令和8年9月7日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
図1:変形したフェルミウム(252Fm)原子核の回転速度が増加する様子(左図)と、回転エネルギーの様子(中図)
回転運動の様子から、252Fmは、陽子数100、中性子数152の魔法数を有し、周囲の原子核と比べ、原子核がより強く結合している(右)
原子核は陽子と中性子(総称して核子という)がいくつも集まってできており、これら核子の間に働く強い引力(核力)によって原子核としてまとまり、安定に存在しています。陽子と中性子の個数が魔法数※1と呼ばれる数になると、核子はより強く結びついて安定するとともに、原子核の形は球形※2になることが、ウランより軽い原子核で知られています。一方、ウランより重い原子核の魔法数は未だ明らかでなく、放射性人工元素フェルミウム252(252Fm、陽子数100、中性子数152)が魔法数の性質を示すことが一部の実験で知られていましたが、決定的な証拠はありませんでした。
我々は、日本原子力研究開発機構のタンデム加速器※3で得られる重イオンビームを放射性アクチノイド標的に照射して252Fmを合成し、252Fm原子核が回転する様子(回転エネルギー※4)を初めて観測することに成功しました。その結果、回転楕円体に変形した原子核では陽子数100と中性子数152がどちらも魔法数となり、252Fmが変形した二重魔法核※5であることを実証しました。
フェルミウムよりもさらに重い超重元素の領域にも「安定の島※6」と呼ばれる二重魔法核の存在が予測されており、多くの未開拓原子核が存在すると期待されています。本研究は、この「安定の島」領域の原子核の構造をより正確に知る手がかりを与え、元素の周期表がどこまで伸びるか、どのくらい重い原子核が存在できるか、という基本的な問いに答える第一歩となります。また、重い原子核の構造に対する新たな知見は、長寿命放射性廃棄物を核変換によって減容処理する際に必要となる原子力核データの構築に貢献します。
本研究は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範、以下「原子力機構」)原子力科学研究所先端基礎研究センターのオルランディ・リカルド研究主幹、浅井雅人マネージャーらによる成果です。
本研究成果は、8月17日付(現地時間)の「Physical Review Letters誌」に注目論文(Editors’Suggestion)として掲載されました。
原子核が魔法数の陽子や中性子を持つと強い結合力が生まれるのは、原子核のミクロな性質(量子力学的な殻構造)に由来します。陽子と中性子は原子核の中でそれぞれ軌道運動をしており、その運動エネルギーは階段のようなステップ状の値を取ります。これがミクロな世界における量子力学的な性質の一つです。階段の段差も一定ではなく、特に大きな段差があるところでは次の段に上るのに大きなエネルギーを必要とするため、原子核は励起されにくく安定になります。この大きな段差を「殻間隙(シェルギャップ※7)」と呼び、その段差が現れる陽子や中性子の数を魔法数と呼びます。陽子と中性子は各段に2個しか入ることができず、下から順に階段を埋めていき魔法数に達すると、まるで殻を閉じるように原子核は安定します。この状態を閉殻といい、このような原子核の構造を殻構造と呼びます。この性質は原子における電子軌道の振る舞いとも類似しており、ヘリウムやネオンなどの希ガス原子が化学的に安定な理由も、この閉殻性に由来します。原子核の場合、陽子と中性子は別々の階段を作るため、陽子と中性子の両方が同時に閉殻になる原子核は特に安定になります。このような原子核のことを二重魔法核と呼びます。
原子核の殻構造は、原子核の存在限界を広げます。殻構造を考えない理論では、原子番号104番までの原子核しか存在できません。しかし、殻構造による安定化効果によって、はるかに重い元素(超重元素)まで存在できるようになります。元素がどこまで存在できるか、どのくらい重い原子核まで作ることができるかを知るには、ウランより重い原子核で殻構造を詳しく調べる必要があり、本研究ではこれを目指しました。
