平成31年4月24日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

放射性のゴミを分別する「SELECTプロセス」の開発に成功
~高レベル放射性廃液の有害度低減・減容化を目指す分離変換技術の開発に進展~

【発表のポイント】

図1 4つのステップで高レベル放射性廃液をさまざまな核種に分離できる「SELECTプロセス」

【研究の概要】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長:児玉敏雄、以下「原子力機構」という。)原子力科学研究部門原子力基礎工学研究センター群分離技術開発グループ(松村達郎グループリーダー)は、原子力発電で使用された燃料(使用済燃料)の再処理から生じる高レベル放射性廃液から、放射性毒性の高いアメリシウム(元素記号 Am)などを99.9%以上分離する実用的な手法として、「SELECTプロセス」を世界で初めて開発しました。

原子力機構では、高レベル放射性廃液に含まれるさまざまな放射性核種を、処理方法や用途に応じて複数の核種に分別する「分離技術」の開発を行っています。また、それらの中でも特に半減期1)が長く、放射性毒性2)の強いAmなどのマイナーアクチノイド3)(MA:Minor Actinides)を、半減期の短い、あるいは放射線を出さない安定な核種に核変換する「核変換技術」の開発も行っています。これらの技術を組み合わせ、高レベル放射性廃液の有害度低減・減容化を目指す「分離変換技術」の研究開発を進めています。Amを分離した高レベル放射性廃液は、放射能の減衰が早くなります。そのため、超長期にわたる管理や処分の負担軽減が期待できます。

分離変換技術では、まず複雑な組成を持つ高レベル放射性廃液からさまざまな核種をそれぞれ高い効率で取り出すことが必要です。しかし、これまでに考えられた分離法では、分離試薬にリンやイオウが含まれるため、分離にともなって新たに大量の廃棄物が発生する問題や分離試薬が高価である問題があり、実用的な分離法の開発は大きな課題となっていました。

そこで、原子力機構では、実用性の高い分離プロセス「SELECTプロセス」を開発しました。「SELECTプロセス」は、① 核燃料廃液からウラン・プルトニウムと高レベル放射性廃液の分離、② 高レベル放射性廃液からMAや希土類元素(RE:Rare Earth)の分離、③ MAとREの分離、④ MAからAmの分離、の4ステップから構成される分離プロセスです。SELECTプロセスの各ステップで使用する分離試薬は、リンやイオウを含まず、炭素・水素・酸素・窒素(CHON)のみで構成されているので、安価に製造可能で、しかも使用後は焼却処分が可能なため固体廃棄物が発生しません

今回の研究では、このうちステップ②の「高レベル放射性廃液からMAやREの分離」について、実用化レベルへのスケールアップが容易な溶媒抽出法を用いた手法を開発しました。また、分離試薬の性能を十分引き出すために、多段階にわたる分離操作の最適化を行いました。

実際に今回開発した分離プロセスで処理試験を行ったところ、高レベル放射性廃液からAmを99.9%以上分離できることを確認しました。今後、さらに開発を進め、高レベル放射性廃液の有害度低減・減容化を期待できる分離変換技術の実用化を目指します。

本研究成果は、「Solvent Extraction and Ion Exchange」に平成31年4月17日付で掲載されました。

本研究は、文部科学省国家課題対応型研究開発推進事業「原子力システム研究開発事業」で実施した研究開発成果を含みます。

【研究開発の背景と目的】

原子力発電所の使用済核燃料を再処理すると、燃料として再利用可能なウランとプルトニウムとともに高レベル放射性廃液(HLW)が発生します。HLWは、半減期が長くて放射性毒性が高い放射性核種を含みます。そのため、HLWは化学的に安定なガラス固化体とした後、人間の生活圏から長期間隔離するため地下深くに埋設する地層処分4)を行うことになっています。ガラス固化体に含まれる長寿命の放射性核種を核変換5)することによって長期的な放射性毒性を早く減衰するようにできれば、人間の生活圏から隔離する期間を短縮することができます。また、放射性毒性の高い放射性核種には発熱するものがあることから、このような発熱する核種を分離してHLWの発熱量を減らすことができれば、処分場の面積を大幅に減少させ処分コストの削減につながります。

