直接観測された物質物理学の謎「隠れた秩序」|日本原子力研究開発機構:プレス発表

用語解説

(※1)「相転移」

ある温度や磁場などの条件下で安定な状態にあることを、その状態の「相」にあるとよび、例えば固体や液体の状態にあることは「固体相(あるいは固相)」、「液体相(液相)」などとよびます。物質中に存在する多数の電子の集まりも電子状態として色々な条件で異なる相を持ち、磁石になる状態を「強磁性相」、超伝導になる状態を「超伝導相」などとよびます。温度などの条件が変化すると、ある相から異なる相へと変化することがあり、このような変化を「相転移」とよびます。相転移では、多くの場合、系の対称性が変化します。どのような対称性が変化したかによって、それぞれの相の物理的な特徴が決定されます。

(※2)「強相関電子系」

通常の金属や半導体では、電子同士の反発力はあまり重要ではなく、現代のエレクトロニクスの基礎となる物理学は、このような電子間の相互作用を無視した理論を基に構築されてきました。これに対し、f電子を持つレアアース化合物やウラン化合物などでは、電子間の相互作用が無視できないほど強くなり、従来の理論の枠組みでは理解できない現象が現れる場合がしばしばあります。このような強い電子間相互作用を持つ系のことを強相関電子系とよび、これらの系における電子の振る舞いを理解することが物質物理学における最重要課題の一つです。

(※3)「隠れた秩序」

物質が示す相転移の種類は数多くありますが、そのほとんどは、どのような相からどのような相への変化であるかはわかっており、その時にどのように対称性が変化するかもわかっています。1985年(昭和60年)に発見されたウラン化合物における相転移については、比熱が変化することから相転移があること自体は明白ですが、どのような状態の変化が起きてどのような対称性の変化が起きているのかが明らかにされず、隠れた秩序(Hidden Order)とよばれてきました。相転移における状態の変化は、秩序のあり方が変化しているともとれるため、相転移温度以下の状態で何かしらの秩序が形成されたという意味でこのようによばれるようになりました。最近では、正体不明の相転移を一般的に隠れた秩序とよぶこともありますが、物質物理学ではこのウラン化合物における隠れた秩序が発端になっており、現在でも大きな謎として精力的に研究が行われてきたものです。

(※4)大型放射光施設SPring-8

SPring-8は兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を生み出す理化学研究所の施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来しています。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のことです。SPring-8ではこの放射光を用いて、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われています。本研究では、この施設の単結晶構造解析用ビームラインBL02B1を利用しました。

添付資料(図): http://qpm.k.u-tokyo.ac.jp/press/nc201406.pdf

図1

図1:X線回折ピークの温度変化。青線は従来の純良でない試料。丸印は今回の超純良試料の結果。隠れた秩序相転移温度より高温(黒丸)では単一のピークであるのに対し、低温では2つのピークに分裂する様子が観測された。

図2

図2:ウラン化合物URu2Si2の結晶構造の模式図(上)とab面内のウラン原子の配列の模式図(下)。隠れた秩序相転移温度以上の高温では正方晶の構造(左)を持ち、面内では正方形の4回対称性を有する。今回明らかになった低温の構造は斜方晶(右)であり、面内で菱形の2回対称性を持つ構造になっている。


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