2026年3月3日
東京科学大学
日本原子力研究開発機構
J-PARCセンター

液体鉛ビスマス合金流動場で自己修復する耐食性構造材料
-原子力のゴミをエネルギーに変える加速器駆動型未臨界炉の実現に向けて前進-

【ポイント】

【概要】

東京科学大学(Science Tokyo) 総合研究院 ゼロカーボンエネルギー研究所の近藤正聡准教授らと、日本原子力研究開発機構(JAEA)J-PARCセンターの斎藤滋研究副主幹らの研究グループは、加速器駆動型未臨界炉(ADS、用語1)核破砕ターゲット(用語2)を模擬した液体鉛ビスマス共晶合金(LBE、用語3)の流動環境下において、FeCrAl合金(用語4)が極めて高い耐食性と自己修復機能を有することを実証しました。

ADSは、高レベル放射性廃棄物(用語5)をエネルギーとして安全に有効利用することで、環境負荷の低減と持続可能なエネルギー利用の両立を達成できる革新的原子力技術として注目されています。しかし、ADSのターゲットとして用いられる液体LBEは構造材料を腐食させるため、ADSの実用化に向けては、高温・高流速条件下での構造材料の信頼性を高めることが求められています。

今回の研究では、ADSの候補構造材料であるFeCrAl合金に対して、実機条件に極めて近い温度勾配と流動条件を再現した、最大4000時間にわたる長期連続腐食試験を実施しました。この試験には、JAEA 原子力科学研究所に設置された大型の非等温型高温液体金属流動ループ「OLLOCHI(オロチ)」を用いました。723 K(約450℃)の流動LBE中で2000時間にわたる腐食試験の結果、FeCrAl合金表面に形成される多層酸化被膜が腐食を効果的に抑制することを確認しました。さらにこの多層酸化被膜には、一部を人工的に破壊されても、その後の流動LBE中での追加2000時間の浸漬により、自発的に再形成される自己修復機構があることを発見しました。

本成果は、長期的な管理が必要な放射性廃棄物の減容・有害度低減と、ゼロカーボン電力の供給を同時に実現するADSの実用化に向けて、構造材料の信頼性を飛躍的に向上させるものと期待されます。

本研究成果は、Elsevierの学術誌「Corrosion Science」オンライン版に、2026年1月21日付で掲載されました。

●背景

2050年までのカーボンニュートラル社会の実現に向けて、二酸化炭素を排出しない原子力発電への注目が高まっています。中国やインドなどでは、急増するエネルギー需要を満たすために、大量の電力を安定して供給できる原子力発電所の新設・増設計画が進められています。アメリカでもおよそ35年ぶりに新設の原子力発電所が稼働しました。

加速器駆動型未臨界炉(ADS)は、世界的に増え続ける高レベル放射性廃棄物をエネルギーとして有効利用しながら、安定的にゼロカーボン電力を供給する革新的原子力技術です。図1にADSの概要を示します。高強度陽子加速器を用いて加速した陽子を液体鉛ビスマス共晶合金(LBE)に照射し、液体LBEの核破砕反応を発生させます。この時に発生した中性子を使用しながら、燃料炉心を未臨界状態で運転することで高い安全性を維持しながら、原子力のゴミである長寿命核種を短寿命核種へと核変換することにより、高レベル放射性廃棄物の長期的な管理負担を軽減することができます。これにより、環境負荷の低減と持続可能なエネルギー利用の両立を達成することができると期待されています。

しかし、ADSで核破砕ターゲットとして使われる液体LBEは優れた特性を有する一方で、構造材料を腐食しやすいという問題があります。そのため、ADSの実用化に向けては、高温・高流速条件下での構造材料の信頼性を高め、エネルギーシステムとしての工学的な基盤を強化することが求められています。

