令和7年3月13日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

世界初! ウランを用いた蓄電池を開発
―劣化ウランの資源化で再生可能エネルギーとの相乗効果を最大限に発揮―

【発表のポイント】

【概要】

ウランは様々な化学的状態を取ることができることから、その状態変化によって充電や放電をする電池の活物質としての活用が有望視されてきました。本研究では、ウランを活物質として利用した蓄電池を開発しました。ウランを用いた蓄電池の充電と放電の性能を確認したのは世界で初めてです。今後、大容量化に向けた電解液(活物質を溶解させた溶液)を循環させる技術(レドックスフロー電池)の開発を行い、実用化を目指した研究を進めます。

原子力発電用の燃料の製造時、副産物として「劣化ウラン」が発生します。劣化ウランは現在の原子炉(軽水炉)では燃料として利用できないため、日本国内では約16,000トン(※)を保管している状況です。これを資源として利用することを目的に、ウランを活物質とする蓄電池の概念が2000年代初頭に提唱されました。ただ、実際に蓄電池を組み上げ、その性能を報告した例はありませんでした。

一方で、近年、再生可能エネルギーの導入拡大に伴って、蓄電池のニーズが高まっています。太陽光や風力などによる発電は天候に左右され、発電量が変動する不安定さを有しています。その中でも電力供給を安定化させるには、蓄電池などのエネルギー貯蔵デバイスを介した出力調整が必要となり、新たな蓄電技術の開発にも注目が集まっています。

このような背景から、研究チームはウランを活物質とする蓄電池(ウラン蓄電池)を開発し、世界で初めてその充放電性能を明らかにしました。ウラン蓄電池では、ウランを負極、鉄を正極の活物質に利用しました。試作したウラン蓄電池の起電力[1]は1.3ボルトで、一般的なアルカリ乾電池(1.5ボルト)と近い値でした。今回充電と放電を10回繰り返しましたが、蓄電池の性能はほとんど変化せず、安定したサイクル特性が得られました。

ウラン蓄電池を大容量化して実用化すれば、日本国内に保管されている大量の劣化ウランに新たな資源価値が生まれるとともに、再生可能エネルギー由来の電力供給網の調整機能として応えることができ、脱炭素社会の実現に貢献するようになります。

本研究は、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA、理事長 小口正範)原子力科学研究所 NXR開発センター[2] 大容量蓄電池開発特別チームの大内和希研究副主幹、植野雄大研究員、渡邉雅之研究主席によるものです。

本研究を基に、令和6年11月29日に特許出願を行いました(特願2024-209096 “二次電池とその製造方法”)。

(※)「我が国における令和5年(2023年)の保障措置活動の実施結果」(令和6年5月15日 原子力規制庁)より引用

【これまでの背景・経緯】

ウランには、質量数の異なるウラン235とウラン238が存在します。そのうち、核分裂を起こしやすいウラン235を原子力発電の燃料に利用します。しかし、ウラン鉱石にはウラン235が0.7%程度しか含まれておらず、残りの99.3%は核分裂を起こしにくいウラン238が占めています。したがって、燃料製造時には、ウラン235の含有率を3~5%まで高める「濃縮」を行います。その副産物として、ウラン235の含有率が天然ウランよりも低い「劣化ウラン」が発生します。劣化ウランは今の原子炉(軽水炉)の燃料には使用できないため、「燃えないウラン」と呼ばれることもあります。

劣化ウランは日本国内にはおよそ16,000トン、世界全体では約160万トンが保管されています。ただ、次世代炉の商用化まで日本国内では現状の利用用途がなく、有効な活用法が待たれるところです。

ウランは「酸化数[3]」と呼ばれる化学的状態を3価から6価まで幅広く取ることができることから、酸化数の変化によって充電や放電を可能とする物質である活物質として有望とされました。2000年代初頭には、ウランを活物質とする蓄電池の概念が提案されました。この概念では、正極(乾電池におけるプラス極)と負極(乾電池におけるマイナス極)の両方の活物質にウランを利用することを想定していましたが、実際に組み上げた蓄電池の性能は報告されていませんでした。

一方で、近年、風力や太陽光に代表される再生可能エネルギーの導入の拡大により蓄電池のニーズは高まりつつあります。再生可能エネルギーは、天候などによって発電量が大きく変化するため、火力発電などと比べて不安定な電源と言えます。これらに蓄電デバイスを連携させることで、再生可能エネルギー由来の電力を安定に供給することが期待できます。政府は第7次エネルギー基本計画において、再生可能エネルギーの大規模導入(主力電源化)に向けて、蓄電池を調整機能の一つに位置付けています。

