2025年1月21日
新潟大学
九州大学
日本原子力研究開発機構
地球全体で土壌の有機炭素注1の微生物分解により放出される二酸化炭素(CO2)の量は人為的CO2排出量の約5倍に相当しているため、気候変動が土壌のCO2放出動態に及ぼす影響を明らかにすることが重要です。
新潟大学自然科学系(農学部)の永野博彦助教、大学院自然科学研究科博士前期課程の鈴木優里(大学院生)、九州大学大学院農学研究院の平舘俊太郎教授、日本原子力研究開発機構の小嵐淳研究主席らの共同研究グループは、日本各地の10地点の森林土壌を対象に室内模擬実験を行い、温暖化に伴う降水パターンの変化によって引き起こされる土壌の乾燥と湿潤の繰り返しによって、土壌から放出されるCO2の量が大きく増大することを明らかにしました。さらに、このCO2放出量の増大は、乾燥と湿潤の繰り返しによる微生物細胞の破壊と分解に加え、土壌炭素の蓄積に寄与している活性金属―有機物錯体成分注2の分解促進により引き起こされている可能性を提示しました。
大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の上昇は、地球の温暖化を引き起こし、さらには地球規模での水の大循環にも影響を及ぼすことで、世界各地の降水パターンを大きく変化させつつあります。こうした降水パターンの変化は、単なる年間降水量の増減だけでなく、極端豪雨や干ばつなどの頻度を増大させ、土壌の乾燥と湿潤の繰り返しを引き起こすことが危惧されています。土壌の乾燥と湿潤の繰り返しは、地球上で最大級の炭素貯蔵庫である土壌における有機炭素の分解とそれに起因したCO2放出(地球全体で人為起源排出量の約5倍に相当)に大きく影響を及ぼす可能性があります。特に、乾燥と湿潤の繰り返しによって土壌CO2放出が増大する可能性が古くから指摘されてきましたが、実際の増大規模の定量的評価や増大メカニズムの全容解明には至っていませんでした。
本研究では、国内各地の10地点の森林から採取した土壌を、降水パターンの変化に伴う乾燥と湿潤の繰り返しを模擬した条件で84日間室内培養し、CO2放出量の変化を評価しました。その結果、全ての土壌において、CO2放出量は乾燥と湿潤の繰り返しによって増大し、土壌水分量が変化しない条件でのCO2放出量の1.3~3.7倍になりました。また、乾燥と湿潤を繰り返す条件では、微生物バイオマスの大きな減少が観測され、乾燥と湿潤の繰り返しによる微生物細胞の破壊によって新たに供給された有機炭素がCO2放出の増大に寄与した可能性が示されました。加えて、乾燥と湿潤の繰り返しによるCO2放出の増大率は、土壌中の活性金属と有機物で形成された錯体成分の存在量が多い土壌ほど大きいことがわかりました。このことは、土壌有機炭素の安定的な蓄積機構として重要と考えられてきた活性金属―有機物錯体成分が、乾燥と湿潤の繰り返しにより微生物によって利用されやすい状態になることで、これまで分解を免れてきた有機炭素が新たなCO2放出源となる可能性を示しています。
図1. 本研究で明らかになった乾湿サイクルによる土壌のCO2放出増大の概要
本研究成果は、温暖化に伴って顕在化する極端気象現象が土壌CO2放出に及ぼす影響の詳細解明に繋がるものであり、地球環境の将来予測モデルの予測精度向上に資することが期待されます。今後は、実際の屋外環境での影響評価・メカニズム検証なども実施していく予定です。
本研究成果は、2025年1月16日、欧州地球科学連合(EGU)の科学誌「SOIL」に掲載されました。
【論文タイトル】Comprehensive increase in CO2 release by drying-rewetting cycles among Japanese forests and pastureland soils and exploring predictors of increasing magnitude
【著者】Yuri Suzuki, Syuntaro Hiradate, Jun Koarashi, Mariko Atarashi-Andoh, Takumi Yomogida, Yuki Kanda, and Hirohiko Nagano
【doi】10.5194/soil-11-35-2025
本研究は、文部科学省科学研究費助成事業(21H02231、21H05313、22H05717)などの支援を受けて行われました。
土壌に存在する有機炭素の量は植物体存在量の3~4倍、大気存在量の2~3倍に達しており、陸域で最大の炭素プールとなっています。
土壌に存在する活性金属―有機物錯体成分は、特にピロリン酸ナトリウム溶液によって抽出可能となる反応活性の高いアルミニウムや鉄を主体とした土壌成分であり、日本に広く分布する火山灰性土壌(黒ボク土)で有機炭素が高濃度で長期間安定的に蓄積されてきている主要因の一つと考えられています。