【研究開発の背景と目的】

平成23年3月11日に発生した東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「福島第一原子力発電所」という。)でのシビアアクシデント(原子炉の炉心燃料が溶融する事故)では、格納容器の破損等により水素ガスや放射性物質の閉じ込め機能が失われました。本事故の反省から、原子力規制委員会は規制基準を見直し、シビアアクシデント対策が大幅に強化されることになりました。原子力機構安全研究センターでは新しい安全規制を技術的に支援するため、実験による現象解明と解析手法の整備を両輪とする研究計画ROSA-SAを平成25年に開始しました。ROSA-SA計画では、軽水炉シビアアクシデント時の格納容器内熱水力現象の解明を目的とし、主として次の3つのテーマについて研究します。

【研究の手法】

本計画の中心となる実験装置CIGMAは、平成25年より、原子力規制委員会からの「原子力発電施設等安全調査研究委託費(原子力発電施設等安全調査)」受託事業4)の一部として、製作を進めてきました。CIGMAは、事故時の高温高圧の蒸気や水素の挙動、並びに、種々の事故拡大防止策を模擬できるように設計されています。また、試験容器には気体の挙動や事故拡大防止策の有効性を把握するための各種計測器が高密度で配置されています。これら高温実験条件や計測点密度に関して本装置は、世界一の性能を有しています。この装置を用いて、当面、炉心損傷時の水素爆発や格納容器の過温破損の原因となる水素ガスや高温ガスの挙動、並びに、事故拡大防止策の有効性評価に関する実験を行います。実験結果を用いてシビアアクシデント時の熱水力現象のメカニズムの解明や効果的な事故拡大防止策の有効性を検討するともに、数値流体力学手法(CFD) 5)等を用いた解析手法の整備を行います。

【CIGMAの概要】

既存の類似装置と比較して以下の特徴が挙げられます。

【CIGMA実験の例】

図3

図3 CIGMA装置を用いた実験例:
内部が高圧状態にある格納容器の冷却水による冷却・減圧を実験的に検証します。
図中の蒸気注入は、原子炉容器の破損口から格納容器への蒸気流入を模擬するものです。

【CIGMA計測機器】

  1. (1) ガス濃度計測
     試験容器内に約100本のキャピラリチューブを挿入し、チューブ先端から微量のガスを吸引して質量分析器(図4参照)に送り、混合ガスの組成を分析します。複数のキャピラリチューブは切り替えバルブに接続され、計測チャンネルを順次切り替えることでガス濃度の空間分布を知ることができます。キャピラリチューブ内では吸引ガスに含まれる水蒸気が凝縮しないように高温加熱する工夫をしています。
  2. (2) 流速分布計測
     試験容器内の流速分布は粒子画像流速計測法(PIV)6)で計測します。PIVでは試験容器に設置した可視窓からシート状のレーザー光を照射し、シート内を通過する微粒子の軌跡を追うことで空間的な流速分布や乱流強度(流速変動の大きさ)等を求めます(図5参照)。
図4

図4:切り替えバルブ付質量分析器

図5

図5:粒子画像計測法

【CFD解析】

図6

図6:鉛直ジェットによる
水素ガス分布の変化

色は気体密度を示しており、赤は軽く青は重い気体に対応している。

近年の計算技術の急速な進展に伴い、数値流体力学(Computational Fluid Dynamics;以下CFDという。)を用いた、流れに伴う熱や物質移行挙動の詳細把握は、実験研究とともに重要な役割を担っています。特に、原子炉格納容器は大空間かつ複雑な形状を有しているため、シビアアクシデント時には3次元的で複雑な流れを形成します。ROSA-SA計画では、実験で得られた知見を活用したCFD解析手法の整備とともに、実験では計測できない詳細な物理量を取得し、重要現象のメカニズムの把握に役立てます。

CFD解析の例として、図6に、原子炉破損口から流出した高温ガス噴流が、上部に蓄積した密度の軽い気体の成層に衝突する様子を示します。この現象は水素爆発の発生条件に強く影響するため極めて重要であり、これまでも浮力による乱流の減衰効果に着目し、近年欧州で行われた実験結果等を活用して解析モデルの改良を行なってきました。今後は、CIGMAを用いた様々な条件での実験から得られる知見を活用し、解析モデルの妥当性確認と更なる精度向上を進めます。

【今後の予定】

今後実施する実験では、広範囲の事故時挙動を模擬するため、温度や圧力、ガス成分、原子炉破損条件、格納容器冷却条件等や事故拡大防止策を変えた実験を数年にわたり、年間20回程度の頻度で行い、複雑な事故条件における熱水力挙動の現象メカニズムの解明を目指します。


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