【用語説明】

1) 共鳴非弾性X線散乱法

図2

物質に照射したX線が試料によって散乱される際に、試料との間にエネルギーの授受があるものがX線非弾性散乱法です。特に、X線のエネルギーを内殻軌道と空軌道の間のエネルギー差に合わせたものを共鳴非弾性X線散乱法と呼びます。

共鳴非弾性X線散乱法では、まず、SPring-8などの放射光光源から出てきたX線を試料に入射し、そのエネルギーを使って内殻軌道から空軌道に電子を移動させます。直後に、占有軌道から内殻軌道に電子が戻りますが、戻る際の余分なエネルギーが散乱X線として放出され、それを検出します。入射X線と散乱X線の強度とエネルギー差から、それぞれ、占有軌道と空軌道の数と軌道のエネルギー差を知ることができ、占有軌道と空軌道の両方の情報が得られるのが共鳴非弾性X線散乱法の特徴です。また、内殻軌道の選択によって、特定の元素に関する情報のみを抽出して測定できるという特徴も有しています。

2) 自動車排ガス浄化のためのインテリジェント触媒

図3

自動車のエンジンから出てくるガスの中には一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等の有害物質が含まれており、これらを浄化するために貴金属を含んだ触媒が用いられます。一般的な自動車触媒では、使用を続けている間に触媒金属が大きく固まってくることにより、性能劣化が起こります。それに対し、貴金属複合ペロブスカイト型酸化物触媒では、必要に応じて貴金属が担体であるペロブスカイト型酸化物の中に原子の状態にまでばらばらになって入り込んだり(固溶)、担体の表面に出てきて適度な大きさにまで集まってきたり(析出)を繰り返すことができます。その結果、大きく固まってしまうことが避けられ、性能劣化が起こりません。このような自己再生機能を有している触媒をインテリジェント触媒と呼んでおり、本研究グループの一部の研究者が開発に関わってきました。この機能はSPring-8を用いた解析により解明され2002年に科学誌「Nature」に掲載されました。また、触媒は同年に実用化され、600万台以上の自動車に搭載されてきました。

3) 触媒となる貴金属とその担体との間での電子の動き

今回の研究では、インテリジェント触媒が働いているときに、触媒となる白金と担体中の金属の間で電子が動き、混じりあった状態(混成軌道)をできていることを捉えることができました。触媒と担体の間で電子がどのくらい動いているか、強く混じり合っているかが白金と担体の間の相互作用の強さを反映しており、さらには自己再生機能の鍵である、と言えます。

相互作用が非常に弱い一般的な自動車触媒(Al2O3担体)では自己再生できませんが、相互作用が強すぎるインテリジェント触媒(CaZrO3担体)では、逆に反応ガスである一酸化炭素(CO)と結びつく能力が落ちてしまいます。担体と触媒の間の電子の動きを適切に制御することが、自己再生機能、触媒機能の向上には必要である、ということになります。

4) 大型放射光施設SPring-8のビームラインBL11XU

図4

兵庫県西播磨にある大型放射光施設SPring-8の中に、原子力機構は4本のビームラインを有して研究開発を行っています。その一つであるBL11XUに共鳴非弾性X線散乱法のための測定装置(写真)が設置されています。


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