平成30年3月29日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

高速炉の複数系統連携による安全システム設計方針を開発、GIF国際標準化へ
~次世代ナトリウム冷却炉の高い安全性の実現に向けて世界をリード~
※GIF:第4世代原子炉に関わる国際フォーラム(後述)

【発表のポイント】

GIF1)(第4世代原子炉に関わる国際フォーラム)1)は、日、米、仏、露、中など13か国と1機関から構成され、ナトリウム冷却高速炉の他、超高温ガス炉等6つの次世代原子炉を対象に、安全性、経済性、省資源性などの面から他のエネルギー源に対して優位性を持つべく研究開発を進めるための国際協力の枠組みです。 GIF1)は「安全原則」の中で、一定水準以上の安全目標の達成を提唱していますが、それぞれの原子炉とも国際標準となる安全要求2)が整備されていませんでした。

次世代ナトリウム冷却高速炉については、安全要件に相当する「安全設計クライテリア(SDC)」を原子力機構が構築し、GIF1)において2013年の承認を経て発行され、国際機関・各国規制機関及び高速炉開発機関合同のレビューを反映した改訂版の発行が本年6月ごろ予定されています。このSDCの内、複数の系統に関わる項目については、具体的な「安全アプローチ」の構築が必要であり、2016年にGIF1)の承認を経て発行されてからはIAEAや各国規制機関のレビューが進められてきました。この度2018年3月27-29日の“IAEA-GIF1)高速炉の安全性に関わる技術会合”でレビューが総括されました。これは国際標準となる安全要求2)の整備において重要なステップとなります。「安全アプローチ」においては原子力機構の提案が広く適用されています。

ナトリウム冷却高速炉における安全要求2)に関する設計体系は階層構造(図1参照)となっており、「安全アプローチ」は安全要件を示した「安全設計クライテリア」と系統ごとの留意事項をまとめた「系統別安全設計ガイドライン」の間に位置しています。この「安全アプローチ」は、安全要求2)の整備のプロセス(図2参照)において、「安全設計クライテリア」で示す安全対策の具体的要求を満たすためのもので、重要な安全機能を担う安全システム全般に関わる設計方針について、複数の系統を組み合わせて安全を担保するシステムに関してそれぞれの系統が連携する設計方針を示したものとなっています。また、従来の設計基準事故を超える状態でも安全を確保するための要求を含んでおり、特に、安全上重要な炉心反応度に関連した事故への対応と崩壊熱除去に関連した事故への対応については、具体的な対策が包括的にまとめてあります。

さらに原子力機構は現在、「安全アプローチ」をさらに発展させて系統レベルでの留意事項を具体化させる「系統別安全設計ガイドライン」を構築・提案しており、GIF1)におけるレビューを受けています。今後、「系統別安全設計ガイドライン」が承認されれば、国際標準となるナトリウム冷却高速炉の安全要求2)の全体系が整備されることとなります。

図1 安全システム全般に関わる設計方針(安全アプローチ)の位置付け

図2 安全要求2)の整備のプロセス

【研究開発の内容及び成果】

この研究開発は、次世代ナトリウム冷却高速炉(以降、高速炉)の国際的な安全要求2)を初めて構築したものです。世界的に開発が進む高速炉で高い安全性を確保するため、安全に関する国際標準確立へのニーズが近年高まっていました。この背景には、既存の軽水炉に対する標準はIAEAが整備を進めていますが、高速炉は標準となる型式が無く、そのため安全要求2)も高速炉を対象とした国際標準が存在しなかったことが背景となっています。東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、これまで日本の高速炉を開発してきた原子力機構には、高い水準の安全要求2)を世界に先駆けて構築する社会的責任・国際的使命があり、これが今回の研究開発を進めるモチベーションとなりました。

