【背景と経緯】

包括的核実験禁止条約(CTBT)1)は、宇宙空間、大気圏内、水中、地下を含むあらゆる場所での核兵器の実験的爆発及びその他の核爆発を禁止し、加盟国がその順守を検証する体制の確立等を規定したもので、1996年9月に国連総会で採択されました。2014年12月現在、183ヶ国が署名、163ヶ国が批准していますが、CTBTが発効するためには原子炉を有するなど、潜在的な核開発能力を有すると見られる特定の44か国(発効要件国2))全ての批准が必要となります。現在のところ、この44カ国中36カ国しか批准していないため、未発効となっていますが、条約に定められた国際監視制度3) の80%以上の監視施設が既に運用中で、実質的な国際監視体制が確立されつつあります。

希ガス監視に関しては、その技術的困難さから他の監視技術より遅れて開発整備が始められ、高崎観測所においては2007年から試験的に観測を開始し、その運用経験を通じて希ガス観測装置4)等の改良/更新を行いつつ、バックグラウンドデータの取得を行ってきました。近年の運用実績は世界の希ガス観測所の中でもトップクラスであり、CTBT機関準備委員会5)を始めとする世界中の放射性希ガス監視コミュニティへ高品質な観測データの提供を行っており、信頼性の高い国際検証体制の確立に貢献しています。

高崎観測所の認証は世界で22番目であり、アジアでは2013年6月のウランバートル観測所(モンゴル)に次いで2番目の認証となりました。高崎観測所の重要性から本来であればもっと早く認証される予定でしたが、2011年の福島第一原発事故の影響や継続的な北朝鮮の地下核実験監視の必要性から来る装置更新に伴う観測停止の制限等の理由により認証作業が延期となったという経緯があります。なお、我国の監視観測施設の認証は高崎の希ガス観測所以外は地震や微気圧振動観測所も含めて全て認証済であったことから、今回の認証により国内監視体制6)は確立したことになります。

【第3回北朝鮮核実験(2013年)】

2013年2月12日に北朝鮮が実施したと発表した核実験(DPRK-3)に関し、約2ヶ月後の4月上旬に高崎観測所において通常の濃度変動範囲を超える放射性キセノン同位体(133Xe、131mXe)が同時に検出されました。このような検出は2008年の観測以来ほとんどなく、原子力機構では、国内データセンター(NDC)7)においてこのデータを詳細に解析し、その同位体比から核分裂の発生日を推定するとともに、大気輸送モデルを用いたシミュレーションによる放出源推定解析結果などから、この事象が2月の核実験に由来し、核実験により生成され地下に閉じ込められていた放射性キセノンが4月上旬に放出されたものと推定されるとの総合的技術的評価に至りました。

【放射性核種監視ネットワークの設計基準】

CTBT放射性核種監視ネットワークの設計では、「1kt相当の核爆発をほぼ14日以内に90%以上の確率で探知する」という基準に基づき、核実験後10日前後で最も放射能の大きい核種となる粒子状のバリウム-140(140Ba)及び希ガスのキセノン-133(133Xe)を放出核種(放出量はそれぞれ2×1015, 1×1015Bq)として、大気中、水中、地下での核爆発における全地球規模での大気輸送計算(シミュレーション)が行われました。この結果に基づき、観測所の数、場所、更には観測方法とその感度等の技術要件が詳細に定められています。

図1

【希ガス観測所】

下図はCTBT希ガス観測所の分布を世界地図上に示したものです。2014年末で希ガス観測所は全40カ所中31カ所が既に設置を完了しており、そのうち高崎観測所も含め22カ所が認証済です。また、現在計画中の観測所がまだ9カ所ほど残っており、このうちの1カ所はインドに設置の予定ですが、未署名国のため実際の設置場所等に関しては未定です。

図2

CTBT希ガス観測所の分布(全40ヶ所)
2014.12末現在
http://www.ctbto.org/verification-regime/station-profiles/の情報を参考に作成。


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