平成28年9月29日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

公衆の宇宙線被ばく線量を世界で初めて国や地域ごとに評価
~世界平均値は国連科学委員会の評価値より16%低いことが判明~

【発表のポイント】

人類は,絶えず自然界から放射線を受けており,原子放射線の影響に関する国連科学委員会1)(UNSCEAR)が2008年に発表したレポートでは,全世界で自然放射線2)源による公衆の被ばく線量(実効線量3))の約16%は宇宙線による寄与と評価されています。しかし,宇宙線による被ばく線量は,高度・緯度・経度により複雑に変化するため4),UNSCEARは,国や地域ごとの詳細な評価は実施せず,限られた実測値から単純な仮定に基づいてその世界平均値のみを概算していました。このような背景から,より精緻かつ高精度な手法に基づく宇宙線被ばく線量の評価が望まれていました。

そこで,国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」)原子力基礎工学研究センター・放射線挙動解析研究グループの佐藤達彦研究主幹は,独自に開発した宇宙線強度計算モデルと全世界の標高データベースを組み合わせ,地表面での宇宙線による被ばく線量率マップ(下図)を作成しました。そして,そのマップと人口データベースを重ね合わせ,公衆の宇宙線被ばく線量の人口平均値や分散を世界230ヶ国に対して評価しました。その結果,日本における人口平均値は年間0.27mSvで,世界全体の153番目であることが分かりました。また,人口平均値が最も高い国は高地に人口が集中するボリビアで,その値は最も低いシンガポールの約3.5倍となる年間0.81mSvであることが分かりました。さらに,全世界の人口平均値はUNSCEARの評価値より約16%低い年間0.32mSvであることが判明しました。

本成果は,放射線被ばく線量評価における新たな国際標準を提唱する基礎データであるとともに、福島第一原子力発電所の事故以降,関心が高まっている国民の放射線被ばくに対する理解にも役立ちます。なお,本研究の詳細は,Scientific Reports誌に9月21日付けで公開されました。

図3

本研究で作成した地表面での宇宙線による被ばく線量率マップ
(標高の高い土地や極域で高くなります)

参考部門・拠点: 原子力基礎工学研究センター

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