令和8年1月16日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人東京大学
公立大学法人富山県立大学
国立大学法人東北大学

物質中の「磁石」をジグザグに整列させて電気の流れをコントロール
―新しい電流制御で超小型・省エネ・高機能デバイスへの道を拓く―

【発表のポイント】

原子がジグザグに並ぶ反強磁性体で生じる「電気の流れ方の方向の偏り」(非相反伝導)の概念図 ミクロな磁石(電子のスピン)がジグザグに並び、スピンの向きに規則性が生じると、電気の流れが非対称になる

【概要】

電気回路で使う「ダイオード」は電気を一方向にだけ流す電子部品で、性質の異なる半導体を接合して作ります。今回研究グループは、ミクロな磁石(電子のスピン)がジグザグ形に並んだ特別な構造を持つ金属の中で、電気の流れやすい方向に偏りが生じる「電気の一方通行的な性質」(非相反伝導)が自然に現れることを見いだしました。

この金属は原子がジグザグに並ぶ構造を持ち、電子のスピンもジグザグに並んでいます。温度を下げると、スピンの向きが互いに反対向きになる性質(反強磁性)(注1)を示します。このスピンの配置が内部にミクロな磁場(内部磁場)を形成した結果、電気の流れやすい方向に偏りが生じる非相反伝導が出現することがわかりました。これまで、この効果は、外から磁場をかけたときのみ観測されていました。しかし今回は、外部磁場を必要としないうえに、外部磁場を用いるよりも電気の流れの偏りは1000倍以上も大きいことを確認しました。また、結晶中の異なる領域を計測したところ、その領域ごとに電気の流れやすい方向も異なっていました。これは結晶の中にスピンの並び方が異なる部分があり、その違いを捉えたためと考えられます。つまり、電気の流れ方を調べると、反強磁性体の磁気的な性質を解析できたことになります。

本成果は、ジグザグに並ぶスピンによって反強磁性を示す物質で、スピンが創る内部磁場が電気の流れを偏らせるという、新たな原理を発見しました。同時に、反強磁性体の磁気的な性質の解明には大型施設や特殊な測定方法を必要としていますが、普通の実験室で従来よりも手軽に測定できる方法を提供します。これにより、省エネルギーで超小型の次世代デバイスの開発につながる研究が加速し、未来のコンピュータや通信機器の進化を後押しします。

本研究は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:小口正範)原子力科学研究所先端基礎研究センター 強相関アクチノイド科学研究グループの木俣基研究副主幹、国立大学法人東京大学(総長:藤井輝夫)物性研究所の須藤健太特任研究員、国立大学法人東北大学(総長:冨永悌二)金属材料研究所の赤木暢助教(現、神戸大学研究基盤センター)、公立大学法人富山県立大学(学長:小笠原司)工学部教養教育センターの谷田博司准教授、柳有起准教授によるものです。

本研究成果は、2026年1月5日(現地時間)に米国物理学会誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。また、編集部が選出する注目論文Editors’ Suggestionに選出され、学会が運営するオンライン研究紹介サイトPhysics magazine (URL: https://physics.aps.org/)にて紹介されました。

【これまでの背景・経緯】

私たちの身の回りにあるほとんどの物質では、電気は左右どちらの方向にも同じように流れます。電流を制御するために使う電子部品で、半導体素子の一種「ダイオード」は、電気を一方向にしか流さない、整流作用を持っています。これは性質の異なる半導体を組み合わせた接合構造によって実現されています。

近年の研究で、ダイオードのように異なる物質同士を組み合わさずとも、物質内部に電気の流れ方に方向の偏りが生じる「電気の一方通行的な性質」、つまり、「非相反伝導」と呼ぶ現象が生じる可能性が、理論的に示されていました。物質内部の原子の並び方や電子が持つ磁石の性質(スピン)の配列が非相反伝導を発現させるというものです。

ただし、外部環境を変えず自然な状態で観測することは難しく、これまでの確認事例は、外から磁場をかけたものに限られていました。

【今回の成果】

今回、研究グループは、電子のスピンの向きが互い違いに並ぶ「反強磁性」の性質を持つ金属に注目しました。この物質(NdRu2Al10:ネオジム-ルテニウム-アルミニウムの化合物)は、原子がジグザグに並ぶ構造を持ち、室温では電子のスピンの向きはバラバラです。ところが温度を下げると、スピンは交互に反対向きに整列します。このジグザグ型の磁気配列によって、物質の内部に磁場が自然に生じ、外から磁場を加えなくても、電気の流れやすい方向に偏りが生じる非相反伝導を初めて観測しました。さらに、この効果は、従来の物質が外部磁場の下で示したものよりも1000倍以上も強いことを確認しました(左図)。