原子力機構では、HLWに含まれる放射性毒性が高い放射性核種を高レベル放射性廃液から分離し、半減期が短い核種あるいは放射線を出さない安定な核種に核変換する「分離変換技術」の研究開発を進めています。アメリシウム(元素記号:Am)は、HLWに含まれる放射性毒性が高い主な元素の一つです。Amなどマイナーアクチノイド(MA)を含む長半減期核種の99.5%を核変換して短半減期核種あるいは安定核種に変換すると、使用済燃料の原料とした天然ウランのレベルまで毒性が減衰するのに要する時間を 1万年から数百年に短縮することができます。

MAを対象とした分離変換技術を実現するためには、特に多く含まれるAmをHLWから高い効率で分離する方法の開発が不可欠です。例えば、Amを99.5%の効率で核変換するためには、HLWから99.9%以上の分離効率が必要になります。これまで国内外においてAmを分離する方法の開発が進められてきました。しかし、HLWには、40種類以上の性質が異なる元素が含まれていて、その中からAmを効率良く分離することは困難でした。また、分離に必要な分離試薬が新たな廃棄物の発生源となったり非常に高価であったりする問題がありました。そこで、これらの問題を解決し、実用化に結び付く方法の開発が求められていました。

図2 分離変換技術の導入で処分に必要な面積をスリム化

【研究開発の手法】

原子力機構では、実用性の高いAm分離プロセスとして「SELECT(Solvent Extraction from Liquid-waste using Extractants of CHON-type for Transmutation)プロセス」を開発しました。SELECTプロセスは、以下の4ステップで構成される分離プロセスです。

ステップ①:核燃料廃液からウラン・プルトニウムと高レベル放射性廃液の分離

ステップ②:高レベル放射性廃液からMAや希土類元素の分離

ステップ③:MAとREの分離

ステップ④:MAからAmの分離

本研究では、このうちステップ②について、(1)溶媒抽出法と抽出剤の選定と(2)分離プロセスの構築とステップ②の実証、を行いました。

(1)溶媒抽出法と抽出剤の選定

今回、新たに開発した手法は、溶媒抽出法を使います。溶媒抽出法とは、お互いに混じり合わない水(水溶液)と油(有機溶媒)の間で、どちらの溶媒に溶けやすいかという性質を利用した分離法です(図3)。有機溶媒中に目的とする成分と結合する性質を持った「抽出剤」を添加し、目的成分のみを有機溶媒に移動(抽出操作)させた後、別の水溶液に戻す(逆抽出操作)ことで、目的成分を分離します。

原子力機構では、HLWの持つ高い放射能濃度に耐え、さらに複雑な組成のHLWからAmなどのMAを取り出すことが可能なジグリコールアミド(DGA)系抽出剤(図4)を開発し、これを利用した分離法の特許を取得しています(特開2002-001007)。 DGA系抽出剤は、分子中にリンやイオウなどの固体廃棄物となる成分を含まず、使用後は完全に焼却処理が可能で新たな廃棄物の発生源となりません。また、既に工業的に利用されている抽出剤と同様な合成法によって得られることから安価に入手可能であり、分離技術の実用化に適した抽出剤と言えます

図3 溶媒抽出法の説明図

水溶液(HLW)と抽出剤を入れた有機溶媒をかき混ぜ(攪拌)ても、お互いに混じり合いません。しかし、HLWと有機溶媒の境では、抽出剤がAmなどのMAやREなどの特定の元素と結合して、有機溶媒の中にMA/REが移動(抽出)します。かき混ぜた後に、しばらく置いておくと再びHLWと有機溶媒に分かれる(分相)ので、HLWを取り除き、別の新たな水溶液を用意して再び撹拌して、抽出剤とMA/REを分解することでMA/REだけを水溶液に戻します(逆抽出)。

図4 SELECTプロセスで用いるDGA系抽出剤であるTDdDGA(Tetra dodecyl diglycol amide)

