【用語説明】

図9

1) イーター(国際熱核融合実験炉:ITER)

制御された核融合プラズマの維持と長時間燃焼によって、核融合の科学的及び技術的実現性を実証することを目指したトカマク型(超高温プラズマの磁場閉じ込め方式の一つ)の核融合実験炉です。イーター計画は、1985年にジュネーヴで行われたレーガン大統領とゴルバチョフ書記長の米ソ首脳会談での合意に始まります。そして1988年に日本・欧州・ロシア・米国が共同設計を開始し、2005年に南フランスのサン・ポール・レ・デュランスに建設することが決定しました。2007年に国際機関「イーター国際核融合エネルギー機構(イーター機構)」が発足し、日本、欧州連合、米国、ロシア、中国、韓国、インド、の7極が参加しています。現在、イーターが格納される建屋の建設が進められており、また、各極が調達する、イーターを構成する様々な機器の調達取決めが締結されて、各極で機器の製作が進められています。2020年頃からのプラズマ実験の開始を目指しています。イーターでは、重水素と三重水素を燃料とする本格的な核融合による燃焼が行われ、核融合出力500MW、エネルギー増倍率10を目標としています。
 イーター計画に関するホームページ http://www.naka.jaea.go.jp/ITER/ (日本語)
 イーター機構のホームページ http://www.iter.org/default.aspx (英語)

図10

2) トロイダル磁場コイル

イーターの主要機器の1つであり、プラズマの閉じ込め磁場を形成する超伝導電磁石です。高さは約14m、幅は約9mあり、最大で11.8T(テスラ)の磁場を発生することができます。トロイダル磁場コイルに用いる超伝導導体は全部で133本であり、国際合意されたイーターの調達分担に基づき、日本が33本の超伝導導体を製作します。この超伝導導体を用い、日本と欧州がトロイダル磁場コイルを製作します。日本、中国、韓国が製作した超伝導導体は日本が、欧州、米国、ロシア、中国が製作した超伝導導体は欧州が用います。製作したトロイダル磁場コイルはフランスに順次輸送し、イーターに組み込まれます。

図11

3) 超伝導導体

超伝導とは、特定の物質(超伝導物質)を極低温に冷却すると電気抵抗がゼロとなる現象のことです。この現象を利用して、超伝導物質に大電流を流し、超伝導導体として用いることで、非常に強力な電磁石が実用化されています。トロイダル磁場コイルに用いる超伝導導体は0.82mmの超伝導素線900本と銅線522本を撚り合わせてケーブル化し、金属管(ステンレス製)に挿入したものです。超伝導物質としてNb3Sn(ニオブ3スズ)を用いており、-255℃以下の温度に冷却すると超伝導になります。

4) 臨界電流

超伝導の特徴である電気抵抗ゼロの状態を保って流せる電流には限界があり、超伝導状態で流せる最高の電流を臨界電流といいます。

臨界電流は高い方が、ヒステリシス損失5)は低い方が望ましいのですが、一般に、臨界電流を高くするとヒステリシス損失も高くなります。トロイダル磁場コイル用の超伝導素線は断面構成(図2(1))を工夫することで、高い臨界電流と低いヒステリシス損失を両立することに成功しました。

5) ヒステリシス損失

ヒステリシス損失は交流電流を流した際に発生する発熱量です。超伝導は、直流電流では電気抵抗がゼロで発熱はありませんが、交流電流では発熱して温度が上昇し、超伝導状態を維持できないこともあるため、適切に低く抑える必要があります。

6) TMC, DPC, EDA

イーターの実現に向けた超伝導コイル研究開発におけるコイルと活動の名称。TMC=Test Module Coilはニオブ3スズ超伝導導体の大型コイルへの適応性実証を目的とした試験コイルで、1977〜1985年に活動を実施。DPC=Demo Poloidal Coilはニオブ3スズ超伝導導体の核融合で要求される運転条件への適応性実証を目的とした試験コイルで、1985〜1992年に活動を実施。EDA=Engineering Design Activityはイーターの工学設計活動で、ニオブ3スズ超伝導導体の核融合実験炉イーターへの適応性実証を目的とした実規模コイルの試験を1992〜2001年に実施。

7) 残留抵抗比

室温での銅の電気抵抗と超伝導導体の運転温度-269℃での銅の電気抵抗の比で、銅の純度の高さを表す指標。超伝導素線の体積の半分は銅で構成されており、超伝導素線の電気的及び熱的な安定性を高める重要な役割を持つため、電気抵抗が低い(純度が高い)銅が求められます。イーターでは100以上の残留抵抗比が必要です。


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