【研究開発の背景と目的】

国際熱核融合実験炉イーター(ITER)のトロイダル磁場コイルは、イーターの主要機器の1つで、強力な磁場によって数億℃のプラズマを閉じ込める超伝導を用いた電磁石です(図1)。強力な磁場を発生するため、要求される世界最大級の電流(6万8千アンペア)を高磁場中(11.8テスラ)で流せる高性能な超伝導の導体の開発と量産が必要でした。トロイダル磁場コイルには全部で133本の導体を用いますが、この製作を日欧米露中韓で分担し、日本は参加国で最も多い33本(25%)を担当しました。

【導体の製作方法と技術的課題】

導体は、直径0.82mmのニオブ3スズを用いた超伝導素線(素線)900本と銅線522本を撚り合わせて、前例のない長さ760m(最長)の長尺のケーブル状にし、そのケーブルにジャケットと呼ばれる金属管を引き込み製作します(図2)。この導体は、主に以下の研究課題を克服して開発しました。

図1
図2

課題①

高い臨界電流と低いヒステリシス損失を両立する素線の開発
図3
図3

導体に6万8千アンペアの大電流を流すためには、素線の臨界電流を従来よりも約30%高める必要がありました(図3)。しかし、臨界電流を高くすると、発熱(ヒステリシス損失5))が大きくなる課題がありました。原子力機構は株式会社SHカッパープロダクツ及びジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社と協力し、素線内のニオブフィラメントの数と配置について、高い臨界電流と少ない発熱を両立できるよう最適化した素線を開発しました(図4)。これにより、これまでにない規模の高性能素線(総長23,000km、平均臨界電流233アンペア)(図2 (1)超伝導素線)の量産を完了しました。

高い臨界電流値と低いヒステリシス損失を両立した素線の技術開発は、超伝導を用いた電力貯蔵装置や加速器の大型化、変圧器の高性能化への適応が期待できる成果です。

図4

課題②

量産での品質異常の早期発見を可能とする品質管理手法の構築
図5

導体製作は長期に渡る作業となるため、性能を量産で安定して確保することが重要です。そこで原子力機構は、素線の超伝導性能やケーブルの形状などの検査結果をデーターベース化して統計的に管理し、製作プロセスや品質における異常の早期発見を可能とする品質管理手法を構築しました。実例として、図5に素線の製造単位(ビレット番号)ごとの残留抵抗比7)の検査データを時系列で示します。ある時から残留抵抗比が統計的に有意に変化していることが分かりました。そこで、残留抵抗比に影響のある製造プロセスの洗い出しを行なったところ、原材料の銅の鋳造工程での空気中の温度と湿度管理に問題があり、銅に微量の不純物元素が混入することが分かり、製作雰囲気の改善により早期に回復させることができました。

課題③

素線と銅線を高密度に撚り合わせるケーブル化技術の開発

素線900本と銅線522本を高密度で撚り合わせる際、ケーブルにうねりを加えずにケーブル化する必要があります。日立金属株式会社と協力し、図6に示すドラム巻きされた6本のサブケーブルに働く引張力を10%以下の範囲で作業中常に均一制御することにより、撚線内部の張力の不均一により発生するスパイラル状のケーブルのうねりを抑制できることを見つけ、ケーブル化技術を確立しました。これにより、長さ760mのケーブル24本、長さ415mのケーブル9本の製作を完了しました(図2 (2)ケーブル化)。

ケーブルを金属管(最長760m)に引き込んだ後に圧縮成型して一体化する工程(図2 (4)導体化)を、新日鉄住金エンジニアリング株式会社と協力して実施しました。これはイーター用導体特有の工程と技術が必要なため、北九州市に専用工場を新規に建設しました(図7)。摩擦によりケーブルの引き込み力が大きくなるとケーブルに損傷を与えたり、詰まって引き込みが不可能となるため、引き込み力を極力小さくする必要があります。長尺のケーブルでは、引き込み力はケーブルのうねりにより決まることを見い出し(図8)、うねりを抑制することにより引き込み力を小さくすることができました。

世界に先駆け製作を進めるなか、この様な長尺化に伴う技術課題と解決を国際的に共有し、イータープロジェクトの前進に貢献しました。

図6 width=
図7 width=
図8 width=

【得られた成果】

このように、長さ760mの導体を24本、415mの導体を9本、総延長22km (215トン)に達する導体を製作することができました(図2 (4)導体化)。トロイダル磁場コイルで要求される超伝導性能を有することを確認するために、スイスにある試験装置を用い性能評価を行い、製作した導体が必要な性能を持つことを昨年12月までにイーター機構が承認し国際的に確認されました。

原子力機構は2007年から世界に先駆けて導体の製作を開始しました。前例のない高性能な超伝導導体を開発し量産技術を確立し、製作を進める中、長尺化に伴う新たな技術課題を解決し、国際合意したスケジュールに基づき導体の製作を予定通り完了しました。

【今後の予定】

製作した導体はトロイダル磁場コイルの製作を行っている神戸市と横浜市の工場へ輸送し、トロイダル磁場コイルの製作に用いています(図1)。トロイダル磁場コイルの製作は2017年まで続き、その後、フランスのイーター建設地(南フランスのサン・ポール・レ・デュランス)まで輸送され、イーターに組み込まれます(用語説明1)図参照)。


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