用語説明

1)NCBJ

ポーランド国立原子力研究センター(Narodowe Centrum Badań Jądrowych(英語表記:National Centre for Nuclear Research):NCBJ)は、加速器科学、放射線医学物理学、材料研究、プラズマ物理学、核物理学、素粒子物理学、ニュートリノ物理学、宇宙放射線物理学等の研究を実施しています。1974年12月に臨界を達成した熱出力30MWの研究炉MARIAを運用し、燃料、材料の照射試験、放射性同位元素製造やシリコン半導体の製造、中性子ラジオグラフィ等の多種多様な照射試験を実施しています。

2)高温ガス炉

高温ガス炉は、①化学的に不活性なヘリウムガスを冷却材として用いており、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、②耐熱性に優れたセラミック被覆粒子燃料を用いており、1600℃の高温まで核分裂生成物(FP)の保持能力に優れていること、③出力密度が低く(軽水炉に比べ1桁程度低い)、炉心に熱容量の大きい黒鉛*等を大量に用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料の健全性が損なわれる温度に至らないこと、④黒鉛構造物の高い熱伝導、原子炉圧力容器内の冷却材ヘリウムガス及び原子炉圧力容器外の空気による自然対流、さらに外表面からの熱放射によって、炉心の崩壊熱を除去することが可能なこと、等の特徴を持つ安全性に優れた原子炉です。

このため、仮に冷却材流量を喪失し、さらに原子炉スクラムに失敗した場合でも、軽水炉とは異なり、固有の安全性を持つ高温ガス炉は、自然に止まり、冷やされます。

また、900℃を超える高温の熱を原子炉から取り出せることから、熱効率に優れると共に、水素製造等の発電以外の利用も可能な原子炉です。

*原子炉に用いる黒鉛は、高純度で耐食性に優れており、大気中でも発火して燃えることはありません。

3)URENCO

英国、オランダ及びドイツが三分の一ずつ出資する国際共同企業体として、1971年に設立された商業用ウラン濃縮会社です。英国とオランダは政府、ドイツは電力やガスを供給する大手民間企業が出資しています。英国、オランダ、ドイツ及び米国で遠心分離法による濃縮工場の操業を行っています。

4)日・ポーランド戦略的パートナーシップに関する行動計画(2017-2020)

正式名称は、「2017年から2020年までの日本国政府とポーランド共和国政府との間の戦略的パートナーシップの実施のための行動計画」で、2015年、安倍総理とコモロフスキ大統領との間で構築された両国関係の「戦略的パートナーシップ」を踏まえ、政治、経済、科学技術、文化等の幅広い分野において2017年から2020年までの間に実施すべき目標を定めたものです。その内容は、①政治・安全保障協力、②経済・科学・技術協力、③文化・人的交流の促進、④多国間協力、⑤日・ポーランド外交関係樹立100周年に向けた協力、から構成されています。このうち、②経済・科学・技術協力において、日本原子力開発機構(JAEA)とポーランド国家原子力研究センター(NCBJ)との間における高温ガス冷却炉技術の研究開発に向けた協力を奨励することが明記されています。

5)高温ガス炉産学官協議会

原子力機構をはじめ、文部科学省、経済産業省、民間企業、大学等の28の機関が参加し、 高温ガス炉の将来的な実用化像やそれに向けた課題、国際標準化等を見据えた議論を行い、今後の高温ガス炉に関する政策立案に資することを目的に、2015年4月に設置された協議会。これまでに計4回の会合が開催されました。

6)高温工学試験研究炉(HTTR)

HTTRは、我が国初の黒鉛減速、ヘリウムガス冷却のブロック型の高温ガス炉であり、熱出力30 MW、原子炉出口冷却材最高温度は950℃です。平成10年11月10日に初臨界、平成13年12月7日に熱出力30 MWにおいて原子炉出口冷却材温度850℃、平成16年4月19日に原子炉出口冷却材温度950℃、平成22年3月13日に50日間の高温(950℃)連続運転を達成しました。また、平成22年12月に、冷却材流量を喪失させ、さらに原子炉スクラムに失敗した場合でも、固有の安全性を持つ高温ガス炉が自然に止まり、冷やされることを実証する国際共同試験に成功しました(図1)。

HTTRは、現在、試験研究炉の新規制基準への適合性確認の審査を受けており、安全確保を最優先として、早期の運転再開を目指しています。

図1 高温工学試験研究炉(HTTR)を用いて、高温ガス炉の固有の安全性を実証

7)ペブルベッド型高温ガス炉

燃料核の表面を熱分解炭素及び炭化ケイ素(SiC)の被膜で覆った直径約1mmの燃料粒子を黒鉛粉末と混合して直径6cm程度の球状に圧縮成型し焼結することで製作した燃料球をペブルベッド型燃料といい、このような燃料を用いた高温ガス炉をペブルベッド型高温ガス炉といいます。ペブルベッド型高温ガス炉では、炉心上部から燃料球を連続的に供給でき、原子炉を停止することなく炉心下部から燃料球を取出すことができます(図2)。一方、各々の燃料球について、炉心内での正確な温度管理、燃焼度管理が困難であり、また、燃料球の接触により生成する黒鉛粉末が不純物として冷却材中に混入する等の課題があります。

