令和8年3月24日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

微粒子を 回転すると 倍回る
―ブラウン運動とコリオリ力が織りなす回転体中での自発回転―

【発表のポイント】

図1:磁性微粒子を含んだ試料を回転させた時の微粒子の自発回転

ブラウン運動のある液体状試料では、ブラウン運動のない凍結試料や乾燥試料と比べて微粒子が自転する分、試料の回転に上乗せが起きて回転の速さが増大している

【概要】

本研究では、ブラウン運動する微粒子を含んだ溶液を回転させると、液体の回転速度に対して微粒子が最大で2倍の速さで自転することを発見しました。

ブラウン運動は、熱的に振動する分子が衝突して生じる、微粒子の不規則な運動です。ある方向の動きと反対方向の動きが平均して打ち消し合うため、ブラウン運動では特定方向への運動を作ることはできない、というのが常識でした。

研究チームは独自の測定技術を用いて、ナノメートルサイズの磁石の微粒子がブラウン運動している液体「磁性流体」について、高速回転させた際の磁力変化を測定しました。その結果、液体状の試料の磁力は、液体を除いた乾燥試料や液体を凍らせた凍結試料と比べ、最大で2倍増大することを発見しました。高速回転する磁性体の磁力の強さは自転速度に比例する(バーネット効果)ので、この結果は、液体中の微粒子が周囲の液体よりも最大で2倍の速さで自転することを示します。分析すると、この付加的な自転の要因は、地球のような回転する物体上で働く見かけの力(コリオリ力)でした。微粒子のブラウン運動に規則性を与え、結果として微粒子には外と同じ方向の回転力が加わり、同じ方向の自転が生じていました(図2)。流体力学モデルで理論的に解析したところ、自転の速さは液体の密度が小さいほど速くなることも突き止め、実験で再現できました。

本成果は、ブラウン運動のような不規則な運動を整流して規則的な自転をつくる新現象を発見したものです。細胞サイズから海中、惑星に至るさまざまなスケールで、回転する流体中の運動を記述する上での新たな指針になると期待されます。

本研究は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(原子力機構、理事長 小口正範)原子力科学研究所先端基礎研究センター スピン-エネルギー科学研究グループの埋田真樹研究員、中堂博之研究主幹、今井正樹研究員、佐藤奈々研究員、森道康研究主幹を主体とした研究グループ(中国科学院大学:松尾衛准教授、理化学研究所:前川禎通教授、東京大学:齊藤英治教授)によるものです。

本研究成果は、米国の応用物理学専門誌「Applied Physics Letters(アプライド・フィジックス・レターズ)」の注目論文に選ばれ、3月23日(現地時間)にオンライン掲載されました。

図2:液体中の微粒子のブラウン運動が回転で生じるコリオリ力で軌道を曲げ、微粒子の自転を生む

【これまでの背景・経緯】

加速度をもって運動する物体上には、見かけの力(慣性力)が働きます。回転する物体上にかかる慣性力として有名なのがコリオリ力です。コリオリ力は運動方向と回転軸方向の両方に垂直にかかる力で、例えば自転する巨大な系である地球上では、台風の渦巻き方向を決めています。一方、磁石を回転させると、回転軸方向に見かけの磁場がかかって磁力が大きくなる現象(バーネット効果)が知られています。回転速度に対する磁力の変化から物質中の電子の状態が分かることから、当該研究グループは長年、独自開発した高速回転しながら微小な磁力を測定する装置を用いて磁気材料中のバーネット効果を研究してきました。

【研究の手法と結果】

本研究では、バーネット効果を調べる新たな磁気材料として磁性流体に着目しました。微小な磁力の変化を高精度で測定する必要があり、微粒子も大きな磁力を持ったものが測定には有利と考えたためです。磁性流体はナノスケールサイズの磁石の微粒子を含んだ液体で、形状を磁場で制御できるためモーターのシールやダンパー、スピーカーのコイル、体内での薬剤輸送といったさまざまな場面で活躍する機能性材料です。微粒子は液体中でコロイド化してブラウン運動するため、高速で回転させても遠心力で凝集せず安定した分散を保ちます。

液体状の磁性流体と、液体を除いた乾燥試料を高速回転させながら磁力の変化を測定すると、乾燥試料に対して液体状試料の磁力は2倍近く大きいことが分かりました。磁力は回転速度に比例するため、この増大は液体中に含まれる微粒子が液体よりも高速に自転していることを意味します(図1)。さらに冷やして液体部分を凍らせた凍結試料では、磁力は乾燥試料と同程度となりました。ここから、発見した微粒子の付加的な自転には、液体中のブラウン運動が必要であると推察できます。この様な振る舞いはこれまで知られていませんでした。

ここで「微粒子は回転する液体中にいる」ことが重要となってきます。

回転させた微粒子にはコリオリ力が働きます。コリオリ力は回転軸と微粒子の進行方向に対して常に垂直に働くため、ブラウン運動すると軌道が一方向に曲げられます。この際、軌道を変えられた微粒子の表面には非対称な流れ場(渦度)ができます。液体は粘性を持つことから、図3のように流れと反対方向に粘性抵抗が加わり、同じ方向の回転力となって粒子を外からの回転と同じ方向に自転させます。本研究では、ブラウン運動と渦度を考慮した流体力学モデルを用いると、定量的に非常によく実験結果を再現できることが分かりました。さらに、密度の異なる液体を用いると自転速度を制御できることが理論モデルと実験の両方によって示されました。

ブラウン運動にコリオリ力を組み合わせた結果、不規則な運動からモーターのように一方向の自転運動を作る、力学的な整流効果が液体中で実現することを示しています。

図3:微粒子の自転のメカニズム

【今後の展望】

本研究では、磁性流体を回転させながら磁力変化の測定を行い、ブラウン運動にコリオリ力が働くことで微粒子の自転を生む、新たな物理現象を実験的に発見しました。同時に、光学的なアクセスが難しい懸濁液中で、ナノサイズの微粒子が自転する速度を初めて検出しており、これは新たな磁気回転センシング技術の確立を意味します。今後、細胞サイズから海中、惑星に至るさまざまなスケールで、回転する流体中の運動を記述する上で新たな指針になると期待されます。

【論文情報】

雑誌名:Applied Physics Letters

タイトル:Persistent rotation of particles driven by non-inertial Brownian motion
(非慣性ブラウン運動で駆動される粒子の持続的回転)

著者名:Maki Umeda, Hiroyuki Chudo, Masaki Imai, Mamoru Matsuo, Nana Sato, Michiyasu Mori, Sadamichi Maekawa, and Eiji Saitoh

DOI:10.1063/5.0320016

【助成金等の情報】

本研究は、JST ERATO (No. JPMJER1402)、CREST (Grants No. JPMJCR1874, No. MJCR19J4, No. JPMJCR20C1, No. JPMJCR20T2, and No. JPMJCR24R5) 、JSPS科研費 基盤研究(S) (No. JP19H05600)、基盤研究(A) (No. JP21H04565)、基盤研究(B) (No. JP17H02927, No. JP21H01800, No. JP20H1863, No. JP20H1865, No. JP23H01839, and No. JP24K00576)、若手研究 (No. JP21K14529 and No. JP22K14593) の支援を受けて行われました。

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