令和8年8月21日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

ウラン半導体に磁気の「強弱の波」を発見
―層状磁性体の磁気制御に向けた新たな手がかり―

【発表のポイント】

【概要】

磁気を利用した省エネルギー情報処理や量子材料の開発では、物質中の磁気を制御できることが重要です。薄い層が積み重なった層状物質には、結晶を薄くしたり、層間に別の元素を入れたりすることで磁気的性質を変えられる可能性があります。しかし、ウランを含む層状物質の磁気構造は、これまで十分に分かっていませんでした。

研究チームは、ウラン原子とテルル原子からなる層状半導体α-UTe3(アルファ・三テルル化ウラン)において、ウラン原子の磁気の大きさが周期的に変化する「強弱の波」を発見しました。α-UTe3は、ウラン原子とテルル原子からなる層が弱い力で積み重なった「ファンデルワールス物質」(1)です。本研究では、原子力機構が育成した純良単結晶を用い、核磁気共鳴(NMR)(2)と単結晶中性子回折(3)を組み合わせて磁気構造を調べました。

通常の反強磁性体(4)では、ほぼ同じ大きさの磁気が互いに打ち消し合う向きに並びます。これに対しα-UTe3では、ウラン原子の磁気は結晶の特定方向を向き、原子鎖に沿って交互に反対向きに並ぶ一方、その大きさが結晶中の位置に応じて周期的に変化していました。さらに、その周期は原子配列の周期と一致しないことから、この磁気構造は「非整合な振幅変調型反強磁性」と呼ばれます。このような磁気の「強弱の波」は、典型的には電子が結晶中を動き回る金属で現れます。今回の発見は、磁気を担う電子が主にウラン原子の近くにとどまる半導体でも、磁気が特定方向を向きやすい性質と、原子間の磁気的相互作用の競合によって、磁気の大きさが周期的に変化する状態が生じ得ることを示したものです。

研究チームは今後、α-UTe3の結晶を薄くしたり、層と層の間に別の元素を入れたりすることで、磁気の「強弱の波」がどのように変化するかを調べます。こうした研究を通じて層状物質の磁気を制御する方法を開拓し、将来的には、省エネルギー型磁気情報素子に向けた材料設計や、新しい量子材料の開発につなげることを目指します。

本研究は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範、以下「原子力機構」という。)原子力科学研究所 先端基礎研究センター 強相関アクチノイド科学研究グループの酒井宏典研究主幹、徳永陽グループリーダー、物質科学研究センター 強相関材料物性研究グループの金子耕士グループリーダーらによるものです。

本研究成果は、2026年8月7日(現地時間)に米国物理学会誌「Physical Review B」に掲載されました。また、本論文は同誌の注目論文である Editors’ Suggestion に選出されました。

【これまでの背景・経緯】

グラファイトは、炭素原子1層からなるグラフェンが積み重なった物質です。このように、原子からなる薄い層が弱い力で重なった層状物質は「ファンデルワールス物質」と呼ばれます。ファンデルワールス物質では、薄くはがした層と元の厚い結晶とで異なる性質が現れることがあり、新しい二次元材料の候補として注目されています。近年では、MoS2などの層状半導体をトランジスタ、メモリ、光デバイスなどに利用し、省エネルギー化や高機能化につなげる研究が行われています。

特に、磁気を持つファンデルワールス物質では、薄層化によって磁気の向きや大きさを変えられる可能性があります。そのため、二次元材料、スピントロニクス、量子情報材料につながる新しい研究分野として、世界中で研究が進んでいます。

一方、ウラン化合物は、ウラン原子中の電子が、普通の元素では見られない磁性や超伝導を生み出すことがあります。しかし、ウランを含むファンデルワールス物質は研究例が限られており、その中でウラン原子の磁気がどのように現れ、どのように並ぶのかは、これまでほとんど明らかにされていませんでした。原子力機構は、これまで培ってきたウラン化合物研究の知見と実験技術を生かし、この未解明の磁性を明らかにする研究に取り組みました。

図1に示すように、α-UTe3はウランとテルルからなる層状半導体で、低温で磁気が現れることは知られていました。一般的に、磁気を持つ半導体は原子それぞれが持つ磁気の大きさはほぼ一定で、規則的に並ぶと考えるのが自然です。α-UTe3でも、ウラン原子の磁気の大きさはほぼ一定であると考えられていました。

図1: α-UTe3の結晶構造

α-UTe3はウラン原子とテルル原子からなる層が積み重なった構造を持つ。黄色で示した部分は、層と層の間に対応し、層間はファンデルワールス力と呼ばれる弱い力で結合している。そのため、α-UTe3はグラファイトのように薄くはがしやすい

