【背景と経緯】

核融合炉では燃料プラズマを数億度にまで加熱する必要があり、加熱方式の1つとして、周波数が100ギガヘルツ(GHz)帯、パワーが数万キロワットのマイクロ波をプラズマに入射する方式が考えられています(この方式の加熱原理は電子レンジと似ていますが、周波数は電子レンジの約50倍、マイクロ波出力は数万倍です)。 核融合炉では磁場の強さが場所により異なっていて、プラズマ中に入射されたマイクロ波は、磁場強度に比例した特有の周波数(サイクロトロン周波数)に対応する場所でピンポイントで吸収されます。 そのため、異なった周波数のマイクロ波を用いることにより、異なった場所を加熱することができます。 この性質を利用すると、入射するマイクロ波の周波数を変えて、加熱する位置を制御することで、核融合反応の効率を高めたり、プラズマ中で発生した乱れを抑制したりすることにより、炉の性能を向上させることができます(図1)。

図1
図2

核融合炉用のマイクロ波加熱装置では、1基あたり1000キロワットの高出力が可能な「ジャイロトロン」がマイクロ波源として想定され、開発が進められています。 図2にジャイロトロンの構造を示します。 ジャイロトロンでは、まず、電子銃から引き出した電子を強磁場中で加速し、らせん状の運動をさせながら共振器に導きます。 共振器では、電子ビームのエネルギーのうちの半分程度をマイクロ波に変換します。 その後モード変換器において、マイクロ波を出力後の伝送に適した分布に整形して、出力窓から出力します。 出力されなかったエネルギーは、損失としてジャイロトロン内部の機器を加熱することから、長時間高出力の妨げとなります。 そのため、従来は出力マイクロ波の周波数を1つに絞って部品形状等を設計するのが一般的で、複数周波数に対して長時間高出力を実現するように設計条件を両立させることは困難でした。

【研究の手法】

原子力機構では、複数周波数化の第1歩として、2つの周波数が選択的に出力可能なジャイロトロンの開発に着手しました。 1000キロワット級の出力のもとで、2つの周波数のマイクロ波を1基のジャイロトロンで発生させるためには、共振器の形状・寸法、超伝導磁石における磁場分布に加え、電子ビームの特性(らせん運動の巻き具合)を適切に選ぶことにより、複数のマイクロ波空間分布(モード)の中から、高いパワーが発生できるような分布を得ることが必要です。今回、3極型電子銃がもつ「電子ビームの特性がきめ細かく変えられる」という利点を活かすことで、2つの周波数の両方で高いパワーが発生できる条件が複数得られることに着目しました。 これらの条件の中から、モード変換器での損失が効果的に低減でき、かつ出力窓での反射がない条件を選ぶことで、マイクロ波の高パワー発生と低損失を同時に実現するという方針を立て、設計を進めました。具体的には、①共振器において高い効率でマイクロ波に変換することが可能な周波数と共振条件の組を選択する、②変換・整形時の損失が2つの周波数で同時に小さくなるようなモード変換器の形状とする、③出力窓で反射してジャイロトロン内に戻るマイクロ波が少なくなるような周波数の組み合わせにする、といった工夫により、1000キロワット以上の出力で100秒以上の長時間出力が両方の周波数で可能なジャイロトロンを設計することができました。 周波数としては、JT-60SAにも適用な可能な110ギガヘルツと138ギガヘルツを選択しました。 これらの周波数は、その半波長(波長=周波数/波の速さ)の約4倍および約5倍といった整数倍が出力窓の厚さ(2.3ミリメートル)となるように選ばれています。

【得られた成果】

今回新たに設計・製作した2周波数ジャイロトロン(図3)を用いて調整を進めた結果、110ギガヘルツと138ギガヘルツの2つの周波数で、核融合炉で必要なレベルである1000キロワットの出力を100秒以上の長時間にわたり維持することに世界で初めて成功しました。 ジャイロトロン各部の温度は出力時間とともに増大しますが、一般に数10秒から100秒程度経過すると一定値に落ち着きます。 今回100秒間の出力に成功したことから、それ以上の時間の出力も可能であることが実証されました。 図4に、世界のジャイロトロン開発において、2つの周波数の両方で達成したジャイロトロン出力(500キロワット以上)と出力時間(0.1秒以上)を示します。 ジャイロトロンの複数周波数化に関する開発は世界で進められていますが、今回上記の領域に到達したことで、2周波数ジャイロトロンは実用化レベルに到達しました。

図3
図4

【今後の予定】

今回開発した2周波数ジャイロトロンは、現在、日欧共同で茨城県那珂市に建設中の超伝導トカマク型核融合実験装置JT-60SAにおいて使用する予定です。 出力マイクロ波の周波数を切替えできる特長を生かし、広範な実験条件においてプラズマ中の乱れを抑制して、プラズマの圧力を高めることで、実験装置の高性能化を目指します(図5、図6)。 また、今後、2周波数ジャイロトロンをさらに発展させて、加熱位置可変式マイクロ波加熱装置を実現することにより、核融合反応の効率を高めることが可能となり、核融合炉の高性能化に貢献することができます。

図5
図6

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