令和8年1月29日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

世界初、指先サイズの中性子線源で実現!卓上型の非破壊同位体分析装置
―核物質同位体をその場で識別へ―

【発表のポイント】

従来のNRTA装置と開発した卓上型NRTA装置の比較

【概要】

本研究では、核燃料の適切な管理や核物質の不正利用防止に不可欠な核物質同位体の非破壊測定に適用できる卓上型装置の実現に向け、大きな前進を遂げました。

ウランやプルトニウムといった核物質には、中性子数の異なる複数の同位体*1が存在します。これらの同位体組成は、核燃料としての適性や兵器への転用可能性といった重要な性質を決定づけます。このため、核物質の総量だけではなく、どの同位体がどの程度含まれているかを正確に把握することは、核不拡散や核セキュリティの分野において極めて重要な課題です。既存の一般的な非破壊分析技術では、同位体の識別は困難であり、同位体識別が可能な手法である中性子共鳴透過分析法(NRTA)*2を実施するためには、大型加速器や中性子発生装置などの特殊設備を必要としていました。このため、スペースが限られた施設や非管理区域、屋外での測定は容易ではありませんでした。

本研究では、指先サイズの放射線源にカリホルニウム252(252Cf)*3を利用したNRTA技術を確立し、特殊設備に依存せずに同位体の識別を可能とする世界初の装置開発に成功しました。模擬試料を用いた試験では、同位体の種類を判別できることを確認しました。これにより、従来は適用が困難であった環境下や、現場に装置を移動してその場で核物質同位体の非破壊測定を実施できる可能性を拓きました。

本成果は、核物質の同位体測定を可能とする小型NRTA装置の実用化に向けた重要なマイルストーンです。今後は、実際の核物質を用いた実証研究や測定精度のさらなる向上、分析対象の拡大を進めていきます。本技術は、核燃料の計量管理、国際査察、港湾・空港での核物質監視など、核不拡散と核セキュリティの強化に資するのみならず、考古学分野における貴重な文化財の年代測定・産地推定、宇宙探査で回収された試料の分析など、非破壊で同位体組成を調べる必要のある幅広い分野への応用も期待されます。

本研究成果は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範)原子力科学研究所原子力基礎工学研究センターのGuembou Shoup Cebastien Joel(ゲンボウ シャウプ セバスチャン ジョエル)任期付研究員および土屋晴文研究主幹によるものです。

本研究成果は、2026年1月23日付(日本時間)のNature系列の「Communications Engineering」に掲載されました。

【これまでの背景・経緯】

ウランやプルトニウムといった核物質には、中性子の数が異なる複数の同位体が存在します。同位体によって核物質の性質は大きく変わり、原子炉の核燃料への使用や兵器に転用可能な同位体(例:ウラン235、プルトニウム239)とそれ以外の同位体に分類されます。そのため、核物質の総量のみならず、「どの同位体が、どれだけ含まれているのか」を正確に把握することは、核燃料の厳密な管理や核物質の不正利用の防止において不可欠であり、核不拡散や核セキュリティ分野での極めて重要な課題です。

測定が必要となる対象には、原子力施設で扱われる核燃料や、港湾・空港などで発見される不審物も含まれます。これらの対象物は検査のために破壊することができないため、試料を損なわずに内部の核物質の同位体組成を把握する「非破壊分析」が求められています。しかし、既存の一般的な非破壊分析では、元素を識別することにとどまり、同位体を区別することは困難です。例えば、広く知られているX線による非破壊分析では、主に試料表面や比較的薄い部分の元素組成を調べることはできますが、同位体組成の測定や厚い試料の内部分析には適していません。

これらの問題解決に有望な手法として注目されてきたのが、中性子共鳴透過分析法(NRTA)です。中性子は透過力が非常に高いことから、大きな試料の非破壊測定に適したツールです。また、特定のエネルギーで物質との相互作用が急激に強まる「共鳴」と呼ばれる現象を起こします。この共鳴が生じるエネルギー(共鳴エネルギー)は元素の同位体ごとに固有で、いわば”同位体の指紋”として利用できます。したがって、核物質を含む試料に外部から中性子を照射し、共鳴を誘発させて、共鳴エネルギーを精密に調べれば、核物質の同位体が識別可能となります。