しかし図2に示すように、α-UTe3の結晶中で、ウラン原子は二等辺三角形の頂点上に規則的に配置されています。そのため、α-UTe3が磁性を示さないように、隣り合うウラン原子の磁気を反対向きに並べようとしても、すべての関係を同時に成り立たせることができません。このように、磁気の向きが一つの単純な並び方に決まりにくい状態は「磁気フラストレーション」と呼ばれます。したがって、α-UTe3の中でウラン原子の磁気が実際にどのように並ぶのかを明らかにすることが、重要な課題でした。

図2: α-UTe3におけるウラン原子位置の模式図

ウラン原子は、最も近い原子同士を結ぶと、b軸方向に鎖状に並ぶ。さらに、次に近いウラン原子同士を細線で結ぶと、図中に示した二等辺三角形ユニットが連なったジグザグ状の平面を形成する。赤い矢印は、ウラン原子の磁気の向きと大きさを表す磁気モーメントである。最近接の「1」と「2」の磁気モーメントが互いに反対向きに並ぶ場合、「3」に位置するウラン原子の磁気モーメントは、「1」と「2」の両方に対して同時に反対向きになることができない。このため、すべてのウラン原子の磁気を単純に反対向きに並べることはできず、磁気の並び方が一つに決まりにくい「磁気フラストレーション」が生じる

【今回の成果】

本研究では、α-UTe3の純良単結晶(図3左)を用い、電気抵抗率、比熱、磁化を精密に測定するとともに、核磁気共鳴(NMR)(2)中性子回折(3)を組み合わせて磁気構造を調べました。その結果、α-UTe3は電気を流しにくい半導体で、約5ケルビン以下の低温で反強磁性を示すことを確認しました。

さらにNMR測定から、反強磁性が現れる温度よりも高い約20ケルビン以下で、ウラン原子の磁気の揺らぎが、結晶のa軸方向に強く偏ることが分かりました。磁気がまだ一定方向に固定されていない状態でも、すべての方向に同じように揺らぐのではなく、a軸方向に沿って揺らぎやすくなっていたのです。これは、ウラン原子の磁気がa軸方向を向く方が安定であることを示しており、磁気の向きやすさに強い方向性があることを意味します。

中性子回折測定では、5ケルビン以下の低温で、ウラン原子の磁気がどのように並んでいるのかを調べました。NMR測定で得られた情報と中性子回折の結果を組み合わせることで、図3右に示す磁気構造モデルを導きました。

図3: (左)本研究で用いたα-UTe3の純良単結晶と(右)ウラン原子の磁気の並びを示した磁気構造モデル

右図は見やすくするため、テルル原子は省略し、ウラン原子の磁気モーメントを赤い矢印で示した。矢印の向きは磁気の向き、長さは磁気の大きさを表す。低温になると、磁気モーメントはa軸方向を向き、b軸方向のウラン原子鎖では交互に反対向きに並ぶ。一方、その大きさはa軸方向の位置に応じて周期的に強くなったり弱くなったりして、磁気の「強弱の波」を形成する

この磁気構造モデルでは、ウラン原子の磁気は結晶のa軸方向を向き、b軸方向に連なるウラン原子鎖では交互に反対向きに並びます。一方、磁気の大きさは一定ではなく、結晶中の位置に応じて周期的に強くなったり弱くなったりします。これが、磁気の「強弱の波」です。この「強弱の波」の周期は、原子配列の周期とはぴったり重ならず、原子配列に対して同じ位置関係を周期的に繰り返しません。このように、磁気と結晶の周期が一致しない状態を「非整合」と呼びます。今回明らかになった磁気状態は、「非整合な振幅変調型反強磁性」です。このように磁気の大きさが周期的に変化する状態は、典型的には電子が結晶中を動き回る金属などで現れます。一方、α-UTe3のように、磁気を担う電子が主にウラン原子の近くにとどまる半導体では、各原子の磁気の大きさはほぼ一定と考えるのが一般的です。したがって、α-UTe3で磁気の「強弱の波」が見つかったことは、半導体における磁気秩序の従来の理解を広げる発見です。

この磁気状態が生じる背景には、ウラン原子の磁気がa軸方向を向きやすい性質と、ウラン原子間の磁気的相互作用の競合が関係していると考えられます。NMR、中性子回折、比熱、磁化の測定結果と結晶構造を総合すると、α-UTe3では、ウラン原子が鎖状に並ぶと同時に、図2に示した二等辺三角形をつくるように配置されています。このため、あるウラン原子との間で磁気を反対向きに並べようとすると、別のウラン原子との間では、その関係を同時に満たせない場合があります。このような磁気的相互作用の競合と、磁気が特定方向を向きやすい性質が組み合わさることで、磁気の「強弱の波」が現れたと考えられます。

