令和3年1月22日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

汚染時に作業者を速やかに退避させる高機能・簡単組立テントを開発
―原子力施設の緊急時の安全対策強化に貢献―

【発表のポイント】

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:児玉敏雄)核燃料サイクル工学研究所プルトニウム燃料技術開発センター環境プラント技術部の柴沼智博らグリーンハウス開発グループは、原子力施設における汚染トラブル発生時に作業者を迅速に退避させるための身体除染用高機能・簡単組立GHを開発し、原子力機構の一部施設において運用を開始しました。

原子力施設において放射性物質の漏えいによって作業者の身体の複数個所に汚染が付着した場合、複数の密閉型のテントをつないだGHを設置し、作業者の汚染検査や除染処置、周辺への汚染拡大防止措置を行う必要があります。しかし、従来のGHは、足場用のパイプを接続用クランプで組み合わせてフレームとし、これにビニール製のテントをロープで結び付けて固定する構造であり、設置に時間を要し、作業者を退避させるための必要な処置が遅れ、内部被ばくなどのリスクが高くなる恐れがありました。また、作業者の退避経路は1つのみでした。

そこで、フレームを展開・伸縮が可能な構造とし、材質をアルミ製として軽量化を図ることで、GHの設置時間を約2時間から約20分に大幅に短縮することを可能としました。また、ファスナーで隣り合ったテントを前後左右で接続できる構造とし、施設内の様々な場所にその場に適したレイアウトで設置でき、かつ、作業者を複数のルートで退避させることができるGHを開発しました。さらに、GHに局所排気装置及びダストモニタを接続することでより安全に作業者を退避させることが可能です。これにより、原子力施設での汚染トラブル発生時に作業者を迅速に退避させることが可能となり、緊急時の安全対策強化に大きく貢献しました。なお、本GH及びその組立方法について、株式会社コクゴと特許を共同出願中です。

本GHはプルトニウム燃料技術開発センター等の施設に既に配備し、運用を開始しました。今後、本GHの技術は、外部環境への汚染拡大防止等、内部と外部の環境を隔てた密閉空間での作業を可能にするという点で、国内外の原子力施設においても利活用されることが期待できます

【開発の背景と目的】

原子力施設において、核物質の漏えい等によって作業者の身体の複数個所に汚染が付着した場合、作業者を速やかに退避させる必要があります。作業者の退避にあたっては、汚染が発生した部屋の出入口に複数の密閉型のテントをつないだGHを設置し、汚染を周囲に広げることなく作業者の汚染検査や除染等の処置を行います(図1)。

図1 身体汚染発生時の対応の流れ

しかしながら、これまでの作業者の身体汚染対応時に使用してきたGHは、足場用のパイプを接続用クランプで組み合わせてGHのフレームとし、これにビニール製のテントをロープで結び付けて固定する構造でした。この方式のGHは設置するのに長時間を要するため、退避が遅れることで作業者の内部被ばくに至るリスクが高くなる恐れがありました。そこで、作業者の迅速な退避を可能とするために短時間で設置可能なGHを開発しました。

【開発内容と成果】

最初に、市販品テントの調査を行いましたが、テントの部屋数が一つ、かつ、屋外設営用の大型のものがほとんどであり、作業者の身体汚染対応時に求められる複数の部屋数を持ち、施設内の様々な場所に設置可能という要求事項を満足できない仕様でした。そのため、本開発では、GHの組立てやすさ及び機能性に着目し、作業者の身体汚染時の対応に適した仕様を検討し、以下の改良を施した新たなGHを開発しました。

まず、GHフレームを展開・伸縮が可能な構造とし、材質をアルミ製とすることでフレームの軽量化を図るとともに、従来方式では必要であった組立て工具や脚立等の足場がなくてもGHの組立てを可能にしました(図2)。これにより、従来方式では組立てに必要だった作業員7名を約半分の4名に減らすことができました。また、設置時間も従来の約2時間から、1/6の約20分に短縮しました。なお、GHの床板にフレームを設置するガイドを設けることでGHフレームの強度を保つことを可能にしました(図3)。

図2 展開・伸縮式軽量フレーム
図3 フレーム強度補助床板

次に、隣り合ったテントの接続にはファスナー式接続方法を採用することで、簡単に複数の部屋を接続して設置することを可能にしました(図4)。これにより、個々のテントを設置環境に応じた最適なレイアウトに設置することができるので、仮に多数の作業者が身体汚染した場合でも、複数の退避系統を設置することで速やかな作業者の退避を可能にしました(図5)。

図4 ファスナー式のテント接続方法
図5 設営レイアウトの例

さらに、局所排気装置を用いてGH内の空気を排気することで、GHの出口側から入口側に向かって空気の流れを作りました。同時に、ダストモニタを用いてGH内の放射能濃度をリアルタイムで監視しながら作業者の汚染検査及び除染を行えるようにしました。これらにより、より安全に作業者の退避を行うことができます(図6)。

図6 局所排気装置・ダストモニタ

なお、本GH及びその組立方法について、株式会社コクゴと特許を共同出願中です。

【今後への期待】

本GHの開発は、原子力施設における作業者の内部被ばく対策として有効であり、緊急時の安全対策の強化に大いに貢献します。現在では、プルトニウム燃料技術開発センター等の施設に既に配備し、運用を開始しています。

今後、本GHの技術は、外部環境への汚染拡大防止等、内部と外部の環境を隔てた密閉空間での作業を可能にするという点で、国内外の原子力施設においても利活用されることが期待できます。

【用語の説明】

1) グリーンハウス(GH)

原子力施設において、放射能汚染のある設備・機器の解体撤去や身体汚染者の汚染検査・除染作業等を行う際、周囲への汚染拡大防止のため作業エリアに仮設される囲いをグリーンハウス(GH)といい、パイプ等を用いたフレームにビニール製のテントやシ−ト等で覆いをした構造となっています。

2) 局所排気装置

GH内の空気を吸引排気する装置で、GH内の気圧をGH外周辺よりも低く保つとともに、身体汚染対応時にはGHの出口側から入口側(GH2からGH0方向)に空気の流れを作ることで、グリーンハウス外への汚染拡大を防止ためにGHに取り付けます。

3) ダストモニタ

空気中の放射性物質濃度を測定する装置で、空気を連続してサンプリングしながら空気中の放射性物質の微粒子(ダスト)をろ紙に捕集し、その濃度を測定します。

4) フレーム強度補助床板

GHテントの床面が破れないように保護するために、ゴム/塩化ビニール/スポンジの3層構造で衝撃吸収を可能としたGHの床板です。また、GHフレームの強度を上げるためにフレーム脚部を設置するガイドを取り付けています。

参考部門・拠点:核燃料サイクル工学研究所
連絡先:
研究連携成果展開部 知的財産管理・利用促進課
E-mail:seika.riyou@jaea.go.jp
TEL:029-284-3420
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