平成30年6月15日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

溶かし切る、叩き割る!レーザー光により自在な切断が可能な制御装置を開発
~ スマデコ環境を利用した性能実証へ ~

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 (理事長 児玉 敏雄) 高速炉・新型炉研究開発部門 敦賀総合研究開発センター レーザー・革新技術共同研究所 レーザー応用研究グループの村松 壽晴 グループリーダーの研究チームは、切断性能(切れ味)の状況を反射光(レーザー照射によって発生する光)により時間とともに変化する状況を監視し、切断性能が低下する兆候を検出した場合には、レーザー出力や切断速度を調整するなど状況変化に合わせて、常に適切な切断性能の維持が可能な適応制御装置を世界に先駆けて開発し、平成30年1月5日に特許登録(第6265417号)がなされました。

この適応制御方式は、形状を認識するためのレーザースキャナ、切断性能を監視する光検出器などを外界センサーとして利用し、金属材料に対する溶断と、セラミックス材料に対する破砕の各動作を、ロボットシステムと連動して行うもので、これまでの研究により基礎基盤的な観点からの基本性能が確認されました。この技術は原理的に、コンクリート中に鉄筋を埋め込んだビル構造物などの解体作業にも適用することが可能です。

平成30年度からは、文部科学省 平成28年度補正「地域科学技術実証拠点整備事業」として採択された「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」設備を用い、実機適用性能を実証していく計画です。

【研究開発の背景と目的】

レーザー光を熱源として利用する構造物の切断では、様々な材質、厚みなどに的確に対応できるようにしておく必要があります。これを実現するためには、予め切断対象となる構造物の諸情報を用意しておく必要があります。しかしながら、福島第一原子力発電所の燃料デブリのように形状や材質などの情報が無い場合もあります。

本研究はこのような場合を想定し、切断性能の状況を時間とともに変化する状況を監視して、切断性能が低下する兆候を検出した場合には、レーザー出力や切断速度を調整するなど状況変化に合わせて、常に適切な切断性能を維持することが可能な制御装置の確立を行いました。

【研究成果】

燃料デブリなどの取出しを行おうとする場合には、不規則表面形状(凹凸)を持つ金属材料とセラミックス材料の混合物に対処する必要があります。このため、不規則表面形状をレーザースキャナ(レーザー光を用いたスキャニング機能)により認識し、これに基づいてレーザー加工ヘッドをx-y-z 3軸ロボットにより制御する装置を構築しました。更に、金属材料に対するレーザー連続照射による溶断と、セラミックス材料に対するレーザーパルス照射による破砕の各動作を、ロボット制御と連動させる機能も付加しました(図1参照)。

図1 レーザー溶断・破砕 適応制御装置の構成

図2はこれら機能の性能確認を行った際の写真で、不規則表面形状を持つ炭素鋼の上面にセラミックス材料(アルミナペレット)を接着した試験体に対し、レーザースキャナにより表面形状を認識した後、レーザー光の連続 / パルス照射をロボット動作と連動させて溶断 / 破砕を行ったものです。この結果から、不規則表面形状を持つ金属材料とセラミックス材料の混合物を的確に溶断 / 破砕でき、この制御装置は福島第一原子力発電所の燃料デブリ取出し作業に適用可能な工法の一つになり得ることを確認しました。

レーザー溶断時には、レーザー照射によって発生する光、反射光が発生します。レーザー光によって溶けた金属が良好に排出できている(切断良好)時には、反射光信号は低く安定していますが、排出が良好に行われなくなる(切断不良)と、反射光信号は急激に増加するとともに大きく振動するようになります。これは、排出できなかった溶けた金属が周囲に飛び散ることにより生じていると解釈できます。

図2 レーザー溶断・破砕 適応制御試験の一例

図3は、試験片の厚みが裏側で2mmから50mmまで徐々に増加する形状不定材料を対象とした溶断適応制御試験の写真で、試験片の厚み増加に従って変化する反射光特性に応じて、レーザー出力とアシストガス圧力の回復・緩和動作によって溶断性能が維持され、最大厚み50mmまでの溶断が適切に行われることを確認しています。

図3 レーザー溶断 適応制御試験の一例

【今後の展開】

これまでの研究により、レーザー溶断・破砕 適応制御装置の基礎基盤的観点からの基本性能が確認できたことから、今後は応用研究を主体としたフェーズに移行する予定です。平成30年度からは、文部科学省 平成28年度補正「地域科学技術実証拠点整備事業」として採択された「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」設備を用い、レーザー溶断・破砕 適応制御装置の実機適用性能を実証していく計画です。

【用語解説】

1)「地域科学技術実証拠点整備事業」

科学分野での技術革新を促すため、研究開発機能を持つ施設・設備の整備を後押しする文部科学省による公募事業。平成28年度は、計22拠点が採択された。

2)「ふくいスマートデコミッショニング技術実証拠点」

原子力発電所の廃止措置に係わる技術について地元企業の成長を支援し、産学官が一つ屋根の下で地域経済の発展と廃止措置に係わる課題の解決に貢献することを目指した拠点で、廃止措置解体技術検証フィールド、レーザー加工高度化フィールドおよび廃止措置モックアップ試験フィールドから構成される。

参考部門・拠点: 高速炉・新型炉研究開発部門 敦賀総合研究開発センター

戻る