以上の結果は、α-UTe3の磁気構造を明らかにしただけでなく、層状のウラン半導体において、ウラン原子の電子が持つ強い方向性と、層内で競合する磁気的相互作用が組み合わさることで、非整合な振幅変調型反強磁性が現れ得ることを示しています。本成果は、これまで研究例の限られていたウランを含む層状物質の磁性を理解する手掛かりとなり、ウラン化合物研究と、層状物質、二次元磁性、量子材料の研究をつなぐ基盤になると期待されます。

【今後の展望】

今後、今回用いた多数の層からなるバルク単結晶を薄片化して厚さを変えるほか、層と層の間に別の元素を入れたり、圧力を加えたりすることで、磁気の「強弱の波」がどのように変化するかを調べます。これらの操作によって、「強弱の波」の周期や、反強磁性が現れる温度を変えられる可能性があります。こうした研究を通じて、層状ウラン化合物の結晶構造と磁気状態の関係を明らかにし、外部から磁気を制御するための指針を得ることを目指します。

本成果は、ウラン化合物研究と、層状物質、二次元磁性、量子材料の研究を結び付ける基盤となるものです。将来的には、層状磁性体の磁気を制御する新たな原理の開拓を通じて、省エネルギー型磁気情報素子の材料設計や、新しい量子材料の開発につながることが期待されます。

【論文情報】

雑誌名:Physical Review B (2026).

タイトル:“Incommensurate antiferromagnetism with amplitude modulation in the semiconducting 5f van der Waals magnet α-UTe3
(5f電子系ファンデルワールス半導体磁性体α-UTe3における振幅変調型の非整合反強磁性)

著者名:Hironori Sakai, Chihiro Tabata, Koji Kaneko, Yoshifumi Tokiwa, Takafumi Kitazawa, Shinsaku Kambe, Yo Tokunaga, and Yoshinori Haga

DOI:https://doi.org/10.1103/jls4-6s89

【助成金等の情報】

本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業(JP21H04987、JP23H04867、JP23H04871、JP23K03332、JP23K25829、JP24KK0062、JP24K00590)および原子力機構の黎明研究制度の助成を受けて実施しました。中性子散乱実験は採択課題 D836 および D1053 として実施しました。

【用語の説明】

(1) ファンデルワールス物質

原子レベルの厚みを持つ薄層のシートがファンデルワールス力と呼ばれる弱い力で重なった物質。層の中では原子同士が強く結びついている一方、層と層の間の結合は弱いため、グラファイトからグラフェンを取り出すように、薄くはがすことができる。近年では、MoS2、WS2、WSe2 などの層状半導体を、トランジスタ、メモリ、光デバイスなどに利用し、省エネルギー化や高機能化を目指す研究が進んでいる。そのため、ファンデルワールス物質は、次世代の二次元材料・量子材料の候補として注目されている。

(2) 核磁気共鳴 (NMR)

原子核が持つ磁気的な性質を利用して、物質内部の状態を調べる実験手法。強い磁場の中で原子核に電波を当てると、特定の周波数で応答する。この応答を調べることで、原子核のまわりの電子状態や磁気状態を知ることができる。医療で使われるMRIは、この核磁気共鳴の原理を応用したものである。本研究では、テルル原子核の核磁気共鳴を用いて、α-UTe3の内部でウラン原子の磁気がどの方向を向きやすいかを明らかにした。

(3) 中性子回折

中性子を結晶に当て、その散乱のされ方から、物質内部の原子の並び方や磁気の並び方を調べる実験手法。中性子は電荷を持たないため、物質の内部まで入り込みやすく、原子核の位置を調べることができる。また、中性子自身も磁気的な性質を持つため、物質中の磁気の並び方を調べることにも適している。本研究では、α-UTe3の単結晶に中性子を当てることで、ウラン原子の磁気が結晶中でどのように並んでいるかを調べた。

(4) 反強磁性体

鉄などの強磁性体では、原子が持つ磁気が同じ方向にそろうため、物質全体が磁石として振る舞います。これに対し反強磁性体では、隣り合う原子の磁気が主に反対向きに並び、互いに打ち消し合うため、物質全体としては大きな磁気を示しません。ただし、物質内部には規則正しい磁気の配列が存在します。酸化マンガン(MnO)や酸化ニッケル(NiO)などが代表例です。一般的な反強磁性体では原子の磁気の大きさはほぼ一定ですが、α-UTe3では、その大きさが結晶中の位置に応じて周期的に変化していました。

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