2025年5月13日
新潟大学
九州大学
日本原子力研究開発機構
土壌中に微生物として存在している有機物の量(土壌微生物バイオマス)は、土壌の全有機炭素量注1の1%程度である一方、植物が利用可能な栄養成分の供給源として重要です。また、人為的な二酸化炭素(CO2)排出量の約10倍に相当する土壌からのCO2放出を左右する要因にもなっており、土壌微生物バイオマスの時空間変動把握は地球環境の将来変化を正確に予測するうえでも重要です。しかし、1970年代~90年代に確立された従来の土壌微生物バイオマス測定法では、劇物でもあるクロロホルムの利用が必要である他、採取後間もない新鮮な土壌を必要とするなど、地球規模の巨大データセット構築に向け多くの障壁が存在しています。
新潟大学自然科学系(農学部)の永野博彦助教、九州大学大学院農学研究院の平舘俊太郎教授、日本原子力研究開発機構の小嵐淳研究主席らの共同研究グループは、土壌学における土壌の標準的長期保管形態である乾燥土、特に室温で乾燥させた風乾土から水抽出で回収できる有機物を分析することで(風乾土水抽出法)、従来法と同様に微生物バイオマスを測定できることを発見しました。国内10地点の森林および草地で採取した土壌に従来法と風乾土水抽出法をそれぞれ適用したところ、従来法で測定した微生物バイオマスと風乾土水抽出法で得た水溶性有機炭素(風乾土WEOC)の土壌含有量との間には非常に強い直線関係が得られました。さらに各種土壌理化学性注2に対し、風乾土WEOC量は、微生物バイオマスが示す挙動とほぼ同一の挙動を示しました。本研究で提案された風乾土水抽出法を用いれば、新鮮な土壌が無くとも既存の風乾土試料を利用することで微生物バイオマスを推定できます。また、毒性物質を使用できないような環境でも土壌微生物バイオマスを測定できるため、土壌微生物バイオマスの大規模データセット構築が飛躍的に進む可能性があります。
土壌中に微生物として存在している有機物の量(土壌微生物バイオマス)は、土壌の全有機炭素量の1%程度である一方、植物が利用可能な栄養成分の供給源でもあり、農業生産環境のうち特に土壌肥沃度の重要指標の一つとして古くから研究されてきました。また、近年では、人為的な二酸化炭素(CO2)排出量の約10倍に相当する土壌からのCO2放出を左右する要因にもなっていることから、土壌微生物バイオマスの時空間変動把握は地球環境の将来変化を正確に予測するうえでも重要です。しかし、1970年代~90年代に確立された従来の標準的な土壌微生物バイオマス測定法(特にクロロホルム燻蒸-抽出法)では、劇物でもあるクロロホルムの利用が必要である他、採取後間もない新鮮な土壌を必要とするなど、地球規模の大型データセット構築に向け多くの障壁が存在しています。
本研究では、国内10地点の森林および草地の様々な深さから採取した計50土壌を対象に、土壌学における土壌の標準的長期保管形態である乾燥土、特に室温で乾燥させた風乾土から水抽出で回収できる有機炭素を分析する方法(風乾土水抽出法)を新たな土壌微生物バイオマス測定法として検証しました。各土壌に対して、従来法と風乾土水抽出法を実施し、従来法で測定した微生物バイオマスと風乾土水抽出法で得た水溶性有機炭素(風乾土WEOC)の土壌中含量を比較したところ、両者の間には非常に強い直線関係が得られました(R2=0.94、Y=0.31X、Yが風乾土WEOC量、Xが土壌微生物バイオマス)。さらに、風乾土WEOC量と各種土壌理化学性との関係は、微生物バイオマスと土壌理化学性との関係とほぼ同一の挙動を示しました(R2=1.00、RMSE=0.10)。本研究で提案された風乾土水抽出法を使えば、新鮮な土壌が無くとも既存の風乾土試料を利用することで微生物バイオマスを推定できます。また、毒性物質を使用できないような環境でも土壌微生物バイオマスを測定できるため、土壌微生物バイオマスの大規模データセット構築が飛躍的に進む可能性があります。
本研究成果は、地球環境変化の将来予測にも重要な土壌微生物バイオマスの時空間変動に関する大規模データセット構築や従来法では困難であった地域・生態系での土壌微生物バイオマス測定実施に資することが期待されます。さらに、本手法をアーカイブ土壌試料(過去に採取・研究され保管されている既存の風乾土試料)に適用することで、過去に採取された土壌についても微生物バイオマス量を推定できるので、データが飛躍的に蓄積されると期待されます。今後、本手法の応用可能性の模索や森林・草地以外の生態系および世界の主要な土壌である非火山灰性土壌での検証なども実施していきます。
本研究成果は、2025年4月23日、Springer Nature社の科学誌「Discover Soil」に掲載されました。
【論文タイトル】Estimation of microbial biomass based on water-extractable organic matter from air-dried soils from Japanese forests and pasture
【著者】Hirohiko Nagano, Yuki Kanda, Yuri Suzuki, Syuntaro Hiradate, Jun Koarashi, Mariko Atarashi-Andoh, Zhibin Guo
【doi】10.1007/s44378-025-00053-4
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(21H02231、21H05313、22H05717)などの支援を受けて行われました。
土壌に存在する有機炭素の量は植物体存在量の3~4倍、大気存在量の2~3倍に達しており、陸域で最大の炭素プールとなっています。
土壌の様々な性質を特徴づける理化学的な要素であり、本研究では特にpH(酸性度)、電気伝導度(電気の伝わり易さ)、最大容水量(土壌の水分保持能力)、全炭素および窒素濃度、炭素および窒素の安定同位体比(土壌有機物の起源や分解程度などの指標)、可溶性有機炭素および窒素濃度(植物や土壌微生物が比較的利用し易い有機物量の指標)、活性金属成分濃度(土壌の火山灰性や炭素保護能力と関連)、およびCO2放出能力(土壌微生物の活性と関連)を測定しました。