令和元年5月9日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
株式会社千代田テクノル

空からすばやく 環境中の放射性物質分布を3次元で可視化
―放射性物質可視化カメラを搭載したドローンシステムを開発―

【発表のポイント】

【動画】

実証試験を行なっているドローンシステムでの測定風景と放射性物質が多く沈着している箇所を赤く示すカラーコンター図

【概要】

福島県内の帰還困難区域を含む屋外環境において、 福島第一原子力発電所(以下「1F」という。)事故に伴い環境中に飛散・沈着した放射性物質の分布を把握することは、除染作業者への情報提供や住民帰還への指標とする上でとても重要です。しかし、従来のサーベイメータを用いた放射性物質分布の測定では広範囲エリアの測定に時間がかかり、足場の悪い場所では怪我等の危険も伴うために事前の処置等も必要となり、作業コストの増加が懸念されます。そのため、簡便に広範囲を放射性物質分布測定できる手法が求められていました。

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉 敏雄、以下「原子力機構」という。)と株式会社千代田テクノル(代表取締役社長 山口 和彦、以下「千代田テクノル」という。)は、福島県浜通り地元企業の株式会社栄製作所等と連携して、ドローンに放射線源の位置推定が可能な小型軽量コンプトンカメラ1)を載せた遠隔放射線イメージングシステムを開発しました。本技術は、原子力機構廃炉国際共同研究センター(富岡町)と千代田テクノル福島営業所(楢葉町)で開発され、地表面との距離を測るためにレーザ光を利用した測域センサ(LiDAR)2)を用いて作成した3次元地形モデルを利用して放射性物質分布を3次元的に可視化するものです(図1)。本手法では上空からの測定が可能となるため、広範囲を迅速にかつ安全に測定することが可能となります。

図1 (上)実証試験を行なったエリアで測定した放射線分布のカラーコンター図
(下)同じエリアをサーベイメータで測定した結果

図2 実証試験を行なっているドローンシステムでの測定風景

今般、本システムを用いて帰還困難区域で実証試験を実施し、図1に示すような3次元的な放射性物質分布図を描画することに成功しました。図1は放射性物質が多く沈着している箇所を赤く示すカラーコンター(等高線)図を表示しています3)。比較のため、従来のサーベイメータを用いて取得した線量率分布マップを併記しています。試験の結果、道路やあぜ道に存在するホットスポットをドローンの飛行によって遠隔で可視化できることが確認されました。今回測定を行なった約7,000 m2の広範囲エリアは草木の手入れがされておらず足元も悪かったため、サーベイメータを用いたホットスポットの探索に関わるデータの取得に半日以上を要しました。しかしながら本システムを用いることにより、30分未満という短時間で測定が完了しました。このように、本システムは短時間で広範囲エリア内における局所的なホットスポット検知を可能とするだけでなく、作業者の被ばくや怪我などの安全に対するリスクを低減することにも有効です。

本事業は福島県地域復興実用化開発等促進事業費補助金事業4)の採択課題「無人飛行体をプラットフォームとする放射線分布の3D可視化技術の開発」(代表:原子力機構 佐藤優樹研究員、千代田テクノル 小澤慎吾研究員)として実施したものです。なお、本システムは2019年度中の実用化を予定しています。

【研究の背景と目的】

福島県内の帰還困難区域を含む屋外環境において、1F事故に伴い環境中に飛散・沈着した放射性物質がどこにどのように分布しているかを把握することは、除染作業者への情報提供や住民帰還への指標とする上でとても重要です。しかし、帰還困難区域においては草木の手入れがされておらず足元が悪い状況などもあり、従来のサーベイメータを用いた広範囲エリアの放射性物質分布測定では時間がかかり、作業コストの増加が懸念されます。

これを踏まえて原子力機構と千代田テクノルは、広範囲エリアについてホットスポットを含む詳細な放射性物質分布を測定することを目的とし、放射線源の位置を推定できる小型軽量コンプトンカメラを載せたドローンシステム(図3)及び3次元地形モデルを利用した放射性物質分布の3次元可視化手法を開発しました。

