活動と連動させて予測し、樹木(地上・地下の木質部と非木質部)への炭素蓄積や森林によるCO2吸収量を計算します。

▶改良1 スギ植林地の炭素の動きを模擬

文献レビューを基に、樹木炭素の回転時間(木質部で35年)と、伐採・植林に伴う葉面積指数の変化(図1)をスギ林用に設定しました。樹木由来のリター(植物遺体、地上および地下の木質・非木質リター)の炭素プールも新規導入しました。これにより、スギの成長に依存する木材生産や、主伐や間伐※4時に発生する残材(枝葉、根)からのCO2放出を計算可能にしました。

▶改良2 管理林の利益計算を導入

利益には、「収穫材からの収入」「林業活動にかかる経費」「補助金」を考慮しました。収入計算では、伐採時の林齢から幹(丸太)の直径を定め、直径ごとのスギ丸太の市場価格から収穫材価格を算出しました。経費には、主伐と間伐(伐採、林内での集材、林外への搬出)、再造林(地ごしらえ、植林)、造林後の保育(下刈り、せん定)にかかる費用を計上しました。通常、これらの作業には国や自治体から補助金※5が支給されます。現行の支援事業を調査し、「低率補助」(作業別に0~50%を補助)、「中率補助」(61~68%)、「高率補助」(90%)を設定しました。

2)選定した施業

①伐採周期(森林更新間隔):30年、45年、90年、180年

既存のスギ植林地で実施可能な管理とするため、適用済みか適用検討中に該当する周期を選びました。更新間隔が短い30年周期の「短伐期施業」は、頻繁な経済収入を目的にした施業です。45年周期の「普通伐期施業」は、住宅建材として使われる直径25cm程度の材生産を目的とし、90年周期の「長伐期施業」は、梁や広板用の大径材(直径30cm以上)を目的としています。「超長期施業」(180年周期)は、造林頻度を減らすことで労働力削減を図ったものです。なお、主伐(皆伐)後はすぐに再造林し、図1の「主伐のみ」のように葉面積指数を整備しました。

②収穫方法:幹収穫[かんしゅうかく]、全木収穫[ぜんぼくしゅうかく]

一般的な収穫法である「幹収穫」では、伐採木から丸太として加工する幹部分(木質部の75%に相当)のみを収穫し、それ以外(枝、切り株、曲がり木など)は林内に残しました。「全木収穫」では、幹以外の木質部も収穫し、バイオマス資源(ウッドチップ用丸太)として収入に充てました。

③間伐実施の有無

間伐は、労働力や経費の問題から省略される場合があるので、実施の有無を検討しました。実施時は、10~20年間隔で森林内の樹木の30%を伐採しました(図1の「主伐と間伐」)。

④間伐方法:切り捨て間伐、利用間伐

「切り捨て間伐」では、間伐時の伐採木をすべて林内に残しました。「利用間伐」では、幹収穫あるいは全木収穫によって伐採木から木材を収穫しました。

図1 スギ植林地の葉面積指数(モデル入力値)の時間変化

3)スギ植林地のCO2吸収量と経済性

2)の①~④の施業を組み合わせた24通りの管理方法の下で、180年間の林業経営を評価しました。利益は、改良2の3つの補助率について算出しました。

その結果、伐採周期30年あるいは45年の管理で、CO2吸収量を最大にできることが分かりました(図2)。30年あるいは45年周期で再造林をすると、スギ林は成長速度が速く、木質部への炭素蓄積率が高い若齢林の状態が保たれたためでした。一方、90年および180年周期では、更新サイクル後半は成長ピークを過ぎた成熟林・高齢林となり、木質部への炭素蓄積率は低下しました。結果、スギが成熟するまで主伐を待つよりも若いスギを頻繁に伐採する方が、評価期間中の累積木材生産とそれに依存するCO2吸収量は大きくなりました。地方自治体の林業ガイドラインは、スギの伐採周期として40~50年(普通伐期)を広く推奨しています。私たちの結果は、気候変動対策の観点から現状の推奨管理を支持するものでした。

