令和元年9月20日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

日本の高温ガス炉技術開発の高度化、国際競争力強化に向けた大きな一歩
~ポーランド国立原子力研究センターとの研究開発協力実施取決めに署名~

【発表のポイント】

【概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下、「原子力機構」)は、ポーランド国立原子力研究センター(以下、「NCBJ1)」)との間で、高温ガス炉2)技術分野における研究開発協力のための実施取決め」を令和元年9月20日(現地時間)に署名します。

原子力機構は、平成29年5月18日に日本とポーランドの外相会談において署名された「2017年から2020年までの日本国政府とポーランド共和国政府との間の戦略的パートナーシップの実施のための行動計画」に基づき、同日付で、ポーランド原子力研究センター(NCBJ)との間で、「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」に署名しました。これまで高温ガス炉の研究開発協力に向けた検討を進め、公開情報に基づく技術会合や人材育成を実施してきました。本実施取決めでは協力内容をさらに具体化させ、以下の分野において、データの共有等による研究開発協力を進めます

①高温ガス炉の高度化に関するシミュレーションのための材料及び被覆粒子燃料に関する研究開発

②原子炉への化学プラント接続のための安全解析

③設計研究による高温ガス炉の高度化に関するシミュレーション

④高温ガス炉の人材育成

高温ガス炉産学官協議会3)において、国際協力を高温ガス炉開発の中で重要な活動として位置付け、国際協力方針を定めるとともに、国内企業チームを設立し、協力に向けた検討を進めてきました。第5次エネルギー基本計画においても、固有の安全性を持つ高温ガス炉の技術開発を国際協力の下で推進するとされています。これらの方針に沿って国際協力を活用しつつ、ポーランドにおける高温ガス炉開発の主要なパートナーとして、原子力機構は研究開発協力を進めます。これによって、原子力機構は、高温工学試験研究炉(HTTR)4)の建設及び運転を通じて培った国産高温ガス炉技術のさらなる高度化、国際標準化を図り、ポーランドと協力して技術を展開することにより、革新炉として注目される高温ガス炉技術の国際競争力の強化を目指します。

なお、本実施取決めは、原子力機構理事長児玉敏雄とNCBJ所長Kurek Krzysztof(クレック・クシシュトフ)氏により、ポーランドのオトフォツク市のNCBJにて調印されます。

【研究開発協力の背景】

高温ガス炉は、安全性が高く、さらに900℃を超える高温の熱を取り出せることから、水素製造等の発電以外の利用も可能な原子炉であり、高温ガス炉に関する研究開発が各国で積極的に進められています。原子力機構はHTTRの建設及び運転を通じて培った世界最高レベルの高温ガス炉技術を有しています。

ポーランドでは、エネルギー省が2018年1月に高温ガス炉の導入に関する委員会報告書を公開し、高温ガス炉を産業用の熱源として利用することを想定して熱出力10MWの高温ガス炉実験炉及び熱出力165MWの商用高温ガス炉の導入計画を示しました。NCBJはポーランド国内における高温ガス炉開発を担当しており、EUの資金も活用して高温ガス炉実験炉を建設することを計画しています。また、EUの研究開発プログラムの下で、NCBJが取りまとめとなり、原子力機構、欧州産業界、米国産業界等が協力し、欧州に展開する熱電併給の高温ガス炉コジェネレーションシステム5)の安全基準や安全性を高めたシステム概念、実証に向けた枠組みの構築を目的とした研究開発プロジェクト(GEMINI+)6)が平成29年9月1日から進められています。

用語説明

1)NCBJ

ポーランド国立原子力研究センター(Narodowe Centrum Badań Jądrowych(英語表記:National Centre for Nuclear Research):NCBJ)は、加速器科学、放射線医学物理学、材料研究、プラズマ物理学、核物理学、素粒子物理学、ニュートリノ物理学、宇宙放射線物理学等の研究を実施しています。1974年12月に臨界を達成した熱出力30MWの研究炉MARIAを運用し、燃料、材料の照射試験、放射性同位元素製造やシリコン半導体の製造、中性子ラジオグラフィ等の、多種多様な照射試験を行っています。

2)高温ガス炉

高温ガス炉は、

①化学的に不活性なヘリウムガスを冷却材として用いており、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、

②耐熱性に優れたセラミック被覆粒子燃料を用いており、1600℃の高温まで核分裂生成物(FP)を保持する能力に優れていること、

③出力密度が低く(軽水炉に比べ1桁程度低い)、炉心に熱容量の大きい黒鉛等を大量に用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料の健全性が損なわれる温度に至らないこと、

④黒鉛構造物の高い熱伝導、原子炉圧力容器内の冷却材ヘリウムガス及び原子炉圧力容器外の空気による自然対流、さらに外表面からの熱放射によって、炉心の崩壊熱を除去することが可能なこと、

等の特徴を持つ安全性に優れた原子炉です。

このため、仮に冷却材流量を喪失し、さらに原子炉スクラムに失敗した場合でも、軽水炉とは異なり、固有の安全性を持つ高温ガス炉は、自然に止まり、冷やされます。

また、900℃を超える高温の熱を原子炉から取り出せることから、熱効率に優れると共に、水素製造等の発電以外の利用も可能な原子炉です。

3)高温ガス炉産学官協議会

原子力機構をはじめ、文部科学省、民間企業、大学等の28の機関が参加し、 高温ガス炉の将来的な実用化像やそれに向けた課題、国際標準化等を見据えた議論を行い、今後の高温ガス炉に関する政策立案に資することを目的に、2015年4月に設置された協議会。これまでに計6回の会合が開催されました。

4)高温工学試験研究炉(HTTR)

HTTRは、我が国初の黒鉛減速、ヘリウムガス冷却のブロック型の高温ガス炉であり、熱出力30 MW、原子炉出口冷却材最高温度は950℃です。平成10年11月10日に初臨界、平成13年12月7日に熱出力30 MWにおいて原子炉出口冷却材温度850℃、平成16年4月19日に原子炉出口冷却材温度950℃、平成22年3月13日に50日間の高温(950℃)連続運転を達成しました。また、平成22年12月に、冷却材流量を喪失させ、さらに原子炉スクラムに失敗した場合でも、固有の安全性を持つ高温ガス炉が自然に止まり、冷やされることを実証する国際共同試験に成功しました(図1)。

HTTRは、現在、試験研究炉の新規制基準への適合性確認の審査を受けており、安全確保を最優先として、早期の運転再開を目指しています。

5)熱電併給(コジェネレーション)システム

高温ガス炉は高温から低温まで熱を多様に利用することができます。熱交換器を介した2次冷却系の熱を化学プラント等で利用し、同時に原子炉側で発電を行うシステムを熱電併給(コジェネレーション)システムといいます。

6)GEMINI +プロジェクト

ブロック型高温ガス炉開発を精力的に進めているポーランドのNCBJがプロジェクトのとりまとめ役となり、12カ国1国際機関(日本、ポーランド、英国、デンマーク、米国、チェコ、スペイン、フィンランド、仏国、リトアニア、蘭国、韓国、EU)の7研究機関、18企業、2大学が、欧州に展開する高温ガス炉コジェネレーションシステムの安全基準や安全性を高めたシステム概念、実証に向けた枠組みの構築のための研究開発協力を進めるプロジェクトです。

図1 高温工学試験研究炉(HTTR)を用いて、高温ガス炉の固有の安全性を実証

参考部門・拠点: 高速炉・新型炉研究開発部門

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