図3 開発した遠隔放射線イメージングシステム。搭載した(左)小型軽量コンプトンカメラと(右)測域センサを示す。

【研究成果】

原子力機構と千代田テクノルは、福島県浜通り地域地元企業である株式会社栄製作所(南相馬市)等と連携して、重さ1.5 kgの小型軽量コンプトンカメラをドローンに搭載し、GPSセンサ及び慣性計測センサ(IMU)を用いて、コンプトンカメラの自己位置及び姿勢情報をリアルタイムで計測することにより、移動しながらコンプトンカメラによる測定を可能にした遠隔放射線イメージングシステムを開発しました。機動性に優れるドローンを用いることにより、従来人の手で地上において実施していたサーベイメータによる測定と比較して、広範囲を迅速にかつ安全に放射性物質の分布を測定することが可能となりました。さらに、サーベイメータを用いた点による放射線量の測定とは異なり、面的に測定することができるため、より詳細に放射性物質の分布を把握することができます。

しかしながらコンプトンカメラを用いた測定では、放射線の飛来方向を特定するためにカメラの自己位置や姿勢の情報が既知である必要があり、従来は移動しながらの測定は難しく、固定した状態で測定を実施していました。本システムは自己位置や姿勢が認識できることから、動きながらでも測定が可能です。また測域センサを搭載することによって作業環境の3次元的な地形モデルを取得することができます。このためドローンと測定対象地点間の距離を把握することができ、地表面までの距離が遠くなることによる放射線検出数の減少を考慮して地表面に沈着した放射性物質の分布を3次元的に可視化することができるようになりました。さらに、今回開発したソフトウェアにより、放射性物質のイメージに3次元地形モデルと国土地理院の航空写真を重ね合わせ、ディスプレイ上に放射性物質の分布を3次元的に表示することができます。

【成果の活用・今後の予定】

本システムは、広いエリアでも短時間でモニタリングや民家や里山における局所的な汚染の検知に有効であり、帰還困難区域で自治体や帰還を望まれる避難者の皆様への情報提供に資することが期待されます。さらに、廃炉作業が進行中である1Fにおいても、サイト内の放射性物質分布を3次元的に可視化することにより、ホットスポットの効率的な把握や除去、効果的な遮へいにより廃炉作業の円滑な推進に貢献できると考えています。

なお、本システムは2019年度中に実用化し、広く利用していただけるようにする予定です。

【用語解説】

1) コンプトンカメラ

放射性物質を可視化するための装置としてガンマカメラがあります。ガンマカメラは大別して下記の「ピンホールカメラ」と「コンプトンカメラ」があります。

各々の特徴は以下のとおりです。

ピンホールカメラは簡便ですが、大型、高重量となり、狭い現場での測定には向いていません。コンプトンカメラは、入射したガンマ線(放射線の一種)が散乱体と吸収体の各々で相互作用した位置と、受け取ったエネルギーから、ガンマ線の飛来方向を特定します。解析的に放射線源を求める手法を採用しているため、高重量の遮蔽体が要らずドローンに搭載する上で必要となる小型化が実現可能で、技術的には高度なものです。

今回使用したコンプトンカメラは、「ガンマ・キャッチャー」(重量約2 kg、浜松ホトニクス株式会社と早稲田大学が共同開発し、千代田テクノルが販売)をベースに軽量化したものです。

2) LiDARセンサ

Light Detection and Rangingの略語であり、パルス状に発光するレーザ光を用いて対象物を走査し、反射した散乱光が戻ってくるまでの時間から距離を計測するセンサです。これをドローンに搭載することにより、作業環境の3次元的な地形モデルを取得することが出来ます。

3) コンター(等高線)図

図面上で、ある量の値が同じであるような点を結んだ線のこと。一定値ごとに等値線を描いた図面を等値線図(とうちせんず)とよび、属性・分布状況が感覚的にわかるようになっています。等値線図を見やすくするため、各等値線の間の帯ごとに段階的に色彩を施す場合もあります(カラーコンター図)。

4) 福島県地域復興実用化開発等促進事業費補助金事業

本事業は、福島県浜通り地域等の15市町村において、福島県の復興を目的として実施されるものです。地元企業及び地元企業との連携による地域振興のための実用化開発等を促進し、同地域の産業復興の早期実現を図るため、政府が支援を実施しています。福島イノベーション・コースト構想の重点分野産業の裾野を広げ、復興の加速化を進めることを目的としています。

参考部門・拠点: 福島研究開発部門

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