直接観測された物質物理学の謎「隠れた秩序」|日本原子力研究開発機構:プレス発表

発表内容

研究の背景と経緯

物質の状態は、さまざまに変化すること(例えば、水から氷への変化)が知られていますが、物理学においては、このような状態の変化は「相転移」(※1)とよばれており、相転移において対称性が変化することが知られています。対称性とは、ずらしたり回転したりした時に見え方がどう変わるかによって決まるもので、例えば正方形は90度回転させても同じように見えますが、菱形では180度回転させないと同じに見えないことから、これらは回転対称性が異なるということになります。したがって、物質が示す状態そのものの理解は、相転移によってどのような対称性が変化したかを明らかにすることが最も重要です。

電子同士の相互作用が強い「強相関電子系」(※2)物質として知られているウラン化合物URu2Si2では、17.5ケルビン(約マイナス256℃)という低温で相転移を起こすことが1985年にオランダ、ドイツ、アメリカの3つの研究グループによりほぼ独立に発見されました。しかしながら、その発見以降30年近くにもわたる精力的な研究にもかかわらず、この相転移の本質である、対称性がどのように変化したかということが不明の状態が続いていました。この相転移は、良く理解されているどの相転移とも異なり、多数の著名な理論家たちも長年にわたり取り組んできた問題であり、現在までに20以上もの異なるモデルが提唱されてきましたが、どれが正しいものであるのかわかっておらず、「隠れた秩序」(※3)のミステリーとして物質物理学の重要課題の一つになっています。

そのような状況の中、芝内教授らのグループは、2011年に磁気トルク測定により回転対称性が破れている可能性を見出しました。(参考:Science誌掲載時のプレスリリースhttp://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news_data/h/h1/news6/2010/110128_1.htm)しかしながら、この研究では磁場を加えた状態で測定を行っていたため、磁場により状態が変化した可能性があり、磁場を加えない本来の状態がどのようになっているかはわかっていませんでした。さらに、2011年の研究は間接的な証拠を用いて回転対称性の破れを推察したため、磁場を加えずに空間対称性を直接的に観測できる、決定打となる証拠が求められていました。

研究成果の内容と意義

この強相関電子系物質における重要な問題を解決するために、芝内教授らのグループは磁場を加えない状態でのX線回折を用いた結晶構造解析の研究を始めました。これまでのX線回折の結果では、隠れた秩序の相転移温度において結晶構造は正方形状のまま変化しないと報告されており、回転対称性の破れは観測されていませんでした。そこで、グループは大型放射光施設SPring-8(BL02B1)(※4)においてエネルギーと回折計の最適化を行うことで通常よりも1桁分解能を上げ、さらに測定に用いる試料も日本原子力研究開発機構において開発された従来に比べ約30倍以上純度の高い単結晶試料を用いることで精密測定を行うことに成功しました。その結果、図1のように、回折ピークが相転移温度以下で分裂することを見出しました。この結果から、この系の結晶構造が図2のように同定され、相転移よりも高温で保たれていた正方形状の4回回転対称性(図2左)が、低温では菱形状の2回回転対称性(図2右)に低下していることを突き止めました。

この結果は、磁場をかけない状態における回折実験という直接的な方法で、回転対称性が破れていることを初めて実験的に明らかにしたものです。この結果により、これまでは間接的な証拠によって類推されていた隠れた秩序状態の空間対称性が決定されたことになります。また、得られた2回回転対称性は、通常の物質で簡単に予想される対称性の破れ方とは異なり、自明でないタイプのものであり、今後なぜこのような相転移が起こるかを明らかにすることにより、物質中の電子が示す新しい状態の理解へとつながることが期待されます。

発表雑誌

書誌情報:英国科学誌Nature Communications vol.5, Article number: 4188 (2014). 論文タイトル:「Direct observation of lattice symmetry breaking at the hidden-order transition in URu2Si2
著者:S. Tonegawa, S. Kasahara, T. Fukuda, K. Sugimoto, N. Yasuda, Y. Tsuruhara, D. Watanabe, Y. Mizukami, Y. Haga, T.D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. Ikeda, Y. Matsuda, T. Shibauchi
doi:10.1038/ncomms5188


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