令和8年3月17日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

内部被ばく線量評価ソフトウエア「IDCC」を公開
―最新の国際標準モデルで短寿命核種を含む全放射性核種の線量を評価―

【発表のポイント】

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範、原子力機構)原子力安全・防災研究所安全研究センター リスク評価・防災研究グループは、国際放射線防護委員会1)(ICRP)2007年勧告に準拠した内部被ばく線量評価コード(ソフトウエア)「IDCC(Internal Dose Calculation Code)」を開発し、職業被ばくに対応した専門家向けの「Pro版」を公開しました。

本ソフトウエアは、放射性核種が放出する放射線や、体内で放出された放射線エネルギーが臓器・組織に吸収される割合などのデータ、放射性核種の体内挙動に関するモデルなど、ICRPによる最新のモデルやデータセットを組み込んでいます。これらを基に内部被ばく線量を算出するほか、ホールボディカウンターなどの個人モニタリング2)結果を使った摂取量の推定を可能としました。半減期10分未満の短寿命核種310種類を含む全放射性核種(1198種類)を評価対象としているソフトウエアが外部供用されるのは世界初となります。高エネルギー加速器施設など短寿命核種が実験で生成される研究現場や原子力施設における平時の放射線防護対策の立案、事故時の内部被ばく評価などに利用することができます。

今回公開するのは、モデルやデータの編集が可能な「IDCC Pro」で、職業被ばくに対応したものです。一般財団法人高度情報科学技術研究機構の原子力コードセンターを通じて配付します(利用は無償、配付手数料は税込み13,420円)。

今後は、利用者からのフィードバックを踏まえた改良を進めるとともに、公衆被ばく評価に対するモデルやデータの組込みを予定しています。また、原子力施設が立地する自治体や被ばく影響評価を担当する関係機関での活用も視野に入れ、収容データの変更機能を制限した「IDCC Basic」の整備を進めます。

IDCCの技術的詳細については、「Journal of Nuclear Science and Technology」誌に2025年8月7日にオンライン掲載されました。

【これまでの背景・経緯】

内部被ばくとは、放射性物質が体内に取り込まれることによって生じる被ばくであり、体内で放出される放射線により、長期間にわたり人体へ影響を及ぼす可能性があります。このため、内部被ばくによる有害影響の指標となる実効線量3)を正しく評価することは、放射線防護における重要な課題の一つです。

内部被ばくによる有害影響から国民を防護するための基準値は、放射性核種を取り扱う施設の作業環境や施設からの排気・排水に対する濃度限度として定められています。この根拠となる実効線量係数(放射性核種を1 Bq取り込んだ時の実効線量)は、体内に取り込まれた放射性物質が臓器に与える線量を評価する基本的な指標です。現行の基準値は、ICRP1990年勧告に準拠した実効線量係数を基にしています。ICRPは、1990年勧告を置き換える2007年勧告を公表するとともに、被ばく線量評価に用いるモデルやデータの全面的な見直しを行い、新しい実効線量係数の整備を進めています。

現在、我が国では、放射線審議会において2007年勧告を国内法令に反映するため検討を進めています。しかし、ICRP公表の実効線量係数は、我が国の基準値に必要な全ての放射性核種を網羅しておらず、短寿命核種を中心に不足しています。そのため、放射性核種が放出する放射線に関するデータ(核崩壊データ)や体内で放出された放射線エネルギーが臓器・組織に吸収される割合に関するデータ(吸収割合データ)、放射性核種の体内での挙動に関するモデル(体内動態モデル)など、線量評価のための基礎的なデータやモデルから実効線量係数を導出する計算ツールの整備が必要とされてきました。

また、今後の被ばく線量評価や管理では、2007年勧告準拠のモデルやデータを用いて、ホールボディカウンターや尿分析などの個人モニタリング結果から放射性核種の摂取量を推定し、被ばく線量を評価するツールが求められます。

こうした背景のもと、原子力機構では、原子力規制委員会からの受託事業としてIDCCの開発を進めてきました。

【今回の成果】

内部被ばくに対する実効線量係数を計算するには、核崩壊データ、吸収割合データ、体内動態モデルが必要になります。これらを組み合わせて、体内に取り込まれた放射性核種の挙動を計算し、各臓器が受けるエネルギーを評価することで実効線量係数を導出します。今回開発したIDCCは、「ICRP Publication 107」に収録された全放射性核種1198種類を対象に、一連の計算を逐次実行します(図1)。これにより、ICRPが実効線量係数を提供していない短寿命核種(半減期10分未満)310種類についても実効線量係数を算出可能にしました。短寿命核種を扱ったり生成したりする実験施設や加速器施設で、より正確な線量評価を行うことができるようになります。