図1 液体LBEターゲット式の加速器駆動型未臨界炉(ADS)の概要

●研究成果

本研究では、ADSの候補構造材料であるFeCrAl合金を対象として、流動LBE環境中において2000時間から最大4000時間にわたる腐食試験を実施しました。本試験は、JAEA 原子力科学研究所に設置された大型の非等温型高温液体金属流動ループ「OLLOCHI(オロチ)」(図2)を用いて行いました。この装置は、複数の試験部と、1本の主配管から構成されており、試験部を「頭」、熱応力緩和のために複雑に屈曲した主配管を「胴体」に見立てると、神話に登場する八岐大蛇(やまたのおろち)に似ていることから「OLLOCHI」と名付けられました。なお、OLLOCHIは、Oxygen-controlled LBE LOop for Corrosion tests in HIgh-temperatureのバクロニムです。

図2 JAEA原子力科学研究所に設置された大型の非等温型高温液体金属流動ループ「OLLOCHI(オロチ)」(a)装置全体、(b)ループ装置内の機器レイアウト

FeCrAl合金の腐食試験では、表面を研磨した試験片と、事前の酸化処理によって、優れた保護性を有するα-Al₂O₃被膜を形成した試験片を試験部に装荷し、2000時間浸漬しました。図3は、透過型電子顕微鏡(STEM)を用いて浸漬後試験片の表層断面組織をナノメートル(用語6)オーダーで観察し、得られた高角度環状暗視野像(HAADF像)を白黒(グレースケール)で表示しており、原子番号の大きい元素ほど明るく映ります。一方、同じ領域についてエネルギー分散型X線分光法(EDX)により分析して得られた各元素の分布をそれぞれ色で示して重ね合わせた画像として示しています。表面を研磨したままで浸漬した試験片の表層断面の分析結果を図3(a)に示しています。解析の結果、向かって左側の最表面にはCrおよびFeに富む酸化被膜が形成され、その直下にAlに富む酸化被膜が連続的に形成されていることが確認されました。このような多層構造の保護性酸化被膜が自己形成されることにより、材料中の金属成分が流動LBE中へ溶け出すことや、PbおよびBiの組織内部への侵入が実質的に抑制されていることが明らかになりました。

一方で、事前にα-Al₂O₃被膜を形成した試験片でも、同様の腐食抑制効果が示されました(図3(b))。試験片表面のα-Al₂O₃被膜は、酸素や金属成分の移動を遮る高いバリア性を持ち、母材と流動LBEとの直接接触を遮断します。この働きにより、FeやCrの新たな酸化反応が起こりにくくなり、余分な酸化の進行が抑えられることで、界面の化学的安定性が長時間にわたり維持されます。さらに、この酸化被膜が流動LBE環境下においても優れた密着性を保ち続けることを、マイクロスクラッチ試験(用語7)によって実証しました。

図3 流動LBEに2000時間浸漬したFeCrAl合金の表層断面STEM/EDX分析の結果、(a)表面研磨したままで浸漬した場合、(b)酸化処理により表面にα-Al₂O₃被膜を形成してから浸漬した場合。

次に、FeCrAl合金が流動LBE環境下で自己形成した、多層構造の保護性酸化被膜の一部を人工的に剥離させてから、その試験片を流動LBE中にさらに2000時間浸漬する試験を行いました。その結果、試験片の剥離部は腐食することなく、保護性酸化被膜を速やかに再形成する挙動が見られました(図4)。

図4 酸化被膜の一部を剥離してから流動LBEに2000時間浸漬したFeCrAl合金の表層断面STEM/EDX分析結果、(a)浸漬後のFeCrAl 合金の表層断面組織、(b)剥離部と非剥離部の境界、(c)追加浸漬によって剥離部に形成した酸化被膜の断面組織、(d)非剥離部の追加浸漬後の表層断面組織。

●社会的インパクト

本成果は、高レベル放射性廃棄物の減容・無害化を目指すADS技術や、次世代原子炉における高安全・長寿命化設計の実現に向けて、構造材料の信頼性を大きく高める基盤技術として位置づけられます。特に、2022年から4年間にわたって進めてきたJAEAとの共同研究により、実機スケールの大型試験施設を用いて、ADSを模擬した苛酷な流動LBE環境下での長期耐食性を自己修復機能も含めて実証できた点は、工学と材料化学のどちらから見ても、独創性と新規性が極めて高いと言えます。また、ゼロカーボン電源としての革新的なADSシステムの実現に向けた重要な材料基盤技術としても位置づけられます。

