【技術協力の背景】

高温ガス炉は、900℃を超える高温の熱を取り出せることから、水素製造等の発電以外の利用も可能な原子炉であり、高温ガス炉に関する研究開発が各国で積極的に進められています。

例えば、中国では、2006年に「国家重大特別プロジェクト」の1つとして高温ガス炉開発が選定され、蒸気タービン発電を目的としたペブルベッド型高温ガス炉7)の実証炉HTR-PM(熱出力250MW×2基、冷却材出口温度750℃)の建設が2018年の運転開始を目指し、進められています。この実証炉等においては、原子力機構の高温工学試験研究炉(HTTR)で使用している日本の東洋炭素(株)製の黒鉛が採用されており、我が国の国産高温ガス炉技術が使用されています。

原子力機構のHTTRと同型のブロック型高温ガス炉8)の開発は、ポーランド、英国の他、EU産業界や米国NGNP産業アライアンス9)において検討が進められています。ポーランドでは、産業界への熱供給を目的とした実用高温ガス炉(熱出力200~350MW)の開発計画があり、2030年代前半の運転開始を予定しています。また、これと並行して、NCBJへ研究用高温ガス炉(熱出力10MW)の導入計画があり、2020年代後半に運転開始の計画です。

また、英国では、URENCOが中心となり英国内に高温ガス炉アライアンスを形成し、モジュール型実用高温ガス炉(U-Battery)計画を策定しました。U-Batteryは、熱出力10 MW、原子炉出口温度750℃のブロック型高温ガス炉であり、2024年に実証プラントを稼働する計画です。

なお、NCBJとURENCOは、2016年に小型高温ガス炉についての協力協定を締結しており、U-BatteryはNCBJが導入を検討している研究用高温ガス炉の有力な候補と考えられています。将来NCBJがURENCOから10MWの研究用高温ガス炉を導入することになった場合にも、国産の高温ガス炉技術がURENCOとの協力を経由して研究用高温ガス炉に反映されることが期待できます。

EUでは、熱電併給の高温ガス炉コジェネレーションシステム開発を目指し、産業界のNC2I(Nuclear Cogeneration Industrial Initiative)が設置され、コジェネレーションにおける熱のマーケット調査、エンドユーザー調査、経済性評価、技術的課題抽出、安全性、許認可等についての研究活動を実施しています。さらに米国では、国と共にNGNP(Next Generation Nuclear Plant)計画を推進するNGNP産業アライアンスが、国際的な枠組み作りを目指し、ブロック型高温ガス炉の国際実証炉開発を進める計画(PRIME計画)を立ち上げようとしています。

国産の高温ガス炉技術は、原子炉出口温度950℃が達成可能で、水からの水素製造技術を含め世界をリードしています。

今回、ブロック型高温ガス炉開発を精力的に進めているポーランドと協力を開始し、また、英国の高温ガス炉計画とも協力を進めることで、国産の高温ガス炉技術の国際展開と国際標準化を図り、海外で国産の高温ガス炉技術の実証を目指すとともに、シミュレーションによる高温ガス炉材料の特性評価技術開発などを行い、国内で実施している高温ガス炉の研究開発に役立てていきます。

【技術協力の内容】

(1)ポーランド

原子力機構とNCBJは、以下の分野に関して、人材交流も含め協力を進めます。

① 燃料、材料の照射特性評価、材料シミュレーション手法の開発:
黒鉛、被覆粒子燃料等に関する共同照射試験、モンテカルロ法及び分子動力学法等による照射特性評価に関する協力

② ポーランドにおける熱利用のための高温ガス炉の設計:
HTTR及び水素製造設備の運転経験、並びに実用高温ガス炉の設計により得られた高温ガス炉熱利用システムの設計を活用した協力

③ 高温ガス炉のマーケット評価及び高温技術の一般産業分野への応用に関する検討:
NCBJによるポーランドや他のEU諸国等における高温ガス炉、高温技術の需要評価、原子力機構による高温ガス炉システム及び要素技術の提示等を通じた国際的な高温ガス炉技術の展開に向けた協力

(2)英国

原子力機構とURENCOは、以下の分野に関して、人材交流も含め協力を進めます。

① 小型高温ガス炉の早期実用化に向けた高温ガス炉技術:
核熱設計(伝熱・熱流動評価、臨界の最適評価、燃焼評価、動特性評価等)、安全設計(安全裕度、不確かさ評価等)、燃料・材料技術(材料特性評価、燃料製造技術、照射特性評価等)、冷却材中の不純物管理技術(許容不純物濃度、制御技術)等についての協力

② 建設リスク軽減及び経済性向上に関する検討:
HTTR及び水素製造設備の運転経験を活用した協力


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