令和元年10月18日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」という)原子力基礎工学研究センター 燃料高温科学研究グループの柴田裕樹副主任研究員及び高野公秀グループリーダーらは、長寿命放射性核種を短寿命または安定核種に変換する加速器駆動核変換システム(ADS)1)に使われる燃料のふるまい2)を解析するための窒化物燃料物性データベースを整備し、公開しました。
陽子加速器と未臨界原子炉のハイブリッドシステムであるADSの研究開発が国内外で実施されています。ADSの炉心に使用される燃料はプルトニウムとMA3)を主要成分とし、窒化ジルコニウムが希釈材として添加されています(窒化物燃料、図2)。その燃料設計には、窒化物燃料が炉心でどのようにふるまうかを予測することが必要でした。しかし、プルトニウムやMAは高い放射能をもつため測定試料数が限定され、系統的なデータを取得することは困難でした。
そこで、研究グループは、これまで原子力機構で取得してきた窒化物の熱物性データや既報の基礎特性データを収集、整理し、可能な限り定式化することにより、ADSの燃料設計に必要となる範囲のデータをカバーした「窒化物燃料物性データベース」を整備しました。
今回公開したデータベースは、コンピュータ画面上で燃料となる元素を指定することで、その元素に関するさまざまな物性データをグラフで視覚的に表示できます。また、各元素の温度依存性や元素組成依存性を式(関数)で表示します。さらに各データの出展(論文情報)を表示するなど、多様な機能があり、幅広いユーザーのニーズに応えることができます。
このデータベースを、同グループの「窒化物燃料ふるまい解析コード」に組み込むことで、燃料のふるまい予測が出来るようになり、実用レベルのADS燃料の設計を可能なものとしました。また、今後の窒化物燃料への中性子照射試験の実施に向け大きな一歩となります。このように、「窒化物燃料物性データベース」を整備・公開し、関連する研究が進むことで、国内外のADSによる核変換システムの実用化に貢献できます。
さらに近年、軽水炉用事故耐性燃料4)の候補の一つとして、ウランの窒化物燃料が挙げられており、軽水炉用の燃料設計の研究開発にも応用できます。
窒化物燃料物性データベースは以下のホームページより10月18日に公開します。
https://nsec.jaea.go.jp/fme/group2/group2_index.htm
使用済核燃料の放射性廃棄物の地層処分における潜在的放射性毒性5)による環境への負荷を低減するために、使用済燃料中に含まれるマイナーアクチノイド(MA)や長寿命放射性核種を選択的に分離し、分離したMAや長寿命放射性核種を原子炉や加速器で照射し安定核種または短寿命放射性核種へと核変換する分離変換技術6)を取り込んだ核燃料サイクルが検討されています。
原子力機構では、商用発電サイクルに加速器駆動核変換システム(ADS)(図1)によるMAや長寿命放射性核種の変換専用の核変換サイクルを付加した階層型分離変換サイクル7)の研究を進めています。
窒化物燃料は、熱伝導率や融点が高いため冷却しやすく安全裕度8)が大きいことに加え、アクチノイドが均質に混ざり合うため燃料組成の自由度が大きいといった特長から核変換用燃料として適しています(図2)。
照射実績の少ない窒化物燃料では、ADS炉心における窒化物燃料の設計や燃料のふるまい予測にMA核変換用窒化物燃料ふるまい解析コードが非常に有用です。今後、照射試験に進むためにも、ふるまい解析コードの開発は重要です。現在同研究グループで窒化物燃料ふるまい解析コードの開発を進めていますが、そのためには窒化物の基礎特性データが必要となります。しかし、超ウラン元素(TRU)、特にMAを用いた試験では、その高い放射能のため特殊な実験施設が必要であり、また使える試料量が制限されてしまうことから、実験により系統的にデータを取得することは非常に困難です。また、多成分化や高燃焼度化など燃料の高度化が進むと取扱うふるまいが複雑化し、燃料設計に必要な基礎特性データが大幅に増大します。
そこで、これまで原子力機構で取得してきた窒化物の熱物性データや既報の基礎特性データを収集、整理し、温度や元素組成への依存性を可能な限り定式化し、ふるまい解析に導入可能な窒化物燃料物性データベースを整備しました。
ADS用の窒化物燃料にはプルトニウム(Pu)及びMAが主要成分として含まれること、ならびに窒化ジルコニウム(ZrN)等の希釈材が添加されることに特徴があります。そのためPuやMAの窒化物のほかZrNを含む窒化物固溶体を対象として、ADSの燃料設計に必要な物性に関する実験値や評価値を収集・整理しました。これらの物性値は設計において種々の条件に対応しやすくするため、可能な限り定式化することに努めました。また、誤差の推定が可能な物性値についてはその評価結果も記載しました。PuやMA等のTRU窒化物については実験値や評価値が報告されていない物性値も多いため、その場合は代替として窒化ウラン(UN)やUNと窒化プルトニウム(PuN)との固溶体の報告されている物性値でデータベースを補完することにより、許容できる精度を持ったADS燃料の設計ができるようにしました。図3は今回公開したデータベースの検索画面(図左側)とグラフ出力画面(図右側)の例です。燃料の熱伝導率が温度と組成に依存していることをグラフで視覚的に捉えることが可能です。これにより、ふるまい解析コードによる解析結果を物性データに立ち戻って考察する際に、直感的に解釈することが可能となるなどの利点があります。データベースに収納されている主な物性データは、格子定数、理論密度、比熱、熱伝導率、熱膨張率等のほか、電気特性、機械特性、熱力学的諸量も網羅しています。
図3 窒化物燃料物性データベースの検索画面例
ジルコニウム-プルトニウム-アメリシウム窒化物固溶体の熱伝導率の検索画面と検索結果のグラフ図(図右側)を示しており、熱伝導率を温度に対してプロットしたものでシンボル(○,△,□)が実験値、点線がデータベース内の定式化した熱伝導率になります。図中のxは、(ZrxPu(1-x)/2Am(1-x)/2)Nのジルコニウム組成比で、それぞれのジルコニウム組成比に対しても熱伝導率が評価できています。
核変換用窒化物燃料のふるまい解析で重要な基礎特性データの一つである熱機械特性9)のデータやMA含有窒化物の基礎特性データの取得を進め、「窒化物燃料物性データベース」の拡充に取り込んでいく予定です。このようなデータベース拡充によってふるまい解析コードの解析機能・精度の向上が見込まれ、照射試験の実施に向け大きな前進力となることが期待されるとともに、ADSによる階層型分離変換システムの実用化に貢献できることが見込まれます。
雑誌名:原子力機構研究開発報告書類「JAEA-Data/Code」
タイトル:”Property Database of TRU Nitride Fuel”
著者:Tsuyoshi NISHI1,2, Yasuo ARAI1, Masahide TAKANO1 and Masaki KURATA1
所属: 1日本原子力研究開発機構、2茨城大学
https://nsec.jaea.go.jp/fme/group2/group2_index.htm
参考部門・拠点: | 原子力基礎工学研究センター |