●今後の展開

今後は、高温・高流速条件下における試験片レベルの健全性評価にとどまらず、発熱体炉心、ポンプ、熱交換器などの炉内機器の構成と機能を意識した、機能評価型の長期試験を実施していきます。これにより、炉内機器としての機能を総合的に検証しつつ、実運転条件を反映した材料設計指針や、信頼性に基づく寿命予測モデルの確立を目指し、ADS実現に向けた工学的基盤の強化に貢献します。

●付記

本研究の一部は、文部科学省 マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM:Advanced Research Infrastructure for Materials and Nanotechnology in Japan)(課題番号:JPMXP1224HK0019)および科学技術振興機構(JST)次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)(助成番号:JPMJSP2106)の支援を受けて実施されました。

【用語説明】

(1) 加速器駆動型未臨界炉(ADS):

ADSはAccelerator-Driven subcritical systemの略。高強度陽子加速器と未臨界炉心を組み合わせた革新的原子力システムで、液体重金属性の核破砕ターゲットから発生させた外部中性子源によって炉心を駆動する(図1)。臨界に達しない状態(未臨界)で運転されるため、高い安全性を保ちながら長寿命放射性核種の核変換や発電を行うことができる。

(2) 核破砕ターゲット:

高エネルギーの陽子ビームを液体鉛ビスマス合金に照射することにより、核破砕反応を起こし、大量の中性子を発生させる機器。発生した中性子は、ADSの未臨界炉心の駆動や、長寿命放射性核種の核変換に利用される。

(3) 鉛ビスマス共晶合金(LBE):

LBEはLead Bismuth Eutecticの略。鉛(Pb)とビスマス(Bi)を約44.5:55.5の比率で混合した共晶組成の液体金属で、融点が約125℃と低いのが特徴である。加速器駆動型未臨界炉の核破砕ターゲットとして優れた特性を示すが、構造材料を腐食しやすい点が課題とされてきた。

(4) FeCrAl合金:

合金の組成としてAlを含むことにより、高温条件下で環境中の酸素と反応して、Alリッチな保護性酸化被膜を自己形成する機能を有している。この特性により、原子炉分野では事故耐性燃料(ATF)用被覆管材料としての研究・開発が進められているほか、ADSや鉛冷却高速炉、核融合炉の液体金属環境下における高温耐食構造材料としての適用が検討されている。

(5) 高レベル放射性廃棄物:

原子力発電や研究活動に伴って発生する放射性物質を含む廃棄物のうち、放射能レベルおよび発熱量が高く、長期的な管理と地層処分を必要とするものを指す。ADSでは、使用済燃料中の長寿命マイナーアクチニド(ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなど)を核変換することで、放射性廃棄物の毒性を低減させ、管理期間を短縮する。

(6) ナノメートル:

1ナノメートル(nm)は、1メートルの10億分の1。例えば、人の髪の毛の太さはおよそ0.1ミリメートルであり、約10万ナノメートルに相当する。つまり、ナノメートルは髪の毛の太さの約10万分の1という、原子や分子の世界に近い極めて小さなスケールを表す。

(7) マイクロスクラッチ試験:

尖った針で引っかいて被膜を剥がすために必要な力の大きさを測定する試験のこと。

【論文情報】

掲載誌:Corrosion Science

論文タイトル:Reformation of protective oxide layers on artificially abraded surfaces of FeCrAl alloy during 4000 h exposure in flowing lead-bismuth eutectic

著者:Masatoshi Kondo, Yoshiki Kitamura, Atsushi Kawarai, Shigeru Saito,Hironari Obayashi

DOI:10.1016/j.corsci.2026.113646

【研究者プロフィール】

参考拠点:J-PARCセンター
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