図2 ペブルベッド型高温ガス炉の炉内構造
(炉心内部の黒鉛構造物に囲まれたすり鉢状の空間に燃料球が装荷される。)

8)ブロック型高温ガス炉

直径約1mmの被覆粒子燃料を黒鉛粉末と混合・焼結することで燃料コンパクトを製作し、燃料コンパクトを黒鉛スリーブに入れた燃料棒を黒鉛ブロック内に挿入して燃料体を構成します(図3、図4)。または、燃料コンパクトを黒鉛ブロック内に直接挿入することで燃料体を構成します。これらのようなブロック型の燃料を用いた高温ガス炉をブロック型高温ガス炉といいます。

図3 ブロック型高温ガス炉の燃料要素(HTTRの場合)

図4 ブロック型高温ガス炉の炉内構造(HTTRの場合)

9)NGNP産業アライアンス

米国のNGNP(Next Generation Nuclear Plant)計画は、2005年エネルギー政策法(Energy Policy Act of 2005)に基づき、電力と水素を併産する次世代原子力プラント(NGNP)を開発するプロジェクトです。国と産業界とがコストを負担する計画であり、産業界は、原子力メーカー、材料メーカー、エネルギー産業関連企業等から成るNGNP産業アライアンスを形成し、顧客要件提示、北米での潜在的市場評価、NGNP計画推進の要望等を進めてきました。

さらに、NGNP産業アライアンスは、EUのNC2Iや韓国の原子力水素アライアンスと協力協定を締結し、国際的な協力も進めています。特に、EUのNC2Iが進める高温ガス炉コジェネレーション計画に連携して実証に向けた活動を行うと共に、高温ガス炉の国際的な実証炉建設に向けた計画(PRIME)の主導的な役割を担っています。

補足説明

【ポーランドにおける高温ガス炉開発の現状】

ポーランド開発省は「責任のある開発のための戦略*」を公表(2016年7月30日)し、その中で、将来2基の軽水炉プラントを設置することに加え、エネルギーだけではなく産業界への熱供給も可能な実用高温ガス炉(200-350MW)の開発を開始することを公表しました。高温ガス炉の開発は、エネルギー源の多様化と温室効果ガスの排出削減を目的としており、石油精製、プラスチック製品、化学肥料などのための化学プラント(消費熱量300~2000MW/サイト規模)への熱供給のために使用している石炭火力プラント(ボイラー出力100~200MW/基規模)との置き換えの需要を想定し、運転開始は2030年代を計画しています。また、NCBJに熱出力10 MWの研究用高温ガス炉を2025年頃までに建設する予定としており、この炉の設計、許認可の経験が実用高温ガス炉の設計、許認可に活用されます。

2014-2020年のEU中期予算で、ポーランドは約825億ユーロの配賦を受けており(農業・漁業補償を除く)**、この予算の中から高温ガス炉開発の予算が配賦される見込みです。

EUにおいて、2007年に低炭素化社会のため、熱電併給の高温ガス炉コジェネレーションシステム開発を目指し、産業界のNC2Iが設置され、NCBJがNC2Iの座長を務めています。また、NC2Iは、米国のNGNP産業アライアンスと協力し、高温ガス炉コジェネレーションの建設・実証のため、共同事業を進めています。さらに、NGNP産業アライアンスが進めるブロック型高温ガス炉の国際実証炉計画(PRIME)にも、NCBJは参画する予定です。

*政府の経済戦略が記載

**JETRO 世界のビジネスニュース(通商弘報)(2014年2月10日)

【英国の小型高温ガス炉(U-Battery)計画】

URENCOが中心となり英国内に高温ガス炉アライアンスを形成し、モジュール型実用高温ガス炉(U-Battery)計画を策定しました。U-Batteryは、熱出力10 MW、電気出力最大4 MW、原子炉出口温度750℃のブロック型高温ガス炉であり、2024年に実証プラントの稼働、2027年までに商用化に向けた運転経験の蓄積等を目指しています。U-Batteryは、工業用発電や送電網が整備されていない地域(例えばカナダの地域など)での利用を主な目的としており、海水淡水化等への熱利用も想定しています。このような用途でのU-Batteryの需要を見積もると、2035年においては240基程度(そのうち40基程度は英国内)に相当すると評価しています。2016年から2027年までの開発期間を4つのフェーズに分け、基礎設計、コスト評価、安全評価及び許認可取得を実施するフェーズ1では、16百万ポンドの資金を必要としており、英国政府等からの資金を見込んでいます。

(1ポンド=約146円(2017年5月))


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