施業間の比較では、幹収穫よりも全木収穫の方がCO2吸収量が向上しました(図2)。これは伐採後の残材が減り、リター分解によるCO2生成(大気へのCO2放出)も減ったためです。同じ理由で、切り捨て間伐から利用間伐に切り替えると、CO2吸収量が増加しました。政府は、林業活性化の一環で、残材や間伐材の商業利用を進めています。私たちの結果から、この林業戦略が気候変動対策としても有効であることが分かりました。

図2 スギ植林地に対する補助率別のCO2吸収量と木材生産利益

低率補助に対して、中率補助は182~1530円/m2、高率補助は307~2370円/m2を追加投入(180年分、額は管理方法で異なる)

スギ植林地の最適な管理が国家レベルの炭素排出量の削減効果をもたらすことも示されました。国内の全てのスギ植林地(450万ヘクタール)が、一般的な手法である幹収穫と切り捨て間伐を伴う普通伐期施業下にあると仮定します。該当するCO2吸収量(11.9 kg-C/m2、図2の)から、スギ植林地全体の総吸収量は3.0 Tg-C/年と試算されます(T、テラは1兆倍)。この値は、国内林の炭素インベントリデータを用いた別の推定値(2011~2061年の平均で約3.3 Tg-C/年(4))とほぼ一致し、私たちの試算は妥当と考えられます。さらに、切り捨て間伐の代わりに利用間伐を実施(図2の)することで、吸収量は1.4 Tg-C/年増加し、幹収穫から全木収穫へ移行する(図2の)と、さらに1.8 Tg-C/年増えます。3つの推定値(3.0、4.4、6.2 Tg-C/年)は、日本の森林CO2吸収量目標(2030年に3,120万トン)の35%、51%、73%に相当し、温室効果ガス排出・吸収量目標(CO2換算で2030年に7億6,000万トン)の1.4%、2.1%、3.0%を相殺します。政府は大気に排出されるCO2を分離・回収・地下貯留するCCS(CO2 Capture and Storage)技術を推進し、2050年までに1億2,000万~2億4,000万トン/年の回収を見込んでいます。上記の推定値は、この回収量の9.2~4.6%、13~6.7%、19~9.5%に相当します。これらの比較から、スギ植林地の適切な更新・再整備は国家レベルの炭素排出量の削減効果をもたらし、カーボンニュートラル達成に大きく貢献できる施策と言えます。

一方で、植林地管理の経済性は補助金依存であることも分かりました。現行の支援事業の平均補助率は70~80%(5,6)であり、本研究で推奨した45年周期の管理は最も利益が得られると想定されます(図2の中率補助)。しかし、補助率が下がると、更新間隔が短く、造林コストが高い45年周期は利益が負となります(低率補助)。この場合、90年や180年周期が選択肢となり、CO2吸収量は45年周期の同じ管理よりも12~48%劣ります。加えて、利益が見込めない状況では主伐が先送りされたり、管理自体が放棄されたりする可能性さえあります。事実、主伐後のスギ植林地の36~70%が再造林されていません。既存のスギ植林地をカーボンニュートラルに持続的に貢献させるには、林業部門への継続的かつ十分な経済支援が不可欠ということが分かります。

【今後の展望】

老齢化と面積縮小は、過去に広く造林されたヒノキ植林地などでも進んでいます。政府は、保育コスト削減とCO2吸収量増加を両立させるべく、「エリートツリー」の植林を推進しています。本研究の手法は、多様な樹種について効率的な炭素管理を行う上で最適な管理方法を提示できるので、国や自治体の補助金の在り方も含めた気候変動対策としての森林管理計画の策定に貢献できます。改良版「SOLVEG2」は、気象データを入力値とするので、気候変動(高温化や乾燥化)による管理林の炭素収支や生産性の変化の将来予測への活用も期待できます。

【論文情報】

雑誌名:Resources, Conservation and Recycling

論文タイトル:Sustainable management for Japan’s cedar stands towards national carbon neutrality

