用語解説:

(注1)結晶

原子が3次元的に周期性を持って配列したものを結晶と呼びますが、英語で結晶を意味する” crystal “の語源は古フランス語で氷を意味する”cristel”に由来します。歴史的にも、氷は結晶の代表的存在だったようです。

(注2)氷の多形

グラファイトとダイヤモンドのように、化学組成を共通にしながら、異なる結晶構造を持つものを「多形」と呼びますが、氷ほどその多形の数が多いものはありません(図1)。当初は発見された順にローマ数字で番号付けされていきましたが、近代になって、理論計算も含めた複数の研究グループが異なる結晶構造に対して、ほぼ同時に同じ番号をつけ混乱を生じさせた経験から、現在では、実験的によく調べられた相にのみ新たなローマ数字を割り当てる、というルールが設けられました。

(注3)強誘電体、反強誘電体

物質を電気の流れ易さで分類すると、金属のような導電体、石やガラスのような絶縁体、およびその中間的な性質を持つ半導体に分けることができます。絶縁体は電気を通さない代わりに、電気を蓄えることができるという性質(誘電性)を持つため、誘電体と呼びます。誘電性は、外部電場によって物質中の電荷が分極することによって生じます。このとき、外部電場の方向を反転させることで分極が反転する物質を強誘電体と呼びます。強誘電体の物質を原子レベルで見ると、正負の電荷が作る電気双極子の向きがある方向に揃っています。一方、反強誘電体とは、結晶中のあるネットワークのみを見ると強誘電体のように電気双極子の向きが揃っているものの、別のネットワークの電気双極子が逆を向いているため、マクロな分極は消滅している物質のことをいいます。

(注4)氷の五大未解決問題

身近な氷にも未だ解明されていない問題が数多く残されています。2011年、英国ダラム大学(当時)のChristoph G. Salzmann博士が、当時残されていた氷の未解決問題を5つの観点から分類しましたが、その中に本研究の対象である氷XV相の問題があります。他に、酸や塩基をドープすることによる氷の秩序化に関する問題や、超高圧や負圧といった極端条件下での氷の状態などが五大未解決問題として挙げられています。

(注5) 中性子回折法

中性子をプローブに用いた構造解析法。中性子は原子核と相互作用するため、主に電子と相互作用するX線回折とは異なる情報が得られます。例えば、X線回折の場合、電子数の多い、すなわち原子番号の大きい元素からの散乱強度が強くなるため、軽元素からの散乱強度は相対的に弱くなります。特に共有結合の形成によって電子密度が低下した水素からのX線の散乱は極めて弱いため、物質中の水素原子の位置をX線回折から正確に決定することは困難です。しかし、中性子回折では水素からの散乱が重原子と同等の散乱強度を持つため、水素を含む物質の構造決定によく用いられています。また、同じ原子番号でも同位体や磁気構造によって散乱強度が異なることも中性子回折の特徴です。

(注6) 1 GPa

1 GPa (ギガパスカル)は気圧に直すと約1万気圧となり、地球内部だと地下30 km程度に相当する圧力です。水も室温で凍ってしまうほど非日常的な世界と言えます。しかし、圧力は力/面積ですから、1 GPaは約100 kg重の荷重が1 mm2の面積に働いたときの圧力と考えることもできます。硬く鋭利なものがつぶされる瞬間など、局所的・瞬間的には1 GPa程度の圧力は実は日常的に発生しているのです。

(注7) 氷の規則(アイスルール)

氷中の水素は、氷の規則(アイスルール)と呼ばれる以下の2つのルールを満たすことが知られています。

・一つの酸素原子には二つの水素原子が配位する。

・一つの水素結合上には一つの水素原子のみが存在する。

このアイスルールはかなり厳密に成り立っていることが知られていますが、一方で、アイスルールを破る欠陥が電気伝導性や力学的特性に大きく影響することも分かっており、氷の構造・物性を支配する重要な規則と言えます。

(注8)リートベルト法

粉末X線・中性子回折パターンから構造情報を得る解析手法の一つ。結晶構造を表現する原子座標や格子パラメータを仮定し、試料や装置の状態に起因するピーク形状などを適当な関数で表現すると、粉末回折パターンを計算することができます。これと実測された回折パターンとの残差を小さくするように、各パラメータを精密化していく作業を、その手法の開発者であるオランダの結晶学者Hugo M. Rietveldの名をとってリートベルト法と呼ばれています。

(注9)密度汎関数法

物質の電子状態やエネルギーといった物理量を電子密度から計算する方法。


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