このような背景から、研究チームは、ウランを活物質とした蓄電池(ウラン蓄電池)の性能を明らかにすることにより、劣化ウランに新たな資源としての価値を生み出すとともに、原子力化学の技術で脱炭素社会の実現に貢献できると考え、研究を開始しました。

【今回の成果】

本研究で開発した蓄電池(ウラン蓄電池)では、負極にウラン、正極に鉄を活物質として採用しました。電解液は有機溶媒とイオン液体[4]を混合したものを使用しています。この電解液の中で、ウランと鉄はそれぞれ溶解し、陽イオン[5]の状態で存在します。過去に提唱された概念との違いとして、正極でウランの代わりに鉄を採用したことが挙げられます。これは、鉄を用いることで正極の電解液を安定化できることに加え、電圧の向上が見込まれたことが理由です。

蓄電池の充電と放電には、ウランイオンと鉄イオンそれぞれの酸化数の変化を利用します。充電するとき、正極では鉄イオンの酸化数が2価から3価に変化し、電子が放出されます。この電子は回路を経由して負極へたどり着き、ウランイオンの酸化数を4価から3価に変化させます。このように正極から負極へ電子の流れ(電流)を発生させて、ウランイオンと鉄イオンの化学状態を変えることで、電気エネルギーを化学エネルギーに転換して蓄えることができます。一方、蓄電池を放電させるときは、逆の反応を起こします。つまり、ウランイオンが3価から4価へ、鉄イオンが3価から2価へ変化することで回路に電流が発生し、化学エネルギーを電気エネルギーとして取り出すことができます(図1)。

図1 ウラン蓄電池の充放電の仕組み

充電前、ウランを含む負極側の電解液は緑色で、ウランイオンが4価として存在していることを示しています。充電が進むと、電解液は徐々に濃い紫色に変わる様子が確認できました。これは、ウランイオンの4価から3価への変化に伴ったものと推察できます。放電を始めると液色は徐々に緑色へと戻りました(図2)。

図2 ウラン蓄電池での充電・放電での負極側の電解液の色の変化
ウランを用いた電解液を負極側に入れて充電すると(写真左)、液色は緑色から濃い紫色に変化し(写真右)、放電すると緑色に戻る

今回試作したウラン蓄電池の起電力は1.3ボルトで、一般的なアルカリ乾電池(1.5ボルト)と近い値でした。充電後の蓄電池をLEDに繋ぐと、LEDが点灯することを確認できました(図3)。これは、蓄電池に貯めた電気を取り出せたことを意味します。また、今回充電と放電を10回繰り返しても蓄電池の性能はほとんど変化しませんでした。さらに、負極、正極とも電解液中に析出物はなかったことから、ウラン蓄電池では安定して充電と放電を繰り返せる可能性が示されました。

図3 ウラン蓄電池の放電試験 蓄電池に接続したLEDが点灯し、放電を確認できた

以上の実験結果から、ウランを活物質とする蓄電池の充電と放電の性能を世界で初めて確認できたことになります。なお、本研究を基に、ウランを用いた蓄電池システムとして特許出願中です(特願2024-209096 “二次電池とその製造方法”)。

【今後の展望】

今後は、電解液を循環させることでウラン蓄電池の容量(電気を蓄えられる量)の向上を目指します。具体的には、循環させる電解液の量やウランと鉄の濃度を増やすことで大容量化ができるのか、蓄電池を構成する電極や隔膜の最適な材料は何か、といった検討を進めます。ウラン蓄電池の大容量化に成功し、国内に保有する劣化ウランを蓄電池として実用化・社会実装に至れば、メガソーラーの需給調整機能など新たな役割を担うことが期待できます。

【用語の説明】

[1] 起電力

電流を連続して流し続けようとする力で、電池などの電源が持つ電圧

[2] NXR開発センター

原子力研究を通じて得られた知見を基に、新たな価値創造となる技術を開発し、社会還元を目指す研究を行うのが目的。原子力科学研究所に2024年4月に開設した。

[3] 酸化数

化合物やイオンを構成している原子が、電気的に中性な原子と比べて、電子を何個失ったのか、あるいは電子を何個余分に受け取ったのかを示す数値

[4] イオン液体

陽イオンと陰イオンで構成される100℃未満で液体の塩

[5] 陽イオン

電子を失ったことで、プラスの電気を帯びた原子(陰イオン:電子を受け取ったことで、マイナスの電気を帯びた原子)

【参考資料】

参考拠点:NXR開発センター
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