NRTAが核物質の同位体を高精度に非破壊測定できることは、これまでの国内外の研究(私たちのグループを含む)によって実証されています。しかし、NRTAを実施するには、大型加速器や中性子発生装置などの特殊設備が必要でした (図1)。そのため、NRTAは核物質の同位体測定に非常に有望な手法でありながら、原子力施設や港湾などスペースが限られる現場への導入、さらには非管理区域や屋外環境での利用は容易ではありませんでした。

図1 従来型NRTA装置(左)と開発した卓上型NRTA装置(右)

私たち研究チームは、252Cfなどの指先サイズに収まる小型中性子線源の活用を検討しました。NRTAは同位体識別のため、中性子が発生してから検出器に到達するまでの時間を計測し*5、中性子のエネルギーを測る必要があります。従来のNRTAは、加速器や中性子発生装置などの特殊設備を使い、一定周期で中性子ビームを発生させて中性子のスタートをそろえていました(図2(a))。この場合、エネルギーを容易に求められます。一方、252Cfなどの小型中性子線源は自然崩壊により中性子をランダムなタイミングでしか発生できないため、中性子のスタートをそろえられず、加速器などと同じ方法でエネルギーを求めることができません(図2(b))。この問題がNRTAへの小型中性子線源の利用を阻む最大の原因でした。

図2 加速器など(a)と小型中性子線源(b)の中性子発生の比較

小型中性子線源では、中性子と同時に放出される複数のガンマ線(オレンジ矢印)がスタート信号に使える

【今回の成果】

長年にわたりNRTAへの252Cfのような小型中性子線源の利用を阻んできた主な問題は、中性子の発生時刻を正確に測定できない点にありました。解決に向けて、本研究では小型中性子線源である252Cfの特性に着目しました。それは252Cfが中性子を放出させる際に、必ず複数のガンマ線も同時に放つ、というものです(図2(b))。そこで252Cfの周囲にガンマ線検出器を配置してガンマ線を検出することで(図3左上)、中性子発生のタイミングを知らせるスタート信号として利用する装置が作れないかと考えました。しかし、252Cfからのガンマ線はあらゆる方向に放射されるので、適切に検出するには検出器配置や遮蔽構造の最適化が不可欠です。本研究では、シミュレーションと要素実験に基づき精緻化することで、ガンマ線を確実に捉える構造を実現しました。その結果、ランダムに発生する中性子の出発時刻を正確に特定できるようになり、小型中性子線源による中性子飛行時間測定装置の完成に至りました。

図3 開発した卓上型NRTA装置の写真と概要図

開発した新たな装置に使用した252Cfは、加速器などと比べ大幅に放射線量が低く、従来のNRTAで必要だった重厚な遮蔽設備や検出器を遠くに離す構造が不要です。これにより、装置全体の大幅な小型化が可能となったことで、図3に示すように、幅130 cm、奥行きと高さは各50 cmほどの卓上サイズの装置を実現しました。

開発した装置の同位体識別性能を評価するため、試料に中性子を照射し、透過してくる中性子量の測定試験を行いました。前述のとおり、核物質の同位体は、それぞれに特定のエネルギーを持つ中性子とだけ共鳴反応を起こします。共鳴反応を起こした中性子は試料を透過せず、観測される透過中性子スペクトル上に、そのエネルギーの位置に「へこみ」が現れます。このへこみは共鳴反応が起きたことを示すので、へこみの位置から核物質の同位体の種類を判別します。また、へこみの深さ(減少の度合い)から、各同位体の存在量を評価できます。今回の試験では、核物質の代替として、核物質に近い共鳴エネルギーを持つカドミウム(Cd)やインジウム(In)などの模擬試料を用いました。

測定の結果、透過スペクトル(図4)において、113Cdおよび 115In の共鳴エネルギーに対応する明瞭なへこみが確認され、シミュレーション結果ともよく一致しました。このことから、本装置が所期の性能を発揮し、試料中の同位体を非破壊で識別できることを実証しました。