図1 IDCCの計算フロー

さらに、放射性核種の体内動態モデルが予測する体内放射能の時間変化と、ホールボディカウンターなどの個人モニタリングの評価結果を照合して、放射性核種の摂取量を推定する機能も開発しました。この機能は、放射性核種を1 Bq摂取した時の放射能推移をモデルにより予測するとともに、個人モニタリング結果をよく再現するようにモデル予測値を調整(フィッティング)することで、摂取量を推定します(図2)。これにより、2007年勧告に準拠したモデルとデータを用いた内部被ばく線量の評価が可能となり、被ばく管理などの実務的活用が期待されます。

図2 摂取量推定のイメージ

IDCCには、モデルやデータの編集が可能な専門家向けエディション「IDCC Pro」と、モデルやデータの編集や摂取量推定シナリオ4)に制限はあるものの、広く一般に提供可能な「IDCC Basic」の2種類のエディションを設定しました。今回はIDCC Proを公開します。希望する個人に対し、高度情報科学技術研究機構 原子力コードセンターが技術審査を行った上で提供します(配付事務手数料・税込み13,420円、利用は無償)。現時点では職業被ばくに対応しており、公衆被ばくにも今後対応させていく計画です。

【今後の展望】

利用者からのフィードバックを基に、機能や操作性の改良を継続的に進めていきます。あわせて、事故時や環境中への放射性物質の放出が想定される状況で、一般の人々が受ける被ばく(公衆被ばく)の評価に活用できるよう、ICRP2007年勧告に準拠した公衆被ばく評価用のモデルやデータの組込みを進める予定です。公衆被ばくの評価は、原子力関連施設の立地地域における環境影響評価や、事故時の被ばく影響の把握・説明など、関係機関が対応を行う上で重要な役割を果たします。評価に必要な基本的な計算機能を備えつつ、収容データの変更機能や設定項目を限定することにより、用途や運用に応じて機能を整理した「IDCC Basic」の整備を進めます。

また、我が国の内部被ばく防護基準値である排気や排水中の濃度限度などは、実効線量係数を基に設定されています。ICRP2007年勧告を我が国の防護基準値に反映するための検討にも活用される見込みです。

【論文情報】

雑誌名:Journal of Nuclear Science and Technology

タイトル:Development of Internal Dose Calculation Code (IDCC)

著者:Kentaro Manabe, Shuhei Murota, and Fumiaki Takahashi

DOI:10.1080/00223131.2025.2544072

【助成金の情報】

本研究は、原子力規制委員会原子力規制庁「放射線対策委託費(被ばく線量評価コードの開発)事業」として実施しました。

【用語の説明】

1) 国際放射線防護委員会(ICRP)

放射線防護とは、放射線被ばくによる有害な影響から人々や環境を守ることです。国際放射線防護委員会は国際的な専門家組織で、放射線防護に関する勧告を行っています。ICRPが公表する主勧告(1990年勧告、2007年勧告など)では、放射線防護の基本的な考え方や線量の定義、線量限度などが体系的に示されています。

2) 個人モニタリング

体内に取り込まれた放射能を評価するために行う測定のことです。代表的な方法としては、全身の放射能を測定するホールボディカウンター、尿や糞中に排泄された放射能を測定するバイオアッセイがあります。これらの解析結果と、モデルによる放射能予測値を照合することにより、摂取した放射能を推定することができます。

3) 実効線量

放射線防護の目的で使用される量で、放射線が人体のさまざまな臓器に与える影響を一つの指標として表したものです。標準的な体格・臓器質量をもつ男女を平均化し、理想化された「標準人(Reference person)」に対して定義します。線量限度の遵守の確認など、放射線防護のために利用されます。

4) 摂取量推定シナリオ

放射能摂取量を推定する際に設定する、取り込み条件のことです。取り込み経路(吸入摂取、経口摂取など)、取り込んだ核種とその化学形、取り込み時期などを含みます。個人モニタリングによる解析結果を基に摂取量や内部被ばく線量を評価するためには、これらの条件を適切に設定する必要があります。

参考拠点:安全研究センター
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