【研究背景】

地球のマントルの底には、地震の波の伝わる速さが異常に遅くなる領域がわずかにあるとされ、主に南太平洋とアフリカ大陸の真下に多く観測されることが知られています(図1)。この地震波超低速度域の原因として、マントルの底に重いマグマが存在している可能性が指摘されています。また、この重いマグマは、高温のマントルの底に現在に至るまで固化せずにわずかに残っている四十数億年前の地球誕生時に地球を覆っていたマグマの海(マグマオーシャン)の名残とも考えられています。

一方で、近年の地震学的な観測によると、南太平洋とアフリカ大陸の下には、核からの熱を受けて高温になったマントル成分が「スーパーホットプルーム」と呼ばれる巨大な上昇流として存在していることが知られています(図2)。このスーパーホットプルームは、地表での火山活動へ非常に大きな影響を与えており、アフリカ大陸の大地溝帯(グレート・リフト・バレー)の形成や、南太平洋に点在する、ハワイ・タヒチ・サモア諸島等の火山活動の源であると考えられています。

マントルの底は、ドロドロに溶けた鉄を主成分とする外核と接しており、高温の核から低温の岩石相へ熱が伝わる地球最大の熱の境界面でもあります。したがって、核―マントル境界での熱の伝わり方を明らかにすることは、地球のマントル対流、ひいては地表の火山活動の根源を理解するうえで大変重要です。しかし、マントル底部にごくわずかに存在するとされる、重いマグマの熱の伝わり方に注目した研究はこれまで無く、またマントル深部に相当する極限的超高圧力条件における実験は技術的に極めて難しいため、これまで世界のどの研究グループも成功していませんでした。

【研究内容と成果】

本研究では、マントル底部に存在するとされる重いマグマと同じ成分(ケイ素、マグネシウム、鉄等の酸化物)を持つガラス物質をマグマの模擬試料として、「ダイヤモンドアンビルセル」という超高圧力発生装置を用いて(図3)、マントル深部に相当する80万気圧までの超高圧力条件における再現実験を行いました。その結果、圧力を上げるにしたがって試料の色が著しく「暗く」なることを発見しました(図4)。

さらに、大型放射光施設SPring-8(※1)の日本原子力研究開発機構ビームライン(BL11XU)における放射光メスバウアー分光法(※2)の結果に基づき、試料中に含まれる鉄の電子状態が圧力の増加にしたがって緩やかに変化することが、深さとともに徐々に試料が「暗く」なっていく原因であることを突き止めました。

物質が持つ色は、物質の熱の伝わり方(放射熱伝導率)を反映する指標であり、一般に、物質の色が暗くなればなるほど、熱は伝わりにくくなると考えられます。そして、本実験結果から予想されるマントル底部における重いマグマの放射熱伝導率は、周囲を取り囲むマントルの鉱物よりも5倍から25倍程度も小さく、熱が伝わりにくくなることが明らかになりました。

周囲よりも熱を伝えにくい重くて「暗い」マグマは、核からマントルへの熱の輸送を妨げ、たとえその存在がごくわずかであっても、核―マントル境界での熱流量に著しい不均質構造をもたらすものと予想されます。その結果、このマントルに生ずる大きな熱流量の差によって、マントル底部に根っこを持つスーパーホットプルームが生み出されるものと考えられます(図5)。

この結果は、マントル底部での地震波観測異常とスーパーホットプルームの発生という地球科学の二つの大きな謎に対して整合的な説明を与えるものであり、四十六億年の地球の進化史を理解するうえで、非常に重要な成果であるといえます。

なお、この研究は日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(A)(#25247087)、若手研究(A)(#22684028)、挑戦的萌芽研究 (#21654075)、及び東北大学学際科学フロンティア研究所のプログラム研究(研究代表者:村上元彦)の支援を受けました。


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