強磁場で引き出されたウラン化合物の特異な磁性 ─世界最高磁場で核磁気共鳴法を応用─|日本原子力研究開発機構:プレス発表

用語解説

(注1)ハイブリッド磁石

図6

図6: 米国フロリダ州タラハシーにあるNHMFLの45テスラハイブリッド磁石。

磁場の単位1テスラは、1万ガウスに相当します。その磁場が如何に大きいかを想像してもらうための数字を挙げると、家庭用の磁石入り絆創膏では、100ガウス (0.01 テスラ) 程度の磁石を使っています。通常の実験室では、超伝導磁石を用いて10テスラ程度の磁場を発生できることができます。しかし、これ以上の強磁場を発生させるには、特殊な工夫が必要になります。NMR法に必要な強磁場を発生させるためには、通常、水冷電磁石方式 (コイルに大電流を流すと発生する熱を、大量の冷却水で除去する方式) が採られます。大電力と大量の水を確保するため、国家プロジェクト級の大型研究施設が必要となりますが、20 テスラ超の強磁場を発生させることができます。この外側に超伝導磁石のプラットホームを併設するのがハイブリッド方式と呼ばれるものです。ハイブリッド型強磁場発生施設は、米国を始め、日本、ヨーロッパ等に建設されていますが、35テスラ以上の安定磁場発生に成功しているのは、米国のフロリダ州立大学国立強磁場研究所(NHMFL)しかありません。図6は、今回使用したNHMFLの45Tハイブリッド磁石の写真です。


(注2) 核磁気共鳴 (NMR) 法

原子核位置におけるミクロな磁気情報を得るための実験手段。核磁性 (核スピンと言います) の大きさは、電子磁性の大きさの1000分の1程度しかなく非常に小さいため、電子は、核スピンの影響をほとんど受けずに運動しています。一方、核スピンは、周りの電子磁性の影響を強く受けており、核スピン回転を精密に測定すると、電子磁性や電子運動に関する情報を直接得ることができます。具体的には、核スピン回転の周波数と同じFMラジオ波を試料に与えて、そのエネルギー共鳴・吸収を測定します。磁場や周波数を変えて、このエネルギー吸収をプロットしたものがNMRスペクトルです。医療分野で活躍するMRI (磁気共鳴イメージング) は、体内組織中の1H (プロトン) 核スピン回転運動の「ムラ」を図示したもので、生体に対して低インパクトであることから広く普及しています。

(注3) ウラン化合物URu2Si2 (ウラン・ルテニウム2・シリコン2)

1985年に、ウラン化合物URu2Si2が極低温17.5 ケルビン(約マイナス256℃)で相転移することが発見されました。当初は、類似の化合物でよく見られる反強磁性転移 (ウラン電子の微小磁石が、乱雑に運動している状態から、交互に整然と並んだ状態への変化) という磁気転移ではないかと疑われましたが、その後の研究によりこのような単純な磁気転移ではないことがわかっています。25年以上にもわたる精力的な研究にも関わらず、電子の何が秩序整列したのかが謎のままです。研究者はこのミステリーを「隠れた秩序」と名付け、この正体を探る実験・理論研究が世界中で行われています。この「隠れた秩序」の転移温度は、磁場をかけると徐々に低温に下がってゆきます。そして、およそ35テスラのところで、この転移温度は、ほぼ0になって、さらに磁場をかけると、「隠れた秩序」とは異なる磁気的秩序相が突如として現れます。(図2参照)この磁気的秩序状態の詳細を調べるための実験は、NHMFLのハイブリッド磁石を用いて、初めて実現可能となります。 

(注4) ウラン電子

図7

図 7: 電子軌道の例。

原子は、原子核と電子によって構成され、電子がいくつ原子核の周りを回っているかで元素は分別されます。各々の電子が回る軌道は、その形状からs, p, d, f と区別されます。図7にその電子軌道のいくつかをイラストにしました。最も原子核から遠い位置の電子(最外殻電子)がどの軌道に入っているかで元素周期表は作られており、元素の性質を特徴づけられます。周期表最下段に位置するアクチノイド系列の最外殻f電子軌道を5f電子軌道と呼びます。ウラン電子は、5f電子軌道を「ぐるぐる」回っています。図7にその一部を示しましたが、ウラン電子の電子軌道は、球対称なs軌道に比べて極端に「扁平」だったり、「とんがって」いたりする特徴があります。


(注5) 電子スピン

電子が回転運動をすることで生じる磁気的性質で、量子力学的な重要な自由度の1つです。電子の自転により生じる磁場と、電子が原子核の周りの電子軌道を公転することによって生じる磁場とが合成されて、あたかも微小な磁石が原子の位置にあるように考えることができます。強磁性秩序とは、この微小な磁石が同じ向きに整列することをいいます。


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