研究開発ではいくつかの課題に直面しました。軽水炉とは異なる特性や運転条件を持つ高速炉に対して、特にシビアアクシデントに対する安全性強化には、新技術を積極的に取り入れた新しい安全の考え方を考案し、原子炉が自然に止まる・冷える・事故が自然に収まるという安全アプローチを開発しました。国際社会に対しては、安全を確保する考え方とその体系、具体的なシステムで適用する方法、既存の技術に比べた長所について、1つ1つ時間をかけて議論を重ね、一般性を持った安全要求2)となることを納得してもらうプロセスが重要でありました。安全アプローチの開発においては、これまで原子力機構で開発してきた高速炉の安全関連の新技術(受動的炉停止機構、自然循環崩壊熱除去システム、シビアアクシデント対策)に対して個別の安全機能を抽出し、機能として整理するボトムアップ的なアプローチにより具体的な系統との対応を明確にしました。また、IAEA等での安全要求2)を参考にシビアアクシデントを未然に防ぐ・影響を緩和するための「炉心損傷防止」および「格納機能確保」を柱とした論理建てするというトップダウン的なアプローチも必須でした。これらトップダウンとボトムアップのアプローチを「深層防護と対応した受動的機構の活用」という形で一本化し、ガイドラインという形態にすることで一般性と普遍性をもって国際的理解を得ることができました。ガイドラインとして最終的にまとめるまでに、日本原子力学会やGIF1)の場で提案・議論し、レビューを受け、次第に認知されてゆく中で、技術的な妥当性が確認され、また客観性を持つ論理構成に至りました。最終的にGIF1)での公式文書化を達成しました。構築した安全アプローチは、全てのナトリウム冷却高速炉開発国(米仏露中韓印)が次世代ナトリウム冷却炉の設計に取りいれたり、関連する研究開発を開始するという形で影響を与えており、事実上の国際的なデファクトスタンダードに位置づけられるものとなっています。なお、本成果は経済産業省からの委託事業の成果も利用して得たものです。

【今後の期待】

原子炉に対してより高い安全性が国際的に求められる中で、次世代ナトリウム冷却高速炉の安全要求2)を構築し、国内及び国際的な場での提案とレビューを経て、国際的な枠組みであるGIF1)の下で公式文章として承認されました。次世代ナトリウム冷却高速炉の安全に関する国際的なデファクトスタンダードとなっており、今後は、IAEAにおける安全要求2)や高速炉の安全に関する国際協力の方向性を与えるものとなることが期待されます。

【掲載書誌情報】

中井良大、“The Safety Design Guideline Development for Generation-IV SFR Systems”, IAEA-CN245-015, Proc. International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles”, 26-29 June, Yekaterinburg, Russian (2017)

岡野 靖、“The Safety Design Criteria Development and Summary of Its Update for the Generation-IV SFR Systems”, IAEA-CN245-046, Proc. International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles”, 26-29 June, Yekaterinburg, Russian (2017)

久保重信、“第4世代ナトリウム冷却高速炉の安全設計ガイドラインの構築 安全アプローチ及び設計条件に関するガイドライン”、日本原子力学会誌ATOMO∑、p.43、2015.10.

Generation IV International Forum (GIF), “Safety Design Criteria for Generation IV Sodium-cooled Fast Reactor System”, https://www.gen-4.org/gif/jcms/c_93020/safety-design-criteria (2013)

Generation IV International Forum (GIF), “Safety Design Guidelines on Safety Approach and Design Conditions for Generation IV Sodium-cooled Fast Reactor Systems”, https://www.gen-4.org/gif/jcms/c_93020/safety-design-criteria (2016).

【用語解説】

1)GIF(第4世代原子力システムに関わる国際フォーラム)

GIF(第4世代原子力システムに関わる国際フォーラム)は、第1世代(初期の原型炉)、第2世代(商用発電炉)、第3世代(改良型軽水炉)に続く、新たな原子力システムである第4世代原子炉の研究開発を国際協力により効率的に進めるための枠組みです。原子力以外のエネルギー源と競合できる経済性及びより高度な安全性を実現すること、廃棄物の負担を最小化すること、より高度な核拡散抵抗性を備えることを目指し、現在13ヶ国(アルゼンチン、英国、カナダ、韓国、日本、ブラジル、フランス、米国、南アフリカ、スイス、中国、ロシア、オーストラリア)と1機関(欧州原子力共同体(ユーラトム))がGIF憲章に参加し、6つの原子力システム(ナトリウム冷却高速炉(SFR)、超高温ガス炉(VHTR)、ガス冷却高速炉(GFR)、鉛冷却高速炉(LFR)、溶融塩炉(MSR)、超臨界水冷却炉(SCWR))の研究開発に関する国際協力を進めています。

ここで、第4世代原子炉とは、「炉心損傷頻度の飛躍的低減」や「敷地外の緊急時対応の必要性排除」など安全性と信頼性の向上、エネルギー源としての持続可能性、高い経済性、核拡散抵抗性確保を目標とし、2030~2040年代の導入を目標とする次世代原子炉の概念です。

2)安全要求

安全要求は、安全を確保するために要求される事項を満足するために推奨される設計等の条件(対策・手順を含む)です。安全要求として推奨された事項は、設備や系統による対策、あるいはそれと同等の対策を講じる必要があります。国際原子力機関IAEAでは、IAEAの安全要求は法的な拘束力はないが、各国がその活動に応じてそれぞれの判断により国の規制に取り入れるべきもの、とされています。

参考部門・拠点: 次世代高速炉サイクル研究開発センター

戻る