図4 測定で得られた透過スペクトル(赤点)およびシミュレーション計算(黒線)の結果

赤点についている縦線は測定の不確かさの範囲を示す

【今後の展望】

本研究では核物質に近い共鳴エネルギーを持つ模擬試料の測定に成功しました。今回使用した模擬試料は10 cm x 10 cmの平板型です。今後は、核燃料ペレットと同程度のサイズである、直径・長さともに1 cmほどの小型試料の測定を行います。より小型な試料に対応できれば、実用性や応用範囲がさらに広がることが期待されます。その上で、実際の核物質を用いた評価を進め、核燃料の計量管理の精度向上や核セキュリティの強化への貢献を目指します。加えて、本研究は、考古学分野において貴重な文化財の年代測定および産地推定、宇宙探査で回収した試料の生成過程など、同位体の非破壊測定を通じて新たな知見を得ることが求められる幅広い分野への応用も期待されます。

【論文情報】

雑誌名:Communications Engineering

タイトル:” Pilot full-scale demonstration of a prototype table-top neutron resonance transmission analysis system for nuclear material detection”

著者: Cebastien Joel GUEMBOU SHOUOP; Harufumi TSUCHIYA

DOI:10.1038/s44172-025-00564-6

【助成金の情報】

本研究は文部科学省・核セキュリティ強化等推進事業費補助金で実施されました。

【用語の説明】

*1 同位体

原子は、陽子と中性子からできた原子核を持ち、陽子の数がその原子の種類(元素)を決めます。同位体は陽子の数は一緒で同じ元素に分類されますが、中性子の数が異なるものを指します。たとえば、ウランには、「ウラン235」と「ウラン238」という同位体があります。どちらも陽子の数が92個ですが、中性子の数はウラン235が143個、ウラン238が146個と異なります。この違いにより、核分裂の起こりやすさなどの性質に差が生まれます。

*2 中性子共鳴透過分析法(Neutron Resonance Transmission Analysis, NRTA)

NRTAでは、中性子が特定のエネルギー(特に低速中性子)になると、核物質と強く反応して、吸収・散乱される共鳴という性質を利用します。図5に測定の原理を示します。

  1. 中性子源で発生させた中性子を試料に照射します。
  2. 特定のエネルギーの中性子が試料中の核物質と共鳴を起こします。
  3. 共鳴を起こした中性子は、後ろの検出器に届きません。
  4. 結果、検出器で測られる中性子の数が減少し、透過スペクトルに「へこみ」が現れます。
  5. へこみの位置から核物質の同位体を識別でき、へこみの深さからその量を評価できます。

図5 NRTAの測定概念図と核燃料測定で期待される透過スペクトル(計算) 

Uはウラン、Puはプルトニウム。eV*4はエネルギーの単位

*3 カリホルニウム252(252Cf)

自発的に核分裂を起こし、中性子を放出します。この性質により、手軽に中性子を供給できる中性子源として、医療や工業などさまざまな分野で利用されています。

*4 eV (電子ボルト)

原子や原子核のレベルでエネルギーを表すときに使う単位です。電子が1ボルトの電位差を通過するときに受け取るエネルギーが1 eVに相当し、一般的なエネルギーの単位ジュール(J)で表すと1.60×10-19 J です。ジュールは日常的に使うエネルギーの単位ですが、原子スケールでは値がとても小さくなるため、扱いやすいeVが使われます。

*5 中性子飛行時間測定法

中性子はエネルギーが高いほど速く飛行する性質があります。そのため、同じ場所で同じ瞬間に出発した中性子の集まりでは、エネルギーの高い中性子ほど速く、エネルギーの低い中性子ほど遅れて検出器に到達します。この性質を利用して、中性子のエネルギーを調べる手法です。

中性子の速さVは、あらかじめ決まった距離Lを飛行時間tで割ると求まります。

$$ V = \frac{L}{t} $$

Vが光の速さよりも十分に遅い中性子については、その運動エネルギーEは、次の式で表せます。

$$ E = \frac{1}{2} M V^2 $$

ここで、Mは中性子の質量で、1.67×10-27 kgです。

実際の測定は次のように行います。中性子が放出された時刻Tsと、検出器が中性子を捉えた時刻Tdから、飛行時間tTd - Tsで求まります。本装置では、252Cf中性子源の周囲に備えた検出器(図3左上)によってTsを求め、後ろの中性子検出器でTdを測ります(図3右上)。また、本装置でインジウムやカドミウムを測定した際には、Lは42 cm でした。このとき、エネルギーが1 eVの中性子が42 cm を飛行する時間は約30 マイクロ秒(百万分の30秒)です。このように、さまざまな中性子について飛行時間から速さVを計算し、上の式でEを求めることで、中性子のエネルギー分布がわかります。

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