令和3年9月6日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
三菱FBRシステムズ株式会社
株式会社大林組
株式会社川金コアテック

より速い地震動へも対応可能な高性能免震オイルダンパを開発

【発表のポイント】

開発に用いた試験用オイルダンパ

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:児玉敏雄 以下、「JAEA」という)高速炉・新型炉研究開発部門の山本研究副主幹らは、三菱FBRシステムズ株式会社、株式会社大林組、株式会社川金コアテックとともに、許容速度を大幅に向上させた免震システム用の高性能オイルダンパを開発しました。

ナトリウム冷却高速炉(以下、高速炉という)は、高い信頼性、経済性等を実現する第4世代原子力システム*3の、有望な技術のひとつです。JAEAではこれまでに高速炉を開発しており、その設計には日本の厳しい基準地震動を想定しています。原子炉建屋にも免震システムの活用を検討しており、水平方向の地震荷重のみならず鉛直方向にも免震効果を発揮する3次元免震システムの開発を並行して進めてきました。

3次元免震システムには支持機能*4復元機能*5減衰機能*6の3つの機能があります。この度、この3つの機能のうち、減衰機能を担うオイルダンパについて、現在流通しているものに比べて約2倍以上の許容速度をもつ高性能オイルダンパを開発しました。なお、今回開発したオイルダンパは、建物免震用オイルダンパとしては世界一の性能です。本オイルダンパを組み込んだ3次元免震システムは、耐震性が向上し設計の成立範囲が広がるため、より安全な次世代の原子力システムを構築することができます。また本システムは、精密機器工場やデータセンターなど一般建築物の耐震性向上へも応用可能です。

本研究成果は、2021年9月7日付けで日本建築学会大会において「3次元免震装置の研究開発」として発表しました。

【これまでの経緯、背景】

高速炉は、冷却材の沸点が高いという特徴を活かして熱効率を向上させるため運転時の冷却材温度が軽水炉と比べて高温となります。そのため、高速炉の機器設計では低温から高温の広い温度使用条件における耐熱設計の観点から、構造物の厚さが薄肉構造となる傾向になります。一方、機器に作用する地震荷重に対する耐震設計の観点では、構造物の厚さが厚肉構造となる傾向になります。高速炉の機器設計では、構造物の厚さについて「耐熱設計」と「耐震設計」の相反する傾向を考慮して決定する必要があります。

そのため、薄肉構造でも耐震設計が成立するよう地震荷重の大幅低減に着眼した原子炉建屋への3次元免震システムの導入が検討されてきました。昨今の地震評価における地震動の大きさを考慮すると、大型の原子炉容器の耐震性を向上させるためには、水平方向の荷重に加えて鉛直方向の荷重を低減できる免震システムが有効であるためです。検討においては、近年着目される長周期地震動*7の水平方向の速く、大きな揺れ幅(変位)にも着目してきました。地震エネルギーをオイルダンパで吸収・減衰させる免震システムを用いる建物の場合、オイルダンパの許容速度が大きいほど、速い揺れをもたらす地震においても建物内の構造物は免震効果を得ることが可能となります。

高速炉の3次元免震システムでは、図1で示すように支持機能と水平方向の復元機能を主に積層ゴムが、上下方向の復元機能を皿ばねが担っており、今回開発した高性能オイルダンパが水平方向の減衰機能を担っています。長周期地震動のように想定される水平方向の速度と変位が大きい場合、十分な許容速度とストロークを有するオイルダンパの減衰機能によって、水平方向の変位を積層ゴムの支持機能と復元機能の範囲内に抑制する必要があります。そこで、現在流通している免震用のオイルダンパの許容速度を約2倍以上向上させた高性能オイルダンパを開発しました。

図1 高速炉の3次元免震システム概略図

【今回の結果】

現在流通している建物免震用オイルダンパ(1000 kN)は図2で示すように許容速度が1.3 m/s程度です。本研究においては、基準地震動に対して十分な裕度を持たせるために、流通しているオイルダンパと同等の形状を保持しながらも、許容速度を約2倍以上とすることを目標として開発を進めてきました。オイルダンパは、地震動を受けたとき、ロッドが引張又は圧縮される際に、各油圧室にあるオイルの流れが制御弁でコントロールされます(図3)。オイルダンパの許容速度を上げるためには、高速度に対応して油流をコントロールする必要があり、安定した減衰力を有する油圧回路を開発しました。これらを内蔵させたオイルダンパの有効性を検証するため、世界最大規模の加振性能を有する試験機を活用しながら、オイルダンパにかかる荷重とそれに伴う変位関係を計測しました。その結果、最大2.7 m/sの 入力速度で安定した減衰性能が得られることを確認し、目標である 2 倍以上の許容速度を有する高性能な水平オイルダンパの開発に成功しました。

図2 既存のオイルダンパと高性能オイルダンパの許容速度の比較
図3 オイルダンパ概略図

【今後の展望】

本オイルダンパを組み込んだ免震システムを原子力建屋へ適用することにより、耐震性が向上し設計の成立範囲が広がるため、より安全な次世代原子力システムの構築が期待できます。

本成果は、安全な次世代原子力システムに貢献するだけでなく、一般建築物(精密機器工場やデータセンターなど)の幅広い分野での利用も期待されます。

【各研究者の役割】

JAEA: 開発目標/地震条件の設定、開発計画策定・評価

三菱FBRシステムズ株式会社:免震システムの設計要求設定・設計、原子炉建屋設計

株式会社大林組:免震システムの設計・試験データの分析、建屋設計・評価

株式会社川金コアテック:試験体製作、試験の実施

用語説明

*1 オイルダンパ:

オイルダンパは筒のような形をしており、筒の中にはオイルとピストンが入っています。 このオイルとピストンが地震に合わせて動き、地震エネルギーを吸収・減衰して揺れを軽減します。

*2 許容速度:

オイルダンパの性能が確保できる最大の応答速度。この許容速度が大きくなればなるほど、より大きな地震動に対してもオイルダンパの減衰機能を確保できます。

*3 第4世代原子力システム:

燃料の効率的利用、核廃棄物の最小化、核拡散抵抗性の確保等エネルギー源としての持続可能性、炉心損傷頻度の飛躍的低減や敷地外の緊急時対応の必要性排除など安全性/信頼性の向上、及び他のエネルギー源とも競合できる高い経済性の達成を目標とする次世代原子炉概念です。

*4 支持機能:

建物の重さを支える機能です。

*5 復元機能:

建物を元の位置に戻す機能です。

*6 減衰機能:

地震の揺れを小さくする機能です。

*7 長周期地震動:

地震で発生する約2 - 20秒の長い周期で揺れる地震動のことです。地震計の発展とともにその存在と性質が研究されるようになり、特に高層建築物が増えた近年は、防災の観点からも対策が重要となっています。

参考部門・拠点:高速炉・新型炉研究開発部門
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