(2)分離プロセスの構築とステップ②の実証

化学処理を組み合わせて目的元素の分離を達成する仕組みを「分離プロセス」と言います。溶媒抽出法を利用した分離プロセスでは、水溶液と有機溶媒を向かい合わせに流して連続して接触させ、撹拌と分相を繰り返すことによって、多段階の分離操作を行います(向流多段分離、図5)。この際の、さまざまな化学的組成や流速などの条件を適切に設定し、一連の流れを作り上げて分離を達成することを分離プロセスの構築、と言います。原子力機構では、DGA系抽出剤の特性を十分に引き出した新たなMA分離プロセスであるSELECTプロセスを構築し、実際のHLWからAmを取り出すステップ②の実証試験を行いました

図5 溶媒抽出法における向流多段分離
多数の抽出分離操作を直列につなぎ、多段階の操作で高い分離効率を得ることが可能です。が目的成分を示します。供給液と抽出溶媒は、抽出分離操作を繰り返しながら互いに反対方向に流れて行き、各分離操作において目的成分は抽出溶媒側に移動していきます。

【研究開発の成果】

原子力機構は、東海村の原子力科学研究所にあるバックエンド研究施設BECKY6)αγセル7)において、およそ1リットルの実際のHLWを遠隔操作で扱った試験を実施しました(図6)。MA分離プロセスの処理の過程では、沈殿などの分離を阻害するものは発生せず良好に分離操作が行われ、HLWからAmを99.9%以上取り出すことに成功しました。この成果により、開発したプロセスが十分な性能を有することが実証されました。各元素の分離割合を表1に示します。

図6 原子力科学研究所 BECKYのαγセルにおける遠隔操作での分離試験
遠隔操作で分離プロセスの試験を実施している状況

表1 SELECTプロセスによるMAの分離割合*

【今後への期待】

分離変換技術の研究開発で重要な課題であるMAの分離において、実用的な分離プロセスの性能が実証されたことにより、この分野の研究開発の一層の進展が期待できます。今後、さらにSELECTプロセスの開発を進め、Amや放射性毒性の高いFP核種も分離することによって、高レベル放射性廃液の地層処分の面積を減少させるなど、有害度低減・減容化を目指します。さらに、Amを含むMAを加速器による核変換システムで核変換する試験を実施し、分離変換技術全体の実用化を目指します

【用語解説】

1)半減期

半減期とは、放射性核種の数が壊変によってある時刻から半分になるまでの時間。

2)毒性(放射性毒性)

放射性廃棄物に含まれる放射能が、法令で定められている年摂取限度の何倍に当たるかを示す指標。放射性物質に起因する潜在的な毒性を示します。

3)マイナーアクチノイド(MA)

周期律において原子番号89のアクチニウムから103のローレンシウムまでの15の元素をアクチノイド元素と言います。原子番号90、91、92のトリウム、プロトアクチニウム、ウランは天然に存在し、93のネプツニウム以降は人工元素で、原子炉内で核燃料物質が中性子を吸収することによって生成します。したがって使用済燃料のなかには、原子番号94のプルトニウムとともに少量の他のアクチノイドが含まれています。この少量のアクチノイドをマイナーアクチノイドといいます。

4)地層処分

地下深部の地層が本来持っている「物質を閉じ込める力」を利用し、地下300メートル以上の深部の地層に高レベル放射性廃棄物を埋設し、人間の生活環境に影響を及ぼさないように長期にわたって安全・確実に隔離し閉じ込める方法。

5)核変換

放射性毒性が高く半減期が長い放射性核種を半減期が短い核種あるいは安定な核種に変換する技術。分離した後の対象核種に、高速炉や加速器を利用して高速中性子を当てることによって実現します。

6)バックエンド研究施設BECKY

核燃料サイクルや放射性廃棄物に関する安全研究及び基礎・基盤研究を実施する原子力機構の研究施設。平成6年から供用を開始している。バックエンド研究施設の英名Back-end Cycle Key Elements Research Facilityから命名。

7)αγセル

極めて高い放射能濃度を有する試料を取り扱う試験を行うため、放射線を遮へいするために通常よりも密度を高めたコンクリート(重コンクリート)で取り囲み、試料が漏洩しないよう気密構造として、遠隔操作で試料を取り扱えるようにした設備。

参考部門・拠点: 原子力基礎工学研究センター

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