また、イオンビームを用いた微細加工技術でNdRu2Al10結晶の微小領域を測るサンプルを作製し、電気の流れ方を測定しました。その結果、スピンの向き(上下)の並び順が切り替わる領域が存在すること、その領域では電気の流れやすい方向も反転することが明らかになりました(右図)。これは、電気を使って物質内部の磁気配列を可視化する新しい計測原理を示しています。

(左図)物質の「電気の一方通行的な性質」(非相反伝導)の比較 本研究の物質(NdRu2Al10)では過去の報告例と比べ1000倍以上も大きな効果を示した

(右図)作製した微小サンプルの電子顕微鏡像(上)とスピン配列が起こす非相反伝導の模式図(下) スピンの向きの並び順が反転(左領域は青↓赤↑だが、右領域は青↑赤↓)すると電気の流れやすい方向も反転する

【今後の展望】

今回の成果は、原子のジグザグ型配列に伴う反強磁性スピン配列が、内部磁場として機能することで、外部からの磁場がなくても電気の流れやすい方向に偏りが生じる非相反伝導を起こすという新たな原理を実証したものです。

今回の物質では機能発現に低温環境が必要ですが、今後、より高い温度で機能し、かつ、より大きな効果を示す物質の探索を進めます。また、物質内部の磁気配列を電気的に読み取る新たな方法を提示しました。反強磁性体の磁気的な性質の解明には、現在は大型施設や特殊な測定方法を必要としていますが、普通の実験室で行える従来よりも手軽な測定手法を示したことは、次世代スピントロニクス(注2)(電子のスピンを用いた電子技術)に役立つ大きな一歩となります。今後、この原理を応用することで、省エネルギーで超小型の次世代デバイスの開発につながる研究が加速すると期待されます。

【論文情報】

雑誌名:Physical Review Letters (Editors’ Suggestionとして注目論文に選出)

タイトル:Large Spontaneous Nonreciprocal Charge Transport in a Zero-Magnetization Antiferromagnet (ゼロ磁化反強磁性体における大きな自発的非相反電荷輸送)

著者:Kenta Sudo*, Yuki Yanagi, Mitsuru Akaki, Hiroshi Tanida, Motoi Kimata*
*責任著者

DOI:https://doi.org/10.1103/13pd-tlzp

【参考文献】

[1] K. Sudo, et al., Valley polarization dependence of nonreciprocal transport in a chiral semiconductor, Phys. Rev. B 108, 125137 (2023).

[2] R. Aoki, et al., Anomalous nonreciprocal electrical transport on chiral magnetic order, Phys. Rev. Lett. 122, 057206 (2019).

[3] F. Calavalle, et al., Gate-tuneable and chirality-dependent charge-to-spin conversion in tellurium nanowires, Nat. Mater. 21, 526 (2022).

[4] T. Ideue, et al., Bulk rectification effect in a polar semiconductor, Nat. Phys. 13, 578 (2017).

[5] T. Yokouchi, et al., Electrical magnetochiral effect induced by chiral spin fluctuations, Nat. Commun. 8, 866 (2017).

[6] Y. Wang, et al., Gigantic magnetochiral anisotropy in the topological semimetal ZrTe5, Phys. Rev. Lett. 128, 176602 (2022).

【助成金の情報】

本研究はJSPS科研費JP25K00955, JP22H00109, JP25H00599, JP24K21522, JP23H04014, JP23H04868, JP23KK0052, JP23K22447, JP22H04933, JP22H01176, JP21H05470, JP23K20824、および特別研究員奨励費(22J11892)の助成を受けたものです。また本研究の一部は東北大学金属材料研究所附属強磁場超伝導材料研究センターにおける共同利用(課題番号No. 202212-HMKPA-0418, No. 202112-HMCPA-0408, and No. 202012-HMKPA-0417)として実施したものです。

<付記>

各研究者の役割は以下のとおり

・木俣(日本原子力研究開発機構):研究発案

・谷田(富山県立大学):結晶育成

・須藤(東京大学)、赤木(東北大学)、木俣:測定

・須藤、木俣、柳(富山県立大学):データ解析

【用語の説明】

(注1)反強磁性

物質そのものが全体として磁力を持っている状態を「強磁性」と言います。このとき、物質の電子のスピンの向きは、全て同じ方向にそろっています。一方、反強磁性の物質では、隣り合うスピンの向きが互いに逆を向く「互い違い」の状態です。そのため、物質レベルでの磁力の発現はありませんが、規則的な磁気の並びが存在する点が特徴です。かつては機能性の少ない物質と考えられていましたが、近年では強磁性体に匹敵する特性を持つような反強磁性体も見つかり、注目が高まっています。

(注2)スピントロニクス

電子は「電気」と「磁気」の両方の性質を持っています。これまでのエレクトロニクスでは主に電気の性質を利用してきましたが、スピントロニクスは磁気の性質(スピンの向き)も活用する新しい技術です。電流のオン・オフだけでなくスピンの向きを使って信号を制御できるため、発熱が少なく、省エネルギーで高速な情報処理が可能になると期待されています。

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