具体的には、陽子数Z=100、中性子数N=152を持つ252Fmに着目しました。この原子核は、陽子と中性子の両方が閉殻になると長く考えられてきましたが実験データは限定的でした。特に、このフェルミウム原子核にエネルギーを与え、そこから放出されるγ線を測定する実験は、世界中の大型の加速器実験施設で試みられたにも関わらず成功せず、二重魔法核であるという決定的な証拠がありませんでした。
図2 (左)256Noのアルファ(α)崩壊後に252Fmから放出されるガンマ(γ)線のスペクトル
アルファ崩壊によりI=2準位が占有されると、2+→0+遷移に対応するγ線ピークが41.88keVに観測された。I=4準位が占有されると、4+→2+遷移のγ線が97.84keVに観測された。 (右) 256Noのアルファ崩壊で生成された252Fm、アルファ粒子と同時に放出されたγ線の想像図
そこで私たちは、原子力機構が所有するタンデム加速器からの優れたビーム特性と、独自に開発した検出器を用いることで、初めて252Fmからのγ線を捉えることに成功しました。得られたデータは、過年度に実施した複数の実験結果を統合して解析したものです。
実験は二つの異なる手法で行いました。第一の方法では、放射性カリホルニウム同位体の標的に炭素ビームを照射してノーベリウム原子核(256No、原子番号102)を合成し、この原子核がアルファ崩壊してできる娘核252Fmを観測しました。256Noのアルファ崩壊では、10%の確率で252Fmの回転状態がつくられます。実験では、この回転運動が失われる際に放出されるγ線を測定して回転エネルギーを決定しました。具体的には、スピン量子数※8I=2の状態から基底状態(I=0)への遷移(2+→0+)、およびI=4からI=2へ(4+→2+)のγ線をとらえました。観測された252Fmのγ線スペクトルを図2に示します。
第二の方法では、249Cf標的に酸素ビームを照射することで、よりエネルギーの高い252Fmの回転状態を生成し、6+→4+、8+→6+、10+→8+という高いスピン状態間の遷移に対応するγ線を検出しました。使用した実験装置を、図3に示します。これら二つの実験は、252Fmの回転運動を初めてとらえたもので、これらの結果から252Fmの回転運動の詳細が明らかになりました。
図3 :第2の方法による実験装置の概略図(左)と写真(右)
18O(酸素)ビームを249Cf標的に照射すると、酸素原子核から249Cfへ2個の陽子と1個の中性子が移行し、が生成されると同時に15Cが放出される。この15CをSi検出器で同定することでの生成を確認した。からのγ線はゲルマニウム(Ge)検出器と臭化ランタン(LaBr3)シンチレーターで検出した
252Fmの回転エネルギーと各準位のスピンから、図4に示す式を用いて、回転に対する抵抗の大きさを表す量(慣性モーメント※9)を算出し、252Fm周辺の他の原子核と比較しました。
図4 (左)回転運動の様子 (中央)252Fmの準位図(エネルギー単位はkeV、(I)は各準位のスピンを示す)
(右):回転準位のエネルギー、スピン、および慣性モーメントの間の関係式
シェルギャップが存在すると、変形した原子核は「回りにくく」なり、慣性モーメントが大きくなることが知られています。図5に示すように、252Fmは周囲の原子核と比較すると最大の慣性モーメントを持つことが明らかになりました。この結果は、Z=100およびN=152にシェルギャップが存在する証拠となり、252Fmが二重魔法核であることを強く示唆しています。
ウランより軽い原子核で知られている二重魔法核はすべて球形ですが、今回の結果では、変形した原子核が二重魔法核となっています。ウランより重い原子核では、このような変形した二重魔法核の存在が原子核の安定性に大きく影響しています。フェルミウムよりもさらに重い超重元素領域には、他にも変形した二重魔法核や、「安定の島」と呼ばれる球形の二重魔法核の存在が予測されています。今回の結果は、これら二重魔法核の性質や構造を理論的に予測し、重い原子核の存在限界を明らかにする上で重要な知見となりました。
図5:中性子152個を持つ同位体(左)と陽子100個を持つ同位体(右)の慣性モーメントの測定結果
252Fmでは両者とも最大の慣性モーメントを示した
