国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

平成27年5月7日
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構

放射線がん治療の副作用低減に新たな道筋
-放射線が当たっていない細胞で起こる「バイスタンダー効果」の特徴を見出すことに成功-

【発表のポイント】

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 児玉敏雄、以下「原子力機構」)は、放射線(1)が当たっていない細胞で起こる「バイスタンダー効果」(2)が、ガンマ線や重粒子線などの放射線の種類によらず、細胞内で合成された活性な窒素化合物である一酸化窒素が引き金となって、かつその合成量に応じて起こることを世界で初めて明らかにしました。得られた成果は、今後、ガンマ線、エックス線(3)重粒子線(4)を用いた放射線がん治療の副作用低減につながると期待できます。

バイスタンダー効果とは、放射線が当たった細胞で生じる何らかの作用により、放射線が当たっていない周囲の細胞があたかも放射線に当たったかのような反応を示す現象です。しかし、そのメカニズムはよく分かっておらず、これまでは放射線の種類による違いも不明でした。そこで、原子力機構 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター マイクロビーム細胞照射研究グループの横田裕一郎研究副主幹らは、培養したヒト細胞集団の一部にガンマ線、あるいは重粒子線の一種である炭素イオンビーム(4)をそれぞれ当てた後、当たっていない周囲の細胞の増殖能力を詳細に調べました。その結果、放射線が当たっていない細胞の増殖能力は、ガンマ線でも炭素イオンビームでも同じように低下することが分かりました。さらに、一酸化窒素を意図的に消去させた実験から、バイスタンダー効果には放射線の種類によらず一酸化窒素が関与すること、またその合成量が増えるほど細胞の増殖能力が低下する(バイスタンダー効果が強く現れる)ことを世界で初めて発見しました。

近年、体内深部のがん患部に集中して放射線のエネルギーを与えて治療できる重粒子線がん治療に期待が集まっていますが、その重粒子線でも、皮膚からがん患部までの間に存在する正常組織の被ばくは避けられません。この正常組織の被ばくにおいて、放射線が当たった細胞から当たっていない細胞へのバイスタンダー効果が影響する可能性がありますが、本成果によりそのメカニズムの一端が明らかになりました。今後、ヒトの正常組織で一酸化窒素の消去あるいは生成の抑制・制御に有効な薬剤が開発されれば、放射線がん治療の副作用低減に、さらには治療効果の増強にも役立つことが期待できます。

なお、本研究成果は、放射線科学分野のトップジャーナルの一つである英国のInternational Journal of Radiation Biology誌の電子版に5月11日に掲載される予定です。

参考部門・拠点: 量子ビーム応用研究センター

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