著者(所属):Masakazu Ota (原子力機構), Kentaro Takagi (北海道大学), Naishen Liang (国立環境研究所), Yoshiyuki Takahashi (国立環境研究所), Jun Koarashi (原子力機構)

DOI:https://doi.org/10.1016/j.resconrec.2026.109089

【コード公開情報】

本研究で開発した改良版「SOLVEG2」の計算コードは、原子力機構のコンピュータプログラムなどの検索システム「PRODAS」(https://prodas.jaea.go.jp)を通して入手することができます。

【各機関の役割】

原子力機構
太田雅和研究副主幹:研究考案、モデル開発・計算、データ解析、考察、執筆
小嵐淳研究主席:研究考案、現地調査、データ解析、考察、執筆、全体の助言
北海道大学
高木健太郎教授:現地調査、データ取得、考察、プロジェクト管理
国立環境研究所
梁乃申シニア研究員:現地調査、データ取得
高橋善幸主席研究員:現地調査、プロジェクト管理

【参考文献】

  1. 森林総合研究所, 2001. https://www.ffpri.go.jp/pubs/seikasenshu/2001/18matsumoto.html
  2. 光田靖, 鹿又秀聡, 松本光朗, 2013. 森林炭素動態シミュレーションシステムを用いた気候変動が森林炭素吸収量に及ぼす影響評価の試行. 統計数理 第61巻 第2号, 181-188.
  3. Toriyama, J., Hashimoto, S., Nakao, K., Saitoh, T.M., Nishizono, T., Uchiyama, K., Araki, M.G., Murakami, W., Hirata, Y., 2025. Management strategies for shrinking and aging tree plantations are constrained by the synergies and trade-offs between carbon sequestration and other forest ecosystem services. J. Environ. Manag. 373, 123762.
  4. Egusa, T., Nakahara, R., Neumann, M., Kumagai, T., 2024. Carbon stock projection for four major forest plantation species in Japan. Sci. Total Environ. 927, 172241.
  5. 當山啓介, 龍原哲, 白石則彦, 2012. 多様な条件下でのシミュレーションによるスギ人工林の伐期と間伐体系の検討. 日本森林学会誌 第94巻6号, 269-279.
  6. 田代雅之, 2015. 人工林皆伐と再造林の動向―第27回森林組合アンケート調査結果から―. 農林金融 第68巻 第6号 通巻832号, 51-56.

【助成金の情報】

本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(科研費)基盤研究C(課題番号JP20K12143)、地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)(課題番号JPJS00420230001)、日中韓フォーサイト事業(CarboEastAsiaおよび北東アジアにおける生態系の温室効果ガス交換とその気候変動への応答に関する研究)(課題番号JPJSA3F20220002)、および環境省環境研究総合推進費(課題番号2-2006)の助成を受けて実施しました。

 

【用語の説明】

※1 スギ植林地

スギ(学名:Cryptomeria japonica)は、第二次世界大戦後の木材需要の急増に伴い、広く造林されました。現在は植林地面積の約4割を占め、国産材の約6割を生産しています。

※2 ヒノキ植林地

ヒノキ(学名:Chamaecyparis obtusa)は、スギ同様に広く造林されました。現在は植林地面積の約3割を占め、国産材の約1割を生産し、森林のCO2吸収量の約1割(3)に寄与しています。

※3 エリートツリー

成長の速いスギ、ヒノキ、その他の商業樹種を指します。各地の山で選抜された精英樹(第1世代)の中で、特に優れたものを交配した第2世代以降の樹種です。初期成長の早さが特徴で、植栽本数や下刈り回数の低減や、伐採周期の短縮が期待されます。

※4 主伐、間伐

主伐は、森林更新時の樹木の伐採・収穫のことです。間伐は、樹木の成長を促進するために造林後に定期的に森林内の樹木を伐採して間引きすることです。

※5 補助金

スギ植林地の造林・再造林時や造林後の保育・間伐には、国や地方自治体から森林整備事業や花粉発生源対策事業などの補助金が出ます。

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