「安定の島」は『元素の周期表がどこまで伸びるか』を支配する人類未到達の究極のフロンティアです。一方で、宇宙における元素合成過程では「安定の島」領域の超重元素も作られており、それが軽い元素の組成にも影響を及ぼしていると考えられています。超重元素の開拓は、我々の身の回りの元素の生成過程についても深い考察を与えものとして重要です。
今後は、フェルミウムよりもさらに重い超重元素領域の魔法数の研究を進めていきます。一方、陽子数や中性子数が増えるほど、エネルギー準位が密になり、γ線の遷移エネルギーが小さくなるため、従来のゲルマニウム検出器では検出が難しくなる問題が生じます。これを克服するため、私たちは低いエネルギーに感度がある新たな検出器(CdTe検出器)システムを開発しています。これにより、超重元素のγ線測定技術が飛躍的に向上し、より重い原子核の描像を明らかにできると期待されます。
雑誌名:Physical Review Letters (2026)
タイトル:"Deformation and Magicity in Heavy Actinides: First Observation of the Ground-State Rotational Band of 252Fm"
著者:R. Orlandi, M. Asai, H. Makii, K. Nishio, A. N. Andreyev, A. V. Afanasjev他24名
所属:日本原子力研究開発機構、ヨーク大学・英国、ミシシッピ州立大学・米国 他
DOI:https://doi.org/10.1103/7gzt-ldn5
本研究はJSPS科研費(25K07344、17H02893)、原子力機構の黎明研究、大阪大学国際共同研究促進プログラム、英国STFC、および米国エネルギー省・助成金DESC0013037の支援を受けて実施しました。
原子核を特に安定にする、ある特定の陽子数あるいは中性子数のこと。原子核の中の陽子あるいは中性子の個数が2, 8, 20, 28, 50, 82となる原子核は、他の原子核と比較して特に安定であり、これらの数を魔法数と呼ぶ。中性子の場合は126も魔法数となることが知られている。一方、陽子数が126の原子核は、未だ人類が合成することができないため、魔法数となるか否かは不明である。
原子核は多数の陽子と中性子が密に集合し、全体として球に近い形を持つ。最も一般的な形は、球を少し引き伸ばした、ラグビーボールのような長球状の形である。一方で、二重魔法核は、ほぼ球形の形を持つ。球形でない原子核は、球を少し変形させた形を取っていることから、変形核と呼ばれる。
電極間に高い静電圧を印加することで、イオンを高エネルギーに加速する、静電加速器の一種。最初、負イオンとして加速した後、イオンから電子を剥ぎ取って多価の正イオンに変換し、再度加速する2段階の加速機構を有するため、タンデム加速器と呼ばれる。原子力機構のタンデム加速器(図6)は、2,000万ボルトの電圧を発生させることができる、世界最大の静電加速器である。
図6: 原子力機構タンデム加速器の原理(左)と施設外観の写真(右)
原子核がコマのように回転する際のエネルギー状態。量子力学の性質上、回転状態のエネルギーは連続的ではなく、離散的(階段状)となる。
陽子数と中性子数の両方が魔法数である原子核。
超重元素のうち、特に長寿命になると予測される領域。安定の島を生み出す陽子および中性子の魔法数として、陽子数Z=114、120、126、および中性子数N=184が最有力候補に挙げられている。
陽子と中性子は原子核内で軌道運動をしている。量子力学の性質上、その軌道運動のエネルギーは離散的であり、エネルギー間隔も様々である。これらの軌道のうち、エネルギー間隔が特に大きく開くところをシェルギャップ(殻間隙)と呼ぶ。シェルギャップが大きいほど、核子は高いエネルギーの軌道に上がりにくくなり、原子核の安定性が高まる。
原子核が持っている「回転の勢い」の大きさを表す量。量子力学の性質上、回転状態のスピンは連続的ではなく、離散的(2、4、6…といった階段的)な値をとる。
原子核の回転しにくさ、「剛性」を表す物理量。古典力学的には、構成粒子の質量と、構成粒子が回転軸からどれだけ離れて分布しているかによって決定される。しかし、原子核は量子力学に支配されるため、慣性モーメントは単なる幾何学的配置だけでなく、核子間の相互作用(特にペアリング)の影響も受ける。この性質から、変形した二重魔法核において、その値が最大になる傾向がみられる。